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「おーっほっほっほ! なんですの、このゲートの錆は! これでは侵入者を防ぐ前に、衛兵が破傷風になってしまいますわよ!」
アステリア王国の重厚な紋章が刻まれた馬車から降り立った私は、真っ先に故国の城門を指差して絶叫いたしました。
一ヶ月ぶりに踏む故郷の土。感慨に浸る間もなく目に飛び込んできたのは、手入れを放棄された庭園、くすんだ外壁、そして覇気のない門番たちの姿でした。
「……酷いな。一国の王宮が、ここまで短期間で物理的に劣化するものなのか」
私の隣で、シオン殿下が苦笑しながら視線を巡らせています。
殿下は今日、あくまで私をサポートする『婚約者候補』として同行してくださっていますが、その圧倒的なオーラは隠しきれておりません。
「殿下、これが『管理者がいない組織』の末路ですわ。さあ、参りましょう。中にはもっと凄惨な『埃の地獄』が待っているはずですわよ!」
私たちは、呆然とする門番を「アステリア特使ですわ、道を開けなさいな!」という一言で蹴散らし、玉座の間へと続く廊下を突き進みました。
すると向こうから、目の下に真っ黒なクマを作り、髪を振り乱したヴィンス王子が、縋るような表情で走ってきました。
「リ、リオナ! 戻ってきてくれたのか! ああ、信じていたぞ! 貴女がいなくては、この国はもう……!」
ヴィンス王子は私の手を取ろうとしましたが、私はそれを華麗なステップで回避し、代わりに持っていた清掃チェックリスト(アステリア王宮公認)を彼の顔面に突きつけました。
「おやめになって、ヴィンス殿下。私は貴方の元へ『戻った』のではありません。アステリア王国の全権委任を受けた特使として、『査察』に参りましたの」
「さ、査察……? 特使だと?」
「左様ですわ。……おーっほっほっほ! 殿下、勘違いしないでくださいまし。今の私は、貴方に傅く侍女でもなければ、都合の良い婚約者でもありません。貴方の国を救うか見捨てるかを決める、『債権者』なんですのよ?」
ヴィンス王子が絶句していると、奥からボロボロのピンク色のドレスを着たミリア様が、ヒステリックな声を上げて現れました。
「リオナ様! 遅いですわよ! この書類の山、早くどうにかしてくださらない!? 私、もうペンを持つのも嫌なんですの! あ、ついでにお腹が空いたからケーキも焼いてちょうだい!」
ミリア様は以前のように、私を「便利な使い走り」だと思っているようです。
私は彼女を憐れみの目で見つめ、シオン殿下の方を振り返りました。
「殿下、見ました? これが『現実逃避の末路』ですわ。……ミリア様、残念ながら私は今日、ボランティア活動に来たわけではありませんの」
私は胸元から、アステリアの国印が押された分厚い契約書を取り出しました。
「助けてあげますわ。……ただし、有料(ハイコスト)でしてよ?」
「ゆ、有料……? リオナ、君は何を言っているんだ」
ヴィンス王子が震える声で問い返します。
私は不敵な笑みを浮かべ、契約書の第一項目を読み上げました。
「第一! 我が国が貴国の負債を全て肩代わりする代わりに、北部の主要な鉱山の採掘権をアステリアへ譲渡すること!」
「なっ……! あれは我が国の生命線だぞ!」
「第二! 行政システムの再構築のため、アステリアから派遣される『清掃・管理専門官(私ですわ)』の決定権は絶対であり、王族であってもその指示に背くことは許されないこと!」
「つまり……私に、お前の下僕になれと言うのか!」
「おーっほっほっほ! 下僕だなんて人聞きが悪いですわ。せいぜい『使えない部下』として、基礎から鍛え直して差し上げるだけですわよ。……あ、嫌なら今すぐお帰りいただいても構いませんわ。その場合、この国はあと三日で破産宣告を受けることになりますけれど?」
私が冷徹に告げると、ヴィンス王子は膝から崩れ落ちました。
ミリア様は「鉱山なんてどうでもいいから、早く掃除してよぉ!」と喚いていますが、もはや誰も彼女の言葉など聞いておりません。
シオン殿下が、ヴィンス王子の肩をポンと叩きました。
「……ヴィンス殿下。彼女の提案を呑むのが、君たちにとって唯一の生き残る道だ。……もっとも、彼女の指導はアステリアの騎士団の訓練より厳しいかもしれないけれどね」
「……く、屈辱だ……。だが、背に腹は変えられん……。分かった……承諾する……」
ヴィンス王子が力なくサインをすると、私は勝利のファンファーレを心の中で鳴らしました。
「取引成立ですわね! ……さあ、そうと決まれば、まずはこの玉座の間に積もった埃の山から片付けますわよ! 殿下、ミリア様、そこの雑巾をお持ちになって!」
「えっ、私たちもやるの!?」
「当然ですわ! 『働かざる者、救われるべからず』。これが新しいリオナ流・救国ルールですの! さあ、磨いて! 泣き言を言う暇があるなら手を動かしなさいな!」
私はバケツをヴィンス王子の手に握らせ、自身はデッキブラシを手に取りました。
かつての「悪役令嬢」が、今度は「最強の取立人兼指導官」として、腐りかけた王国を根こそぎ磨き上げる。
最高にエキサイティングな『救済劇』の始まりですわ!
