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273.親子の再会。ただし、そこに感動なんて全然ないのだった。

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「ナナベル‥っ」
 ナナベルを見る夫人の顔は真っ青だ。
 夫人を見るナナベルの表情は‥一言で言えば無だ。

 なんの感想もない‥って表情。
 その様子を影で見守りながらコリンたちは「そんなもんだよな~」って思った。
 別に‥
 感動の再会とか全然予想してなかった。
 だけど‥長女が計画したみたいに「夫人がナナベルを殺す」ような状況って‥ならんでしょっとは‥思った。
 だって、この二人にそれだけの感情なんてないだろうから。
 あったら、今まで殺す機会はいくらでもあった。
 ナナベルから‥は無理でも、ナナフルさんの母親も暗殺したような夫人にはそんなこと簡単だっただろう。
 だけどしなかった。
 多分、夫人には「そこまでする必要が感じられなかった」んだろう。
 ナナベルの動向くらいは監視してるかなって思ったけど、それも「してなかった」っぽい。
 きっと何か問題があったらもみ消したらいいかって位に考えてたんだろう。
 (ナナベルはどうせ)もみ消せる位の事しかしないだろうって思ってるんだろう。
 
「ナナベルを監視してた奴? 長女じゃない? 」
 ってザッカが予想したとき、周りの皆も同意した。
 長女に会ったことは無いけど、ナナベルの話と夫人の感じから‥そんな風に推測することは容易だった。
 実際は知らない。けど‥
 ‥多分、間違ってはいないだろう。

 長女はきっと頭がいいっていうより、計画派。だけど冷酷なわけじゃなく‥臆病さから慎重になるタイプ。
 夫人はその点結構楽観的。人に指示して結果を報告されたら‥後は「ま、これでいいだろう」って安心して忘れちゃうタイプ。「バレるかも‥」とか考えない。(アンバーの分析では「詰めが甘いタイプだな」らしい)
 だけど、長女は、悪いことしたあと「バレたらどうしよう‥」って常に気になるタイプ。じゃあ後ろめたいことなんてしなければいいって思うけど、そういうわけにはいかない。
 良心が咎める‥とかじゃない。ただ、バレるのが嫌なだけ。
 自分の手を汚したくない。「けど」結果は得たい。「けど」‥絶対自分が仕組んだことだってバレたくない。
 一番「汚い」タイプ。

「大物感はないよね。責任は取らずにいいとこどりしたいとか‥一番嫌いなタイプ」
 アンバーが呆れたように笑った。アンバーは続けて
「ナナベルみたいに悪人ぶった子供より、たちが悪い」
 って酷評した。
 ‥悪人にたちがいいも悪いもない気がするんだけど‥
 他のメンバーがこっそり苦笑いしたのはアンバーには内緒だ。

「ナナベルさんと夫人が会うように長女が仕掛けてくる。それを僕らは止めなかったらそれでいい。長女の計画を僕らが利用させてもらうってわけだ」
 にやりとコリンが笑った。
 その後は、長女の計画通り(推測)「二人が差し違える」ってことにならないように自分たちが止めればいい。
 首を傾げながらロナウが
「長女はナナベルの居場所を把握してるって予測してる? 」
 コリンを見て尋ねると、コリンは軽く頷く。
「‥ナナベルは、誰の監視かとは確信を持ててなかったようだけど、誰かに監視されているって言っていた。
 だけどこの前、例の大イリュージョン大会で会った時には‥ここに居る全員で確認したが、「あの時は」いなかった」
 話し合いの場ではコリンが確認したが、魔力は感じなかった。コリンの様に隠密スキルで潜んでいたってことは考えられないだろう。そのことは、アンバーも同意している。
 それどころか、あの会場に異質な存在の出入りはなかったと確信している。
 あの場にはいなかったが、ナナベルを監視しているとき、他の誰かの存在に気付いた。‥きっと、あれがそうだろう。
 アンバーによると‥
「どこで何をしているか逐一報告するって感じの監視じゃなくって、居場所を確認してるって位のあま~い監視だろう。‥それこそ、住所を調べて、今そこに住んでるかって確認する程度の‥」
 らしい。
「まあ‥そんなガチな情報屋を雇える伝手とかないだろうし‥そもそも、ガチな奴は高いからな」
 って言ってアンバーに同意したのはザッカ。
「理想の結婚をして‥当然婚家に嫌われたくない‥疑われたくないであろう長女は‥きっとあんまり大金は使えないだろ? ‥監視を24時間つけるってなったら、人を最低でも二人は雇わなきゃいけないだろ? そしたら、「貴族の夫人のお小遣い」のレベルを軽く超えるからな」
 ザッカは裏社会の人間じゃないけど、情報を集める者としてそういうことはそこそこ詳しい。ナナフルと情報屋を会わせるようなことは絶対したくないから、その手の情報収集は全てザッカの仕事だ。
「成程ねえ‥」
 ロナウとコリン、フタバの「おこちゃま組」は素直に感心した。
 ザッカとアンバーはそんな三人に苦笑いすると、
「居場所の確認位だったら、そんなにかかんないだろう。でも‥まあ、足元も見られるだろうしね」
 依頼人が貴族の若い娘って‥どう見ても「訳アリ」だもんね。「御主人には知られたくない依頼でしょ? 」とか言われたり‥とか?
 結婚して家を出てるから実家のお金を使うのも簡単じゃないだろうし‥。何より、エンヴァッハ伯爵(父親)にバレたくないだろうし。
 だから、「そこそこのお金」で雇える「そこそこの情報屋」の「その程度の情報」ってわけだ。

「‥姉妹って何だろうって思うな。妹の安否確認の為じゃないんだもんな」
 ふう‥ってコリンがため息をつく。
 自分たちの兄弟は仲がいいからそういうのわかんないやって思う。
 はは、ってロナウが乾いた笑いを浮かべる。
 ‥自分たちの兄弟仲はよくはないが、‥ここまでこじれてはいない。両親とかも、僕が本格的に気に入らなくなったら「出てけ。今後一切お前はこの家とは無関係だ」で終わりそう。
 僕がどこかで野垂れ死にしてても気にしないだろうけど、わざわざ暗殺者を雇うなんてことまでは絶対しないだろう。‥そこまでする価値なんてないもんね? (その程度の存在ってのも‥ちょっと凹むよね)
 フタバにも兄はいる。だけど‥兄は自分のことに割と無関心だったなあ。無関心だけど‥「殺したい」とか思う理由はない。「問題なく無事ならそれで‥」って程度にしか思われてないだろうけど。(逆に、妹を殺すために自分の手とかお金を使うとか、彼らはきっと考えないだろうね)
 シークにもザッカにもアンバーにも兄弟はいない。
 だけど、ザッカにとっては村の幼馴染が全員兄弟のようなもんだったし、アンバーにとっては、里の仲間がそんな存在だった。シークには幼馴染はいなかったが、冒険者の大人たちが皆親父代わりだった。
 血がつながった家族じゃなかったけど、彼らは「家族の様なもの」だった。
 血がつながっていても憎み合う者もいる。だけど、血がつながっていなくても、家族より家族らしい者もいる。
「血のつながりなんてホント‥そう意味が無いものなのかもな」
 (兄弟どころか)物心ついたころから両親もいないシークとアンバーは思った。

 寧ろ、血がつながってる分、厄介なこともあるんだろう。
 目の前でにらみ合っている二人を黙って見張りながら‥ザッカとコリンはそんな暗い気分になるのだった。
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