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第一章 保護されました

第四話 養子

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 『養子にならない?』と、提案されたのは、このお屋敷で働き初めて間もない頃。
 と、いっても、私の働きというのは散々で、倒れることが多く、ほとんど成果を出せていないのが現状で、なぜそんな提案をされたのか、全く分からなかった。

 奥様と旦那様の間に子供は居ない。しかし、まだ新婚であるはずのお二人の間のことなので、いつ子供が宿ってもおかしくはないはずなのだ。


 私を養子に迎えても、邪魔になるだけなのに……。


 だから、断ることが正解なのだと、理解できていた。それなのに……。


「あ、の……おくさま、だんなさま……」

「養子の件、考えてくれた?」

「無理はしなくて良いよ。君が、両親を忘れられないとか、僕達の子供になりたくないとか、そういった理由があるなら、断ってくれても構わないから」

「い、いえ、そんな、わたし、には、もったいない、はなしで……」


 そう、もったいない話だ。
 しばらく屋敷で働いていて分かったことは、奥様も旦那様も、本当に優しい人なのだということだ。
 奥様は、その無表情から誤解されやすいものの、別に冷酷だとかそういったことはなく、色々と気にかけてくれる。
 旦那様は、本当に最近知ったばかりなのだが、私の異母兄弟だったらしく、奥様と同じように気にかけてくれる方だ。


「もったいない、ね。なら、嫌ではないということね?」

「そんなっ、いやなんて、おもうはず、ないです!」

「なら、手続きしようか。オリー」

「えぇ、そうですね、ライト」


 二人の笑みに、『あれ?』と思った時には、もう遅かった。あれよあれよという間に契約書にサインすることとなり、いつの間にか、私は奥様と旦那様の養子となっていた。


「ようこそ、ミオ。私達の可愛い娘」

「僕達に子育ての経験はないけど、それでもちゃんと、ミオの自慢の両親になってみせるよ」


 それは、夢にまで見た、温かい家庭。両親に愛されて、笑顔を向けてもらえる、そんな世界。

 呆然と立ち尽くす私を、奥様と旦那様……いや、お母様とお父様は、一緒になって抱き締めてくれる。

 ひもじい思いも、痛い思いも、苦しくてツラい記憶も、何もかもが、昔のこととして、この時初めて実感する。


「あ……あり、がとぅ、ございます……」


 こうして、私はこのお二人の娘となった。

 ヴァイラン魔国宰相補佐、オリアナ・ロットール様とヴァイラン魔国ロットール家当主、ライト・ロットール様の娘、ミオ・ロットール。

 そこから一年後、私は、大切な出会いをすることとなる。
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