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「……はぁ。終わりましたわね、セバス。一つの『章』が、これほどまでに汚らわしい結末を迎えるなんて。ファンとして、これ以上の屈辱はありませんわ」
リリアンさんが衛兵に連行された直後の、静まり返った夜の庭園。
私は地面に散らばった「殿下のラブレター(偽物)」を、ピンセットで丁寧に回収しながら溜息をつきました。
「お嬢様、お疲れ様でございます。リリアン様の排除に成功したというのに、浮かないお顔ですね。殿下を救った英雄としての達成感はないのですか?」
「達成感? そんなもの、一ミリもございませんわ。むしろ、私の網膜に『低品質な悪女の演技』を焼き付けられたことへの精神的苦痛で、損害賠償を請求したい気分です」
私は、回収した手紙をセバスが差し出した消毒済みのトレイに乗せました。
「見てください、この文章の構成を。殿下を誘惑する言葉選びが、あまりにもテンプレート(定型文)すぎますわ。殿下の高貴な精神性を理解していれば、もっとこう……『あなたの孤独な魂を、私の愛で浄化したい』くらいの、厨二……いえ、崇高なポエムを紡ぐべきですのに」
「……リリアン様には、そこまでの語彙力も教養もなかったのでしょう」
「それだけではありませんわ。彼女の最大の失敗は、『殿下のチョロさ』を甘く見たことです」
私は立ち上がり、夜空に向かって人差し指を立てました。
「殿下は確かに、女性の涙に弱く、少しばかり押しに弱い『チョロイン』的な側面をお持ちです。ですが、それは殿下の心が清らかで、人を疑うことを知らない『純粋無垢な魂』の表れ。それを『アホ』だなんて……。彼女は、殿下のキャラクター設定の根幹を、完全に見誤っていたのですわ!」
「お嬢様。……殿下本人が、すぐ後ろで今の言葉を聞いておいでですよ」
セバスの冷静な指摘に、私はゆっくりと振り返りました。
そこには、柱の影から半分顔を出して、なんとも言えない複雑な表情で立ち尽くすヴィルフリート殿下の姿が。
「……メメル。私のキャラクター設定とは何だ。あと、『チョロイン』とはどういう意味だ」
「ああっ、殿下! 今のその、裏切られたショックで声に力がなく、少しだけ上目遣いになっているお姿! セバス、今の『捨てられた子犬風王子』のショット、光量が足りませんが心のシャッターで撮りましたわね!?」
「バッチリでございます。背景のバラと、殿下の寂寥感が絶妙なコントラストを生んでおります」
「……聞け。私の話を聞け」
殿下が力なく私の元へ歩み寄ってきました。
リリアンがいなくなり、護衛のカイル様も事後処理に回っているため、今この場には私たち三人(と隠れた隠密部隊)しかいません。
「メメル……。君は、リリアンが私を騙していたことを、いつから知っていたんだ?」
「リリアンさんが、殿下の落としたペンを『うっかり拾ったふりをして自分の胸元に隠した』、あの日からに決まっていますわ。あんな下品な手癖の悪さ、殿下のファンを名乗る者なら一瞬で見抜けます」
「……そんな初期からか。なぜ、もっと早く私に言わなかったんだ」
「それはもちろん、殿下が『偽りの恋に翻弄されながらも、最後に真実に気づいて絶望する』というドラマチックな展開を、最前列で観測したかったからですわ!」
私が満面の笑みで答えると、殿下はガクッと膝をつきました。
「……私の絶望は、君のエンターテインメントの一部だったのか」
「誤解しないでください。私は、殿下の絶望さえも愛しているのです。傷つき、苦しみ、そこから立ち上がる殿下の姿こそが、私の魂を震わせる『最高の供給』……。私はその物語を完璧にするために、リリアンさんの悪事を裏で補完……いえ、調査していたのですわ」
「メメル様……。一応付け加えておきますが、お嬢様はリリアン様が殿下に毒を盛ろうとした際、その毒をこっそり『最高級の美容ビタミン剤』にすり替えておられました。おかげで殿下、最近お肌のツヤがよろしいでしょう?」
