婚約破棄?これからは、推しの殿下のトップオタクとして生きていきますわ!

黒猫かの

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「……皆様、注目して。今から、この国で最も『解釈違い』な茶番劇に終止符を打ちますわ!」

 王宮の大広間。
 本来ならば華やかな夜会のはずが、今は重苦しい沈黙に包まれていました。

 中心にいるのは、震える足で殿下に縋り付くリリアンさんと、そんな彼女を冷たく見下ろすヴィルフリート殿下。
 そして、その対面に立つのは……豪華なドレスを翻し、手に怪しく光る魔導水晶を持った私です。

「メメル! これ以上の騒ぎは……」

 殿下が私を制止しようとしますが、私は優雅に扇子を振ってそれを遮りました。

「殿下、黙って観劇していてくださいませ。これは、あなたの『気高き公式プロフィール』を守るための聖戦なのですから!」

 私は、手にした魔導水晶を高く掲げました。

「リリアンさん。あなたは殿下の愛を勝ち取ったと、悲劇のヒロインを演じておられましたわね。ですが、私の『二十四時間・全方位・推し観測アーカイブ』には、あなたのボロが……いえ、輝かしい『裏設定』がすべて記録されているのですわ!」

「な、何を……! そんな怪しい水晶に何が入っているっていうのよ!」

 リリアンさんが顔を引きつらせて叫びました。
 私は不敵に微笑み、水晶に魔力を流しました。

「セバス、第一のアーカイブ『強欲な独り言』を再生してちょうだい!」

「承知いたしました、お嬢様」

 パッ、と空中に巨大な魔法映像が浮かび上がりました。
 そこには、鏡の前で殿下からの贈り物のネックレスを噛み、金としての価値を確認しているリリアンさんの姿が。

『ふふん、このダイヤ、売ればあと半年は遊んで暮らせるわね。あのバカ王子、私がちょっと涙を見せれば、すぐにこんな高いものを……本当に、チョロいったらありゃしないわ』

「…………」

 会場全体が、凍りついたような静寂に包まれました。
 ヴィルフリート殿下の顔が、怒りと羞恥心で真っ赤に染まっていきます。

「こ、これは加工よ! メメル様が私を貶めるために捏造した映像だわ!」

「あら、見苦しいですわね。私のアーカイブは、殿下のマイナスイオンを解析してノイズを除去した、超高画質の生データ。捏造なんて不純な真似、私の『オタ魂』が許しませんわ!」

 私はさらに追い打ちをかけるように、次の映像を指定しました。

「セバス、次は第二のアーカイブ『毒盛り未遂と隠密の戦い』を!」

 映像が切り替わります。
 今度は、殿下のティーカップに怪しい粉を入れようとするリリアンさんの背後から、私が音もなく現れ、粉を『最高級ヒアルロン酸パウダー』にすり替えるシュールな光景が。

『(リリアン)これで明日には……。……あれ? なんか粉が増えた気がするけど、まあいいわ』
『(映像の中のメメル)……ふふふ、殿下の粘膜を内側から保護させていただきますわ』

「……メメル、貴様。本当にあの日、私の茶に何かしたんだな」

 殿下が震える声で尋ねました。

「ええ、おかげでその翌日の殿下の肌ツヤ、過去最高でしたわよ? リリアンさんの毒殺プロットなんて、私の『殿下健康第一主義』の前では無力ですわ!」

「…………」

 もはや、リリアンさんに反論の余地はありませんでした。
 周囲の貴族たちからも、非難の嵐が巻き起こります。

「なんて恐ろしい娘だ……」
「リリアン、貴様! 殿下を毒殺しようとしただけでなく、我が国の公爵令嬢に罪をなすりつけようとしたのか!」

 衛兵たちが一斉に踏み込み、リリアンさんの腕を掴みました。

「離して! 私は、私はただ、幸せになりたかっただけなのよ! あんなストーカー女に邪魔されなければ、今頃王妃の座が……っ!」

「幸せ? 殿下を財布としか見ていない貴女が、殿下の隣に立つなんて……。それは、最高級の宝石を泥水に沈めるような暴挙ですわ!」

 私は、連行されていくリリアンさんに向かって、勝ち誇るでもなく、ただ静かに告げました。

「リリアンさん。あなたの『退場シーン』、もっと潔ければ記録に残す価値もあったのですが。残念ながら、私のアーカイブからはすべて削除させていただきます。……解釈違いな脇役は、私の記憶にすら残る資格はありませんわ」

 こうして、偽りのヒロインは舞台から去っていきました。
 
 残されたのは、疲れ果てた表情で額を押さえるヴィルフリート殿下と、満足げに水晶を磨く私。

「……メメル。……ありがとう。と言いたいところだが、今の映像を見て、私への不信感が別の意味で頂点に達した」

「あら、なぜですの? 私は殿下の粘膜を守った英雄ですわよ?」

「粘膜と言うな! あと、なぜ私の寝室の隠しカメラ……いえ、記録鏡の視点が、天井の四隅から完璧に私を捉えているんだ!」

「それは、殿下の寝返りの角度を全方位から解析するためですわ。殿下、左向きで寝る時に少しだけ口角が上がるのが、非常に……」

「聞きたくない! 衛兵! こいつの持っている水晶を今すぐ没収しろ! いや、破壊しろ!」

「壊しても無駄ですわよ、殿下! セバスの脳内にバックアップが保存されていますもの!」

「私の脳を何だと思っているのですか、お嬢様……」

 夜会の終わりは、いつものように殿下の絶叫と、私の「尊い……!」という叫び声で幕を閉じました。

 リリアンという「バッドエンド」は回避されました。
 ですが、殿下にとっての「本当の試練」は、リリアンよりも遥かに執念深く、遥かに愛の重い、この私。

 これからは、邪魔者なしで思う存分、殿下を推させていただきましてよ!
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