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「……公爵。単刀直入に言おう。メメルを、私にくれ。今度は『婚約』ではなく、一生涯の『管理責任者』として、彼女を私の側に置きたい」
公爵邸の重厚な応接室。
ヴィルフリート殿下が、お父様に向かってこれまでにないほど深く頭を下げました。
私はといえば、お父様の背後に回り込み、殿下の「後頭部のつむじから立ち昇る決意のオーラ」を、最新式の魔導感熱紙で記録することに熱中しておりました。
「……殿下。顔を上げてください。……正気ですか? こいつですよ? 私の娘ですが、中身は殿下の私物をコレクションすることに魂を売った、正真正銘の変態ですぞ?」
お父様が、冷や汗を拭いながら私のことを指差しました。
失礼ね。私は変態ではなく、純粋な探究心を持つトップオタですわ。
「分かっている。彼女の異常……いや、特異な感性は、すでに骨身に染みている。……だが、考えても見てくれ、公爵。今の私からメメルを取り上げれば、私は誰に私の『鎖骨のライン』を褒めてもらえばいいんだ!? 誰が私の『寝返りの角度』を全方位から肯定してくれるというんだ!?」
「……殿下。それは、もはや殿下も毒されているのでは……?」
お父様が、憐れみの目で殿下を見つめました。
殿下は力強く拳を握り、お父様の机を叩きました。
「毒ではない、これは『共生』だ! メメルは私を神として崇めることで幸福を得、私はメメルに崇められることで、自分の存在意義を……その、妙な形で再確認できるようになったんだ! 彼女なしでは、私の人生は『解釈違い』の塊になってしまう!」
「……殿下、用語がメメルと共通化しておりますな」
セバスが横から、お父様に胃薬を差し出しました。
「旦那様、お諦めください。殿下はすでに、お嬢様の『推し活』という名の迷宮に、自ら首までどっぷりと浸かっておいでです。……殿下、例の契約書をお出しください」
「ああ。……公爵、これを見てくれ」
殿下がお父様の前に提示したのは、昨日私に提案した「新婚約規定」の修正版でした。
そこには、新たに『第四条:メメルによる王子の肖像画販売の収益は、全額王室の軍事費に充てる』という、とんでもなく現実的な項目が追加されていました。
「……ほう。メメルの描く殿下の肖像画は、一部の熱狂的な令嬢たちの間で金貨百枚で取引されていると聞きます。……これを軍事費に?」
「そうだ。メメルの『推し活』を国益に変える。これが私の考えた、彼女の狂気を正当化する唯一の方法だ! 公爵、メメルを王妃にすれば、我が国の軍備は世界最強になるぞ!」
「……娘を軍需産業の柱にするなと言いたいところだが。……殿下、本当に、後悔はしませんな? 寝室の壁がマジックミラーになっても、夜中に視線を感じて飛び起きても、文句は言いませんな?」
お父様の問いに、殿下は一点の曇りもない目で答えました。
「……むしろ、視線がないと寂しくて眠れん体質になってしまった。……メメルが、私をそう作り変えてしまったんだ」
「……ああっ! 『依存症の告白』! 殿下、今のその、自分の弱さを認めて自嘲気味に笑うお姿……。セバス、今の記録は永久欠番級の供給よ!」
「お嬢様、承知いたしました。……旦那様。もはや、このお二人の間には、我々凡人が立ち入る隙はございません」
お父様は、長く、長いため息をつきました。
そして、震える手で殿下の差し出した契約書に、公爵家の印章を押しました。
「……分かりました。殿下、そこまで仰るなら、メメルを差し上げましょう。……ただし、返品は受け付けませんぞ。王宮がメメルのグッズで埋め尽くされても、私は一切関与いたしません」
「感謝する、公爵! ……メメル、聞いたか! 君のお父様も認めてくれた。これで君は、合法的に私の『公式観測者』だ!」
殿下が私の手を取り、そのまま力強く引き寄せました。
……ああっ、お父様の前での『強引な独占欲』!
私は感動のあまり、お父様のデスクに置かれたペーパーナイフを手に取りました。
「殿下……! お父様……! 私、決めましたわ! 結婚式の翌日には、王宮の地下に『ヴィル様・全方位録画アーカイブ室』を増設いたします! これで殿下の全生涯を、一秒も漏らさず国宝として保存できますわね!」
「……増設は認めるが、公開範囲は制限させてもらうからな!」
「ええ、もちろん。私と、選ばれし信者たちだけの秘密の聖域にいたしますわ!」
お父様は、再び胃薬を口に放り込み、静かに目を閉じました。
「……セバス。……馬を出せ。私はこれから、先祖の墓前に謝罪しにいかなければならん」
「旦那様、墓前にはぜひ、お嬢様の新作『殿下の祈りポーズ・彫像』をお供えください。魔除けの効果があるそうです」
「……余計なことをするな」
公爵邸の応接室は、こうして「王子の敗北」と「トップオタの完全勝利」を告げる、異様な熱気と溜息に包まれたのでした。
私の推し活は、ついに国策へと昇格したのです!
