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230.進歩や発見の女神は‥虫を殺したって気にしない顔で笑う。

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「密かに‥魔薬を買う「お客さん」を減らすと同時進行で、魔薬の原料をこれ以上増やさないようにする。ただし、派手に森を破壊するとかじゃなくて、魔素を減らして‥薬草の育成を妨げる。
 ‥魔素を吸い取るいや~な植物とかないかな。それを森にこっそり植えてやるんだ」
 コリンが嫌な笑いを浮かべて言った。
 コリンは、相変わらず、サドっぽいところがある。
 だけど、彼は「僕はサドなわけじゃない。人の顔苦しむ顔見て、喜ぶとか‥そういう趣味はない。寧ろ、人の反応とかどうでもいい」のだと言う。
 幼い頃から彼の父さんが口を酸っぱくして言って来た
「何かをする前には、それが誰かの迷惑にならないかをまず考えなさい」
 は、‥彼の耳に残ってなかったし、
「卑怯なのはダメだ」
 っていう(会社の第二のお父さん)ザッカさんの「騎士道精神」みたいなのも、馬耳東風‥右から左って感じだったし、
「公序良俗に反することはしない。法律を守りましょう」
 っていうナナフルさんの言葉なんか‥記憶の片隅にも残ってなかった。
 彼のモットーは一つ、
「どんな時でもフットワークは軽く。それの邪魔になる様な倫理観だとか騎士道精神とかスポーツマンシップ? そういうの要らない」
 つまり、「スピード重視、自分勝手にやりたい放題」ってこと‥。

「魔素を吸い取ると他の植物の成長にも影響が出て、森の生態系が変わるといけない‥。魔薬の原料の薬草の成長だけを邪魔するように成長する植物ってのはどうだ? 例えばつる植物みたいに、巻き付く‥とか? 」
 ザッカが首を傾げながら言う。
 巻き付いて、覆いかぶさり、巻き付かれた植物が水分を吸い取るのを妨げる‥。
 そういうのを想像したんだ。
 考えて‥「それいいな」って植物図鑑を取りに立ち上がる。
「虫でもいいよね」
 は、ロナウだ。
「虫がむしゃむしゃ~って食べるの♪(← なんか、平和だね~とか思ってる)で、体内で無毒化して、排出されるときは無害ってね! 」
 ふふって笑ったロナウの意見に
「虫は知らないけど‥、そういう魔獣いたんじゃない? 特定の植物を好んで食べる魔獣。あの(魔薬の原料の)薬草を好んで食べる魔獣もいるかも? 」
 ってナナフルが乗っかった。
 肉食の魔獣は流石に怖いけど、草食の魔獣だったらそんなに怖くない。って思ってるんだろう。実際ウサギっぽい魔獣とかC肉とか‥小型の草食魔獣は見るだけだったら可愛い。(こっちが見てることに気付いたときは、威嚇が凄くって怖いけど‥。そりゃ、奴らだって命がかかってるからね)
 ‥だけど、そういう小さいのの近くにはそれを食べる全然可愛くない中型の肉食魔獣がいるし、(稀に)その近くには、それを食べる(もう恐怖でしかない)大型の肉食の魔獣がいるんだ。

 だけど、まあ‥僕にとっては小さいか大きいかの差でしかないけど。もっと言えば、美味しいか美味しくないかの違いだな。(草食魔獣は美味しい、肉食魔獣は硬くてマズい)

 ナナフルの笑顔につられて微笑んでるコリンがそんなこと考えてるなんて、誰も知らないんだ。

「別に本当にいる動植物じゃなくてもいいんですよ」
 コリンが「ふむ」と考えて言うと、
 フタバが頷き、
「‥そうですわよね。いなければ、作ればいいのですわ」
 にっこり微笑んで、「いつかの」コリンの様な事を言った。
 コリン同様、虫をも殺さないような可愛らしい笑顔で‥だ。
 その笑顔を見ながら「人は見掛けに惑わされちゃいけないよな」ってロナウは思うのだった。

 綺麗な花には絶対毒とか棘がある。‥綺麗な花は遠くで鑑賞するだけでいい。
 僕は、素朴で無害なぺんぺん草の様な優しい恋人と幸せで平和な結婚がしたい‥。

 苦笑いしながら、ちらりと心の中でそんなことを考える。
 だけど実際、ぺんぺん草は棘も毒もないかもしれないけど、繁殖力が凄くって農家の皆さんを悩ませる雑草だ。
 ‥人間生きてる上で、誰にも迷惑かけないとか有り得ないんだろう。

「魔道具の作成は無理でも、魔法陣の作成なら私もできますわ」
 と、フタバ。
「一緒に作ろうか~」
 って言ったのは、楽しそうなコリン。
 そして
「いいですわね! 」
 ってフタバが喜び、二人でにっこり。
 その後その計画は即座に「実行前提の作戦会議」に移行し、二人だけでサクサクと意見交換が進められるのだった。
 「スピード重視、自分勝手にやりたい放題」は、コリンだけじゃない。

 数分後、その「全くないものを生み出すための会議」は、あっさり終わった。
「どうせなら、勝手に飛んでいける羽虫タイプにしようか! 」
「それがいいですわ! なるだけ、小さくしましょうね! 」
 したいって思えば、実現できるような技術と発想力を持っているのが‥「スピード重視、自分勝手にやりたい放題」タイプには必須条件ってこと。

 フタバもコリンも「ヤバい魔法」を創造するのに躊躇はない。
 もし失敗したら‥とか考えない。
 デメリットとかメリットとか‥どうでもいい。周りの生態系に与える影響? ‥影響が出る前に撤退すればいい。長期的に見て‥とか、考えない。問題が起きればその都度対処すればいい。

 経過観測? 誰かが苦情を言ってきたら反応するだけで、わざわざそういう目で見てなくてもいいでしょう?

 ‥むしろ、「周りに与える影響」とか考えるようになっただけでも、‥彼らにとって随分な進歩だ。

 数日後これらの森は、「ヤバい魔法陣の埋め込まれた人工の羽虫」の被害を受け、薬草が全滅するのだった。


 結果を聞いて満足そうにほの黒い‥でもぞくっとする程美しい微笑を浮かべる女神たち(コリンとフタバ)を見ながら、ロナウは、
 純粋で優しく、虫をも殺さない笑顔は美しいけど、「(目的の為には)虫を殺しても気にすらしない」こういう‥残酷な笑顔もまた、純粋な笑顔ともいえ‥美しい。

 純粋で優しい‥は誰かを癒す力になるけど、何かを生み出す‥進歩や発見の母は、こういう‥虫を殺しても気にしない黒い微笑を浮かべるのかもな‥。

 迷いがないから、純粋で美しい「進歩や発見の女神たち」
 進歩や発見の女神の条件は、「スピード重視、自分勝手にやりたい放題」が実現できる実行力と頭脳、そして他者を思いやることで足を止めたりしない非情さ、(そして何より)そんな自分‥自分勝手でやりたい放題な自分‥に対して何らかの危惧意識を持たない図々しさだな。

 と、(自称唯一まともな)ロナウは思うのだった。
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