周囲が放っておいてくれません!悪役令嬢は自由なりたい!

黒猫かの

文字の大きさ
18 / 28

18

しおりを挟む
「……何あれ」

王都の巨大な正門前。

私は馬車の窓から顔を出したまま、再びその言葉を漏らした。

目の前にあるのは、高さ10メートルはあろうかという、純金の巨像だ。

モデルは間違いなくアレクセイだ。

しかも、なぜか半裸で、薔薇を咥え、ウインクをしているポーズだ。

台座には『愛しのミシェルへ ~帰ってきて、僕の頭脳(ブレイン)~』と刻まれている。

「……センスが死滅しているわ」

私は頭痛を覚えた。

「ルーカス。あれをどう思う?」

「戦術的に見て、非常に邪魔です。あと、直視すると精神汚染(サニティ・ロス)判定が入ります」

「同感ね」

荷台のアレクセイが、縛られたまま叫んだ。

「ち、父上ぇぇぇ! 何を考えているんだ! 余の肖像権を侵害するな! しかも半裸って何だ!」

「殿下の趣味かと思っていました」

「違うわ! 余はもっとエレガントな服を着る!」

そんな私たちの前に、正門を守る兵士たちが整列していた。

しかし、彼らは武器を構えていなかった。

全員、地面に額を擦り付けていた。

土下座だ。

数百人の屈強な騎士たちが、一糸乱れぬ土下座で道を塞いでいるのだ。

その先頭に、見覚えのあるハゲ……失礼、宰相閣下がいた。

「ミシェル様ぁぁぁ!!」

宰相が涙ながらに顔を上げた。

「お待ちしておりました! どうか! どうかお戻りください!」

「……宰相閣下。これは何の真似ですか?」

「見ての通り、全力の『お願い』でございます!」

宰相は叫んだ。

「もはや武力で貴女を止めることは不可能と判断いたしました! ならば、情に訴えるしかないと! 国王陛下からの厳命です! 『ミシェルが首を縦に振るまで、全員そこから動くな』と!」