公爵邸の重厚な応接室。
ヴィルフリート殿下が、お父様に向かってこれまでにないほど深く頭を下げました。
私はといえば、お父様の背後に回り込み、殿下の「後頭部のつむじから立ち昇る決意のオーラ」を、最新式の魔導感熱紙で記録することに熱中しておりました。
「……殿下。顔を上げてください。……正気ですか? こいつですよ? 私の娘ですが、中身は殿下の私物をコレクションすることに魂を売った、正真正銘の変態ですぞ?」
お父様が、冷や汗を拭いながら私のことを指差しました。
失礼ね。私は変態ではなく、純粋な探究心を持つトップオタですわ。
「分かっている。彼女の異常……いや、特異な感性は、すでに骨身に染みている。……だが、考えても見てくれ、公爵。今の私からメメルを取り上げれば、私は誰に私の『鎖骨のライン』を褒めてもらえばいいんだ!? 誰が私の『寝返りの角度』を全方位から肯定してくれるというんだ!?」
「……殿下。それは、もはや殿下も毒されているのでは……?」
お父様が、憐れみの目で殿下を見つめました。
殿下は力強く拳を握り、お父様の机を叩きました。
「毒ではない、これは『共生』だ! メメルは私を神として崇めることで幸福を得、私はメメルに崇められることで、自分の存在意義を……その、妙な形で再確認できるようになったんだ! 彼女なしでは、私の人生は『解釈違い』の塊になってしまう!」
「……殿下、用語がメメルと共通化しておりますな」
セバスが横から、お父様に胃薬を差し出しました。
「旦那様、お諦めください。殿下はすでに、お嬢様の『推し活』という名の迷宮に、自ら首までどっぷりと浸かっておいでです。……殿下、例の契約書をお出しください」
「ああ。……公爵、これを見てくれ」
殿下がお父様の前に提示したのは、昨日私に提案した「新婚約規定」の修正版でした。
そこには、新たに『第四条:メメルによる王子の肖像画販売の収益は、全額王室の軍事費に充てる』という、とんでもなく現実的な項目が追加されていました。
「……ほう。メメルの描く殿下の肖像画は、一部の熱狂的な令嬢たちの間で金貨百枚で取引されていると聞きます。……これを軍事費に?」
「そうだ。メメルの『推し活』を国益に変える。これが私の考えた、彼女の狂気を正当化する唯一の方法だ! 公爵、メメルを王妃にすれば、我が国の軍備は世界最強になるぞ!」
「……娘を軍需産業の柱にするなと言いたいところだが。……殿下、本当に、後悔はしませんな? 寝室の壁がマジックミラーになっても、夜中に視線を感じて飛び起きても、文句は言いませんな?」
お父様の問いに、殿下は一点の曇りもない目で答えました。
「……むしろ、視線がないと寂しくて眠れん体質になってしまった。……メメルが、私をそう作り変えてしまったんだ」
「……ああっ! 『依存症の告白』! 殿下、今のその、自分の弱さを認めて自嘲気味に笑うお姿……。セバス、今の記録は永久欠番級の供給よ!」
「お嬢様、承知いたしました。……旦那様。もはや、このお二人の間には、我々凡人が立ち入る隙はございません」
お父様は、長く、長いため息をつきました。
そして、震える手で殿下の差し出した契約書に、公爵家の印章を押しました。
「……分かりました。殿下、そこまで仰るなら、メメルを差し上げましょう。……ただし、返品は受け付けませんぞ。王宮がメメルのグッズで埋め尽くされても、私は一切関与いたしません」
「感謝する、公爵! ……メメル、聞いたか! 君のお父様も認めてくれた。これで君は、合法的に私の『公式観測者』だ!」
殿下が私の手を取り、そのまま力強く引き寄せました。
……ああっ、お父様の前での『強引な独占欲』!
私は感動のあまり、お父様のデスクに置かれたペーパーナイフを手に取りました。
「殿下……! お父様……! 私、決めましたわ! 結婚式の翌日には、王宮の地下に『ヴィル様・全方位録画アーカイブ室』を増設いたします! これで殿下の全生涯を、一秒も漏らさず国宝として保存できますわね!」
「……増設は認めるが、公開範囲は制限させてもらうからな!」
「ええ、もちろん。私と、選ばれし信者たちだけの秘密の聖域にいたしますわ!」
お父様は、再び胃薬を口に放り込み、静かに目を閉じました。
「……セバス。……馬を出せ。私はこれから、先祖の墓前に謝罪しにいかなければならん」
「旦那様、墓前にはぜひ、お嬢様の新作『殿下の祈りポーズ・彫像』をお供えください。魔除けの効果があるそうです」
「……余計なことをするな」
公爵邸の応接室は、こうして「王子の敗北」と「トップオタの完全勝利」を告げる、異様な熱気と溜息に包まれたのでした。
私の推し活は、ついに国策へと昇格したのです!
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