「……あ、ああ、確かに最近、朝の目覚めが異常に良かったが……。まさか、あいつが盛ったのは毒だったのか……」
殿下が顔を青くして自分の頬を触りました。
「そうですわ。リリアンさんの毒殺プロット、あまりにも陳腐でしたので、私が勝手に書き換えさせていただきました。……殿下。リリアンという『汚点』は消えました。これからは、また純粋な気持ちで、私の推し活を受けて止めてくださいませ」
「……嫌だ。絶対に嫌だ。リリアンが去って、ようやく平穏が訪れるかと思えば……。ラスボスが君だったなんて、私の人生、前途多難すぎる」
殿下はフラフラと立ち上がり、王宮の方へ歩き出しました。
その背中には、以前のような「隙」がなく、どこか私という存在を「本能的に警戒する」という、新しい属性が追加されていました。
「……セバス。殿下、あんなに警戒しちゃって。これでは至近距離での観測が難しくなるわね」
「左様でございますね。……ですがお嬢様。殿下は去り際、一度もリリアン様を振り返りませんでした。今、彼の頭の中を占めているのは、リリアンへの憎しみではなく、お嬢様への『理解不能な恐怖』でいっぱいです」
「素敵……。殿下の脳内シェア、ついに私が独占いたしましたわね!」
「……それが恐怖という形であっても、よろしいのですか?」
「ええ、構いませんわ! 無関心こそが最大の罪。恐怖は、愛の対極にあるようでいて、実は最も強い『執着』の裏返しなのですから!」
私は夜空を見上げ、高らかに笑いました。
リリアンという不純物を排除し、殿下との新しい関係――「獲物と捕食者」、あるいは「アイドルと過激なファン」――のステージへと進んだのです。
「さあ、セバス! 明日は殿下の『リリ・ロス(喪失感)』を癒やすための、特製・癒やしグッズを届けにいきましょう!」
「……また没収されるのがオチかと思いますが、手配しておきます」
私の「推し活」は、ついに殿下の「心の深層」へと足を踏み入れようとしていました。
婚約破棄から始まったこの騒動。本当の「クライマックス」は、まだこれからなのですわ!
リリアンさんが衛兵に連行された直後の、静まり返った夜の庭園。
私は地面に散らばった「殿下のラブレター(偽物)」を、ピンセットで丁寧に回収しながら溜息をつきました。
「お嬢様、お疲れ様でございます。リリアン様の排除に成功したというのに、浮かないお顔ですね。殿下を救った英雄としての達成感はないのですか?」
「達成感? そんなもの、一ミリもございませんわ。むしろ、私の網膜に『低品質な悪女の演技』を焼き付けられたことへの精神的苦痛で、損害賠償を請求したい気分です」
私は、回収した手紙をセバスが差し出した消毒済みのトレイに乗せました。
「見てください、この文章の構成を。殿下を誘惑する言葉選びが、あまりにもテンプレート(定型文)すぎますわ。殿下の高貴な精神性を理解していれば、もっとこう……『あなたの孤独な魂を、私の愛で浄化したい』くらいの、厨二……いえ、崇高なポエムを紡ぐべきですのに」
「……リリアン様には、そこまでの語彙力も教養もなかったのでしょう」
「それだけではありませんわ。彼女の最大の失敗は、『殿下のチョロさ』を甘く見たことです」
私は立ち上がり、夜空に向かって人差し指を立てました。
「殿下は確かに、女性の涙に弱く、少しばかり押しに弱い『チョロイン』的な側面をお持ちです。ですが、それは殿下の心が清らかで、人を疑うことを知らない『純粋無垢な魂』の表れ。それを『アホ』だなんて……。彼女は、殿下のキャラクター設定の根幹を、完全に見誤っていたのですわ!」
「お嬢様。……殿下本人が、すぐ後ろで今の言葉を聞いておいでですよ」
セバスの冷静な指摘に、私はゆっくりと振り返りました。
そこには、柱の影から半分顔を出して、なんとも言えない複雑な表情で立ち尽くすヴィルフリート殿下の姿が。
「……メメル。私のキャラクター設定とは何だ。あと、『チョロイン』とはどういう意味だ」