「……迷惑行為ですね」

「はい! 自覚しております! ですが我々も必死なのです! 昨日から城のトイレの水が流れなくなりました!」

「それは水利局の管轄でしょう」

「水利局長が『ミシェル様がいないと予算申請書の書き方がわからない』と泣いておりまして!」

「……」

「城の食堂も閉鎖されました! 食材発注のハンコがないからです! 兵士たちは皆、空腹で死にそうです!」

「知ったことではありません」

私は冷たく言い放った。

「そこをどいてください。私はこれから城へ行って、その腐った根性を叩き直すつもりですから」

「おおっ! 城へ来てくださるのですか!?」

宰相の顔がパァッと明るくなった。

「もちろんです。アレクセイ殿下も一緒ですよ(荷物として)」

「なんと! では、すぐに門を開け……開け……」

宰相が後ろを振り返り、門番に合図を送った。

「開門! ミシェル様のご帰還だ!」

「はっ!」

門番たちが操作盤に向かう。

王都の正門は、魔導動力によって開閉する巨大な鉄扉だ。

普段なら、重低音と共にスムーズに開くはずだった。

……シーン。

「……?」

門番がレバーをガチャガチャと動かす。

「あ、あれ? 動きません」

「何だと?」

「魔力は充填されているのですが……歯車が噛み合っていないような……」

「おい、整備はどうなっている!」

「整備班長は『ミシェル様がいないとマニュアルの保管場所がわからない』と……」

「またか!!」

宰相が絶叫した。

私は馬車の中で天を仰いだ。

「……詰んだわね」

「詰みましたね」

ルーカスが淡々と言う。

「この国は、私がいないと『ドアの開け方』すら忘れてしまうの?」

「どうやらそのようです。幼児退行(バブみ)が深刻です」

門の前で、宰相や兵士たちがオロオロと走り回っている。

「開かないぞ! 押せ! みんなで押すんだ!」

「無理です閣下! この扉、重さ50トンあります!」

「くそっ、ミシェル様が目の前にいるのに! 文明の利器が我々を拒絶している!」

コントだ。

壮大なコントを見せられている。

私はこめかみを揉んだ。

「……マリア」

「はいっ! 出番ですね!」

マリアが、待ってましたとばかりに馬車から飛び出した。

「もぉ~、じれったいです! 私が開けますよ!」

「えっ、お嬢ちゃん? 無理だよ、これは機械仕掛けで……」

宰相が止めるのも聞かず、マリアは巨大な鉄扉の前に立った。

そして、扉の隙間に指をねじ込んだ。

「ふんっ!」

彼女の背中の筋肉が、ドレスを突き破らんばかりに隆起した。

「開けぇぇぇぇぇ!! ゴマぁぁぁぁ!!」

ギギギギギギギギギギギギ!!!

凄まじい音が響いた。

金属が悲鳴を上げている音だ。

「なっ!?」

宰相たちの目が飛び出た。

50トンの鉄扉が、マリアの腕力だけで、無理やり抉じ開けられていく。

「ぬんっ! だりゃぁぁぁ!」

バキンッ!

何かが折れる音がしたが、気にしない。

ズズズズズ……!

扉が左右に開いた。

「開きましたぁ!」

マリアが爽やかな笑顔でピースサインをする。

その足元の石畳は粉々に砕け散っていた。

「……」

宰相と兵士たちは、ポカーンと口を開けていた。

「か、怪力……いや、破壊神……」

「あの娘、一人で攻城兵器より強いぞ……」

私は馬車から声をかけた。

「開いたわね。さあ、行くわよ」

「は、はい!」

ルーカスが馬車を進める。

私たちは呆然とする兵士たちの間を抜け、王都の大通りへと入っていった。

大通りには、多くの市民が集まっていた。

彼らは異様な一行を見て、ざわめいた。

「おい、あれ……ミシェル様じゃないか?」

「本当だ! 悪役令嬢ミシェル様だ!」

「隣には『氷の騎士団長』がいるぞ!」

「野菜を持った怪力娘もいる!」

そして、誰かが叫んだ。

「ミシェル様が帰ってきたぞー! これで役所の窓口が開くぞー!」

「確定申告ができるぞー!」

「下水道が直るぞー!」

「うおおおおお! ミシェル! ミシェル!」

大歓声が巻き起こった。

まるで凱旋パレードだ。

市民たちは私を「誘拐犯」としてではなく、「生活インフラを復旧させる救世主」として迎えていた。

「……人気者ですね、ミシェル様」

ルーカスが苦笑する。

「不本意だわ。私はただ、事務処理をしていただけなのに」

私は窓から手を振った(フリをして、扇子で顔を隠した)。

「ミシェル! 助けてくれー!」

「俺たちの生活を守ってくれー!」

荷台のアレクセイが、縛られたまま顔を出した。

「よ、余もいるぞ! 王太子も帰ってきたぞ!」

シーン。

「あれ? 反応がない?」

「ひっこんでろバカ王子ー!」

「お前のせいで役所が止まったんだぞー!」

市民から石(丸めた紙くず)が飛んできた。

「痛っ! なんで!? 余、人気ないの!?」

「自業自得です」

私は冷たく言い捨てた。

馬車は歓声の中を進み、ついに王城の正門へとたどり着いた。

そこには、さらなる地獄(仕事の山)が待っているはずだ。

私は覚悟を決めた。

「さあ、着いたわよ」

私は馬車を降り、巨大な城を見上げた。

「大掃除の時間よ」

「御意」

ルーカスが剣(の代わりに持ってきたハタキ)を構える。

「まずはどこから攻めますか?」

「財務室よ。金の流れを握れば、城は落ちるわ」

私たちは、魔王城攻略に向かう勇者パーティーのような足取りで、王城へと乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

