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第二章 本当の心
第三十一話 体調不良
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ロレーヌの件は、私自身の伝手だけではどうにもならないかもしれないということで、ロレーヌにも許可を取ってライト様に手紙で伝え、動いてもらうこととなった。
とはいえ、それらはすぐに結果の出るものでもない。ひとまずは、ロレーヌが害されることのないように目を光らせながら日々を過ごすことにしたのだが……。
「ミ、ミオ? 大丈夫?」
「……うん、だいじょーぶ……」
私は私で、新たな問題に直面していた。
「いや、その……目の下の隈がすごいよ?」
「うん、だいじょーぶ」
最近、ケインがどうにも甘い気がする。
「そ、それに、教科書逆さまだよ?」
「うん、だいじょーぶ」
毎日学院から帰ると、ケインは満面の笑顔で『おかえりなさい』と言いつつ抱き締めてくるし、食事をしていると『あーん』と私の好物を差し出してくることさえある。
「絶対、大丈夫じゃないっ!」
「うん、だいじょーぶ」
きっと、ケインはホームシックでちょっと距離感がおかしくなっただけだとは思うものの、今の私には辛い。
「ほら、救護室に行くよ!」
「うん、だいじょーぶ」
きっとこの想いは間違いなのに、こんなに距離が近いと意識しないという方が無理だ。
「先生、彼女、体調が悪そうなので連れてきました!」
「まぁまぁ、本当ね。多分寝不足だろうけど、こっちのベッドで眠ってもらいましょう」
どうにかして、ケインから距離を取りたい。しかし、それをしてケインが悲しむのも嫌だ。
「ミオ、こっちだよ。ほら、横になって」
「うん、だいじょーぶ」
数日前からずっと堂々巡りの中、私の体は限界を迎えていたらしい。
「目が覚めたら、洗いざらい吐いてもらうからね?」
どこかでロレーヌの声がしたかと思えば、私は、いつの間にか意識を失っていた。
「……んぅ……? あれ、ここは……?」
目が覚めると、そこは知らない場所で、混乱しながらも柔らかなベッドから降りる。
「まぁまぁ、目が覚めたのね!」
「え? えっと……」
ベッドを囲うカーテンを開けた先には、少しふくよかな体型の優しそうなおばあさんが居た。
「うふふ、ここは、救護室よ。あなたのお友達のロレーヌちゃんが、体調が悪そうだって言って連れてきてくれたのよ」
コポコポと良い香りのハーブティーを手際よく入れた彼女は、『こちらへどうぞ』と救護室のど真ん中にあるテーブルへ来るよう勧める。
「今、ミオちゃん以外は誰も居ませんからね。カモミールティー、苦手でなければどうぞ」
そう言われながら、私は、確かに断片的にロレーヌから話しかけられていた記憶があることに気づく。そして、ロレーヌが随分と心配をしている姿も思い出していた。
「あ、ありがとうございます」
促されるままに飲んだカモミールティーは、どこかにまだ残っていた緊張を解してくれるようだった。
「今は、お昼休みが終わって、午後の授業中よ。そして、それももうすぐ終わるだろうから、問題がなさそうであれば帰っても良いわよ。ただし、ロレーヌちゃんにはしっかりとお礼を言ってね」
「はい」
ロレーヌはどうやら、休み時間の度にここへ顔を出していたらしい。
私、何やってるの……。
ロレーヌに申し訳ないやら、ありがたいやらで、感情がごちゃまぜになる。
「あ、そうそう、私は、救護室の常駐医。マリンよ。何かあれば、マリン婆のところへおいで。お悩み相談も受け付けちゃうわ」
そう言ったマリンさんに、私はふと、気になっていても誰にも聞けなかったことが聞きたくなった。そして……。
「そうねぇ。検査が必要ではあるけど、そういうことも、あるわね」
その答えに、私は、余計に迷子になった気分になった。
とはいえ、それらはすぐに結果の出るものでもない。ひとまずは、ロレーヌが害されることのないように目を光らせながら日々を過ごすことにしたのだが……。
「ミ、ミオ? 大丈夫?」
「……うん、だいじょーぶ……」
私は私で、新たな問題に直面していた。
「いや、その……目の下の隈がすごいよ?」
「うん、だいじょーぶ」
最近、ケインがどうにも甘い気がする。
「そ、それに、教科書逆さまだよ?」
「うん、だいじょーぶ」
毎日学院から帰ると、ケインは満面の笑顔で『おかえりなさい』と言いつつ抱き締めてくるし、食事をしていると『あーん』と私の好物を差し出してくることさえある。
「絶対、大丈夫じゃないっ!」
「うん、だいじょーぶ」
きっと、ケインはホームシックでちょっと距離感がおかしくなっただけだとは思うものの、今の私には辛い。
「ほら、救護室に行くよ!」
「うん、だいじょーぶ」
きっとこの想いは間違いなのに、こんなに距離が近いと意識しないという方が無理だ。
「先生、彼女、体調が悪そうなので連れてきました!」
「まぁまぁ、本当ね。多分寝不足だろうけど、こっちのベッドで眠ってもらいましょう」
どうにかして、ケインから距離を取りたい。しかし、それをしてケインが悲しむのも嫌だ。
「ミオ、こっちだよ。ほら、横になって」
「うん、だいじょーぶ」
数日前からずっと堂々巡りの中、私の体は限界を迎えていたらしい。
「目が覚めたら、洗いざらい吐いてもらうからね?」
どこかでロレーヌの声がしたかと思えば、私は、いつの間にか意識を失っていた。
「……んぅ……? あれ、ここは……?」
目が覚めると、そこは知らない場所で、混乱しながらも柔らかなベッドから降りる。
「まぁまぁ、目が覚めたのね!」
「え? えっと……」
ベッドを囲うカーテンを開けた先には、少しふくよかな体型の優しそうなおばあさんが居た。
「うふふ、ここは、救護室よ。あなたのお友達のロレーヌちゃんが、体調が悪そうだって言って連れてきてくれたのよ」
コポコポと良い香りのハーブティーを手際よく入れた彼女は、『こちらへどうぞ』と救護室のど真ん中にあるテーブルへ来るよう勧める。
「今、ミオちゃん以外は誰も居ませんからね。カモミールティー、苦手でなければどうぞ」
そう言われながら、私は、確かに断片的にロレーヌから話しかけられていた記憶があることに気づく。そして、ロレーヌが随分と心配をしている姿も思い出していた。
「あ、ありがとうございます」
促されるままに飲んだカモミールティーは、どこかにまだ残っていた緊張を解してくれるようだった。
「今は、お昼休みが終わって、午後の授業中よ。そして、それももうすぐ終わるだろうから、問題がなさそうであれば帰っても良いわよ。ただし、ロレーヌちゃんにはしっかりとお礼を言ってね」
「はい」
ロレーヌはどうやら、休み時間の度にここへ顔を出していたらしい。
私、何やってるの……。
ロレーヌに申し訳ないやら、ありがたいやらで、感情がごちゃまぜになる。
「あ、そうそう、私は、救護室の常駐医。マリンよ。何かあれば、マリン婆のところへおいで。お悩み相談も受け付けちゃうわ」
そう言ったマリンさんに、私はふと、気になっていても誰にも聞けなかったことが聞きたくなった。そして……。
「そうねぇ。検査が必要ではあるけど、そういうことも、あるわね」
その答えに、私は、余計に迷子になった気分になった。
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