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286.そうだ、コーヒーを差し入れしよう。(side コリン)

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 団体の力で(罰則者の先輩方の犠牲の力で)あっという間に仕事は終わり、もう「いつ協会を潰しに行くか」って段階になっていた。
 ‥あんまりあっさりで驚くし、‥なんか嫌な気持ちになる。
 いいことなんだって分かるけど‥なんかね。(わかってる。気分の問題だ)

 仕事が終わったっていっても、勿論「協会を潰す以外の仕事」が終わったわけでは無い。
 直接手を下す以外の仕事全部ってことだ。
「魔薬工場の場所ってどうやって見つけたんですか? 」
「薬草栽培場所の特定はどうやったんですか? 」
「魔薬の売人の特定は? 」
「魔薬購入者の名簿は手に入りましたか? 」
 僕は、今まで調べて来た者として、全部知っておきたかったんだ。
 しつこく色々聞く僕におやっさんも、‥意外なことに先輩たちも丁寧に教えてくれた。
 先輩たちの事、今までもっと冷たいって思ってたのに‥誤解して怖がってただけなのかもしれない。
 でも、
「魔薬工場の場所? 魔薬の売人に吐かせた」
 ってこともなげに言った先輩の表情に
 ‥やっぱ怖い。この人たち、絶対売人たちを「もう殺してくれ」って目にあわせたんだろうな‥
 って思った。
 誓約士は、人の気持ちとか基本的にどうでもいいんだ。
 売人の特定、魔薬購入者名簿なんかもそうやって吐かせた情報なんだろう。
 ‥その吐かされた売人は、僕が以前知り合ったシアン、マゼンタ、パープルそしてガーネットだった。(ガーネットは売人じゃないんだけどね)
 僕の嘘の身の上話を信じて‥心配してくれたガーネットのことあっさり売るのもどうかって思ったけど、
「うちに捕まってる方が命は保障される」
 っておやっさんに言われたからだ。
 確かに、先輩は非道だけど命までは取らないもんな。
 ‥多分だけど。
 もう殺してくれって思いを連日するのと、悪の組織に一思いに殺されるのとどっちがましかって聞かれたらきっと一思いに‥の方が楽なんだろうけど、罪は一生かけて償うべきだと思う。
 自分でこの世界に望んで入ったわけでは無いのに‥って分かるから‥心は痛むんだけどねえ。
「それも含めてその人の運命だから」
 ってザッカさんが言ってた。
 運命って言葉は残酷だね。
 あと、薬草栽培場所の特定。
 これは、僕の調べた「魔素線地図」の広範囲版みたいなものと「魔物が出る」と噂が出て立ち入り禁止になった森の情報を集めて調べた‥らしい。
 ホント、集団の力は素晴らしい。

「‥とまあ、ここまででも十分大変だったわけだけど‥これでもまだ下準備をしただけなわけだ」
 と、おやっさんがため息をつく。
 ‥まあ、そうだよね。
 下準備っていうか‥情報収集ね。
 だけど、これじゃ協会を訴える証拠には全然ならない。
「こういうのがあるのはわかっとるんだぞ」
 って言っても
「うちには関係ないです」
 って言われたら終わりだ。
「協会から紹介されて働いてる人とかいたら? それで関係がある証拠にならない? 」
 ならないだろうな~って思いながら、でも取り敢えず口にしてみたら‥思いっきり馬鹿にされた顔された。
「コリンならそう言われて認める? 」
 って‥そんな顔しないで‥。
「孤児の村の件が一番犯罪として立件しやすいかなあ。殺人、誘拐、監禁、洗脳‥」
「問題は、協会とその村の関係を証明する何かがあるか‥だな」
 先輩とおやっさんが難しい顔を寄せ合ってこそこそと打ち合わせしている。
 ここの人たちの会議って‥いつも思うんだけど‥なんかこう‥暗いんだよね。
 ザッカさんたちとの会議ってもっといろいろ意見を出し合ったり、こう‥活気があった。
 ここの会議はおやっさんにあらかじめ調べて来たことを報告して、おやっさんがそれを聞いて、分からないことを次への宿題みたいな感じで‥指示する感じなんだよな。
 もっとこの場所で
「こうやったらいいんじゃない? 」
「こういうのも調べたら? 」
 とか意見出し合えばいいのに。
 そんなことを思いながら‥僕は立ち上がり‥
 お盆に人数分のカップを並べた。
 お湯をたっぷり沸かして、コーヒー豆を挽いて‥麻袋をコーヒーフィルター代わりにコーヒードリッパーにセットして‥やかんからお湯を注ぐ。
 ‥ホントはドリップケトルとかいう注ぎ口が細くなっているヤカンを使うのがいいんだ。
「これをつかえば、お湯をピンポイントにそそぐことが出来る」
 とかっていいながら、ザッカさんが淹れてたのを見てたから間違いない。
 そうやってコーヒーを淹れるザッカさんの手つきは繊細で、何時もの「男気MAX! 」なザッカさんとは違って職人さんみたいに見えて‥かっこよかった。
 あれは、憧れる。
 だけど、ここにはそんな「気の利いたもの」勿論だけど、ない。ここの連中にそんな拘りなんてない。ドリッパーでさえもなかったから、僕が買って来た位だ。‥勿論3人前くらいの小さい奴だけど。
 それで、ここにいる‥ゆうに10人位のコーヒーを淹れる。
 粉がドリッパーから溢れそうだけど‥まあ気にしないでおく。
 ここの連中に自発的に「何かしよう」って思う日が来るなんてなあ‥。
 