「おーっほっほっほ! 見ていなさいな! この国を、私のワックスで二度と汚れがつけられないほどコーティングして差し上げますわよ!」
アステリアの王子を背後に従え、私は故国の中心で、かつてないほど高らかに笑い声を上げました。
アステリア王国の重厚な紋章が刻まれた馬車から降り立った私は、真っ先に故国の城門を指差して絶叫いたしました。
一ヶ月ぶりに踏む故郷の土。感慨に浸る間もなく目に飛び込んできたのは、手入れを放棄された庭園、くすんだ外壁、そして覇気のない門番たちの姿でした。
「……酷いな。一国の王宮が、ここまで短期間で物理的に劣化するものなのか」
私の隣で、シオン殿下が苦笑しながら視線を巡らせています。
殿下は今日、あくまで私をサポートする『婚約者候補』として同行してくださっていますが、その圧倒的なオーラは隠しきれておりません。
「殿下、これが『管理者がいない組織』の末路ですわ。さあ、参りましょう。中にはもっと凄惨な『埃の地獄』が待っているはずですわよ!」
私たちは、呆然とする門番を「アステリア特使ですわ、道を開けなさいな!」という一言で蹴散らし、玉座の間へと続く廊下を突き進みました。
すると向こうから、目の下に真っ黒なクマを作り、髪を振り乱したヴィンス王子が、縋るような表情で走ってきました。
「リ、リオナ! 戻ってきてくれたのか! ああ、信じていたぞ! 貴女がいなくては、この国はもう……!」
ヴィンス王子は私の手を取ろうとしましたが、私はそれを華麗なステップで回避し、代わりに持っていた清掃チェックリスト(アステリア王宮公認)を彼の顔面に突きつけました。
「おやめになって、ヴィンス殿下。私は貴方の元へ『戻った』のではありません。アステリア王国の全権委任を受けた特使として、『査察』に参りましたの」
「さ、査察……? 特使だと?」
「左様ですわ。……おーっほっほっほ! 殿下、勘違いしないでくださいまし。今の私は、貴方に傅く侍女でもなければ、都合の良い婚約者でもありません。貴方の国を救うか見捨てるかを決める、『債権者』なんですのよ?」
ヴィンス王子が絶句していると、奥からボロボロのピンク色のドレスを着たミリア様が、ヒステリックな声を上げて現れました。
「リオナ様! 遅いですわよ! この書類の山、早くどうにかしてくださらない!? 私、もうペンを持つのも嫌なんですの! あ、ついでにお腹が空いたからケーキも焼いてちょうだい!」
ミリア様は以前のように、私を「便利な使い走り」だと思っているようです。
私は彼女を憐れみの目で見つめ、シオン殿下の方を振り返りました。
「殿下、見ました? これが『現実逃避の末路』ですわ。……ミリア様、残念ながら私は今日、ボランティア活動に来たわけではありませんの」
私は胸元から、アステリアの国印が押された分厚い契約書を取り出しました。
「助けてあげますわ。……ただし、有料(ハイコスト)でしてよ?」
「ゆ、有料……? リオナ、君は何を言っているんだ」
ヴィンス王子が震える声で問い返します。
私は不敵な笑みを浮かべ、契約書の第一項目を読み上げました。
「第一! 我が国が貴国の負債を全て肩代わりする代わりに、北部の主要な鉱山の採掘権をアステリアへ譲渡すること!」
「なっ……! あれは我が国の生命線だぞ!」
「第二! 行政システムの再構築のため、アステリアから派遣される『清掃・管理専門官(私ですわ)』の決定権は絶対であり、王族であってもその指示に背くことは許されないこと!」
「つまり……私に、お前の下僕になれと言うのか!」
「おーっほっほっほ! 下僕だなんて人聞きが悪いですわ。せいぜい『使えない部下』として、基礎から鍛え直して差し上げるだけですわよ。……あ、嫌なら今すぐお帰りいただいても構いませんわ。その場合、この国はあと三日で破産宣告を受けることになりますけれど?」
私が冷徹に告げると、ヴィンス王子は膝から崩れ落ちました。
ミリア様は「鉱山なんてどうでもいいから、早く掃除してよぉ!」と喚いていますが、もはや誰も彼女の言葉など聞いておりません。
シオン殿下が、ヴィンス王子の肩をポンと叩きました。
「……ヴィンス殿下。彼女の提案を呑むのが、君たちにとって唯一の生き残る道だ。……もっとも、彼女の指導はアステリアの騎士団の訓練より厳しいかもしれないけれどね」
「……く、屈辱だ……。だが、背に腹は変えられん……。分かった……承諾する……」
ヴィンス王子が力なくサインをすると、私は勝利のファンファーレを心の中で鳴らしました。
「取引成立ですわね! ……さあ、そうと決まれば、まずはこの玉座の間に積もった埃の山から片付けますわよ! 殿下、ミリア様、そこの雑巾をお持ちになって!」
「えっ、私たちもやるの!?」
「当然ですわ! 『働かざる者、救われるべからず』。これが新しいリオナ流・救国ルールですの! さあ、磨いて! 泣き言を言う暇があるなら手を動かしなさいな!」
私はバケツをヴィンス王子の手に握らせ、自身はデッキブラシを手に取りました。
かつての「悪役令嬢」が、今度は「最強の取立人兼指導官」として、腐りかけた王国を根こそぎ磨き上げる。
最高にエキサイティングな『救済劇』の始まりですわ!
「おーっほっほっほ! 見ていなさいな! この国を、私のワックスで二度と汚れがつけられないほどコーティングして差し上げますわよ!」
アステリアの王子を背後に従え、私は故国の中心で、かつてないほど高らかに笑い声を上げました。
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