「ああっ、殿下! 今のその、裏切られたショックで声に力がなく、少しだけ上目遣いになっているお姿! セバス、今の『捨てられた子犬風王子』のショット、光量が足りませんが心のシャッターで撮りましたわね!?」
「バッチリでございます。背景のバラと、殿下の寂寥感が絶妙なコントラストを生んでおります」
「……聞け。私の話を聞け」
殿下が力なく私の元へ歩み寄ってきました。
リリアンがいなくなり、護衛のカイル様も事後処理に回っているため、今この場には私たち三人(と隠れた隠密部隊)しかいません。
「メメル……。君は、リリアンが私を騙していたことを、いつから知っていたんだ?」
「リリアンさんが、殿下の落としたペンを『うっかり拾ったふりをして自分の胸元に隠した』、あの日からに決まっていますわ。あんな下品な手癖の悪さ、殿下のファンを名乗る者なら一瞬で見抜けます」
「……そんな初期からか。なぜ、もっと早く私に言わなかったんだ」
「それはもちろん、殿下が『偽りの恋に翻弄されながらも、最後に真実に気づいて絶望する』というドラマチックな展開を、最前列で観測したかったからですわ!」
私が満面の笑みで答えると、殿下はガクッと膝をつきました。
「……私の絶望は、君のエンターテインメントの一部だったのか」
「誤解しないでください。私は、殿下の絶望さえも愛しているのです。傷つき、苦しみ、そこから立ち上がる殿下の姿こそが、私の魂を震わせる『最高の供給』……。私はその物語を完璧にするために、リリアンさんの悪事を裏で補完……いえ、調査していたのですわ」
「メメル様……。一応付け加えておきますが、お嬢様はリリアン様が殿下に毒を盛ろうとした際、その毒をこっそり『最高級の美容ビタミン剤』にすり替えておられました。おかげで殿下、最近お肌のツヤがよろしいでしょう?」
「……あ、ああ、確かに最近、朝の目覚めが異常に良かったが……。まさか、あいつが盛ったのは毒だったのか……」
殿下が顔を青くして自分の頬を触りました。
「そうですわ。リリアンさんの毒殺プロット、あまりにも陳腐でしたので、私が勝手に書き換えさせていただきました。……殿下。リリアンという『汚点』は消えました。これからは、また純粋な気持ちで、私の推し活を受けて止めてくださいませ」
「……嫌だ。絶対に嫌だ。リリアンが去って、ようやく平穏が訪れるかと思えば……。ラスボスが君だったなんて、私の人生、前途多難すぎる」
殿下はフラフラと立ち上がり、王宮の方へ歩き出しました。
その背中には、以前のような「隙」がなく、どこか私という存在を「本能的に警戒する」という、新しい属性が追加されていました。
「……セバス。殿下、あんなに警戒しちゃって。これでは至近距離での観測が難しくなるわね」
「左様でございますね。……ですがお嬢様。殿下は去り際、一度もリリアン様を振り返りませんでした。今、彼の頭の中を占めているのは、リリアンへの憎しみではなく、お嬢様への『理解不能な恐怖』でいっぱいです」
「素敵……。殿下の脳内シェア、ついに私が独占いたしましたわね!」
「……それが恐怖という形であっても、よろしいのですか?」
「ええ、構いませんわ! 無関心こそが最大の罪。恐怖は、愛の対極にあるようでいて、実は最も強い『執着』の裏返しなのですから!」
私は夜空を見上げ、高らかに笑いました。
リリアンという不純物を排除し、殿下との新しい関係――「獲物と捕食者」、あるいは「アイドルと過激なファン」――のステージへと進んだのです。
「さあ、セバス! 明日は殿下の『リリ・ロス(喪失感)』を癒やすための、特製・癒やしグッズを届けにいきましょう!」
「……また没収されるのがオチかと思いますが、手配しておきます」
私の「推し活」は、ついに殿下の「心の深層」へと足を踏み入れようとしていました。
婚約破棄から始まったこの騒動。本当の「クライマックス」は、まだこれからなのですわ!
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