 そんなこんなで入った「僕的に完ぺきとは絶対に言えないコーヒー」を皆の手元に配る。
「要らぬことをして」
 って顔されるかな? って思ったけど、意外に‥皆きょとんとした表情を一瞬した後、ぼそぼそとお礼を言ってくれた。
 きっとこういう経験が彼らには今までなかったんだろうな~って思った。
 意外なことに、この後の会議は‥あくまでも彼らにしてはだけど‥驚くほど活気のあるものになった。
 コーヒーって円滑な会議におけるコミュニケーションツールなのかもな、なんて思ったり。
 今まで、僕が彼らに対して偏見を持ちすぎてたのかもな‥って思ったり。

 ま、色々だ。

「協会の方から調べた方がいい‥とかかもしれませんね」
 コーヒーを一口飲んで、先輩が発言した。
 別に全然珍しいことでもないんだけど‥そういえばここではこういうことって珍しい。
 さっきも言ったように、ここの会議はおやっさんへの一方的な報告‥が主だから。
 ‥そういう(意見が出たりする)の、僕はいいと思うんだけど‥おやっさん的には「ここの伝統を変えやがって」的な感じになったりして‥不快な気持ちになったりするかな? 
 なんて一瞬心配しておやっさんの方を盗み見たが、おやっさんにそんな様子は見られない。
「そうだろうが‥奴らがそうそうしっぽを出したりするか? 」
 お代わりのコーヒーを自分で淹れながら、首を傾げる。
「奴らの事業内容を全部洗いなおすことから始めてみましょうか」
「それより、役員全員を24時間監視するってのは? 」
「そうだな。まず、素性を洗ってから‥な」
 おお‥次々と意見が出て来る‥。
「俺、教会出身者なんですけど‥学生時代に俺に闇属性の魔法を勧めてきた先生がいたんだけど‥今「そういう目」でみたら、奴とか‥協会のまわし者だったんじゃないかなって思うんです」
 ‥あ、僕と同じような感じ‥。
「あ、俺もそれ」
「俺らはだけど優秀だから闇属性に汚染されるまでに威圧をマスターしたけど、あの過程で闇属性に汚染されて奴らの仲間になった奴とかもいたんじゃね? 」
 ‥先輩たちも「自分たちは優秀だから」って言うのね。‥僕も言いました。ここら辺この人たちも魔術士だったんだなって感じするよね。
「協会から教会やアカデミーの先生になった。もしくは、協会の紹介で来た先生‥まず彼らから調べていこうか‥」
 三杯目のコーヒーを飲みながらおやっさんが言った。
 
 コーヒーを飲みながら、先輩やおやっさんが意見を出し合う。
 ただそれだけ‥それだけの普通の事。
 僕は今日、ここにとっては「とても大きな変化の一歩」の手助けが出来た。そう思えて‥心がほんわか温かくなったのだった。(ただ、議題はまだ解決してはいない)
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