婚約破棄されたので契約を終了しただけですが? ~王国が崩壊したのは私のせいではありません~

しおしお
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 王太子レオナードは突然、婚約者である公爵令嬢アデリーナとの婚約破棄を宣言する。 隣に立つのは、涙を流す義妹ミレイナ。 「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女の言葉を、貴族たちは信じてしまう。 悪女として断罪され、追放を宣告されるアデリーナ。 だが彼女は怒りも悲しみも見せず、ただ静かに微笑んだ。 「承知いたしました。では――契約を終了いたします」 その一言が、すべての始まりだった。 公爵家による融資、貿易、軍需支援。 王国を支えていたすべてが、静かに停止する。 財務は崩壊し、軍は止まり、商人は離反。 王都は混乱に包まれていく。 やがて明らかになる義妹の嘘。 そして王太子の責任。 すべてが暴かれたとき、二人を待っていたのは―― 完全な破滅だった。 一方アデリーナは、隣国で静かな紅茶の時間を過ごしていた。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が“何もしなかった”ことで始まる、 王国崩壊と地獄のざまぁの物語。 ――その報告書を、彼女が読むことは一度もなかった。

断罪予定の悪役令嬢ですが、王都でカフェを開いたら婚約者の王太子が常連になりました

由香
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気付く。 このままでは一年後の夜会で婚約破棄され、断罪された上で国外追放されてしまう運命だ。 「――だったら、その前に稼げばいいわ!」 前世の記憶を頼りに、王都の裏通りで小さなカフェを開くことにしたエリザベート。 コーヒーやケーキは評判となり、店は少しずつ人気店へと成長していく。 そんなある日、店に一人の青年が現れる。 落ち着いた雰囲気のその客は、毎日のように通う常連になった。 しかし彼の正体は――なんと婚約者である王太子レオンハルトだった!? 破滅回避のために始めたカフェ経営が、やがて運命を変えていく。 これは、悪役令嬢が小さなカフェから幸せを掴む ほのぼのカフェ経営×溺愛ロマンスストーリー。

夫に君も愛人を作ればいいと言われましたので

麻麻(あさあさ)
恋愛
「君も愛人を作ればいい」と夫に言われたので売り言葉に買い言葉で出会った愛人候補は自分が魔法使い伯爵と言いました。 全15話。プロローグから4話まで一挙公開。 翌日からは20時に2話ずつ公開。11日は最終話まで3話一挙公開。 登場人物 マーリン・ダグラス 結婚2年目にして夫の不倫を問い詰めたら黒だった令嬢。母に聞かされた結婚は夫となる人を大事にという言葉を守ってるが夫のギルバートにブチギレてこの度愛人を探すと決める。 デミトリアス・ドラモンドまたはアロン マーリンが仮面舞踏会で知り合った自称魔法使い伯爵。次の日にマーリン好みの執事アロンに姿を変えて彼女の屋敷に来る。 ギルバート・ダグラス マーリンの夫で伯爵。ギルと呼ばれている。愛人を作れば発言をした。 シェリー・モーヴ ギルバートの愛人 エミリー マーリンの親友で既婚者。 ララとリリー マーリンの屋敷のメイド達。

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜

しおしお
恋愛
バブルに沸くアルビオン王国。 「エルドラド株」を持たぬ者は時代遅れ―― そう嘲笑いながら、実体のない海外権益へ全財産を注ぎ込む貴族たち。 自らを“投資の天才”と称し、増税に苦しむ民を見下す日々。 若き女王リリアーナは、その狂騒を静かに見つめていた。 やがて始まる王室監査。 暴かれる虚偽契約。 崩れ落ちる担保。 連鎖する破綻。 昨日まで「時代の勝者」を気取っていた特権階級は、一夜にして無一文へ。 泣きつく彼らに、女王はただ微笑む。 ――“皆様の尊いご投資、確かに受け取りましたわ” 没収された富は国庫へ。 再配分された資源は民へ。 虚飾を砕き、制度を再設計し、王国を立て直す。 これは復讐譚ではない。 清算と再建の物語。 泡沫の王国に、女王の鉄槌が下される。

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

処理中です...