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第六章 建国祭

第百十話 建国祭三日目へ向けて

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 どうやら、ハミルさんはデルトラ様やリュナ様に感謝の心はあれど、憎むようなことはしていないらしい。むしろ、自分の母親のせいで、申し訳ないという気持ちの方が大きいのかもしれない。そんな話を聞き終えて、ふと、最後に一つだけ気になることを尋ねてみる。


「ハミルさん。パミーユ様は、今、どうされてるんですか?」

「母上は、今は塔に閉じ籠って、必要最低限の人との接触だけになってるよ」

「えっと、それは……」

「あぁ、処罰はもうとっくの昔に終わってるんだ。だから、閉じ籠ってるのは自分の意思らしいよ。監視はしっかりつけてるし、いつの間にか死んでいたなんてことはないはずだ。まぁ、僕は関わるつもりなんてないけどね」


 嫌そうな顔でそう告げるハミルさんを見て、私は、ハミルさんはパミーユ様のことが嫌いなのだろうなと判断する。


(会ってみないことには分からないけれど……会えるものなら、会って話してみたい、かな?)


 少し危険な気もするけれど、ハミルさんを産んだパミーユ様と会ってみたいとは思った。どうしてもハミルさんに対して敵意を持っているようだったら、話すつもりはないけれど、デルトラ様やハミルさんの話だけでは判断ができない。


「とりあえず、これが僕が調べた真相だよ。ユーカには、父上のことを誤解してほしくないからね」

「……ハミルさんって、デルトラ様のことが結構好きなんですね」

「うん、自慢の父上だよ」


 優しい表情のハミルさんに、私は心が温かくなるのを感じる。


(良いなぁ。家族って)


 私には、誇れる家族は居なかった。それが少し寂しくて、ハミルさんがキラキラと輝いて見える。


「ユーカ、明日のことなんだけど……明日は、どこか行きたいところはあるかい?」

「良いんですか? 私が狙われてるんでしょう?」

「……アマーリエ」

「ユーカが自分で推理したのですわ」


 剣呑な目でアマーリエさんを見たハミルさんだったけれど、アマーリエさんの疲れたような表情を見て、その視線を緩める。


「ユーカ、確かに、ユーカは狙われてる。でも、一応は実行犯とその裏で糸を引いていた奴らは投獄できたんだ。だから、ユーカさえ良ければ、明日の時間も僕にもらえないかな?」

「……分かりました。私も、ちょっと確認したいことがありますし、一緒にお祭りを見て回りましょう」

「確認したいこと?」

「それは、秘密です」


 確認したいことは、今は話せない。いや、できれば、私の思い違いであってほしいというのが実情だ。なぜなら、それが当たっていたら……。


(パミーユ様と、会うこともできないし、ね)


 疑いの段階で、証拠もない。

 パミーユ様の片翼とされたエルフが、パミーユ様の実家の手の者によって殺された可能性があるとか、それを知ったパミーユ様が狂ってしまっているようだとかいう情報も、アマーリエさんから仕入れていた私は、そのパミーユ様の実家が起こしている新たな行動のことを考えて、その目的を思えばこそ、黙るしかなかった。
 不思議そうに私を見るハミルさんは、どこまで予想しているのだろうかと、少し不安になるし、私は居ない方が良かったのではないかとも思ってしまうけれど、そんな心のうちは表に出すことなく、笑いかける。


「それじゃあ、レイシー雑貨店ってところに行ってみたいです」


 そんな言葉に、ハミルさんは一瞬だけ、顔を強張らせて、それでも何事もなかったかのようにうなずく。


「うん、分かったよ。あそこは、可愛い小物がたくさんあるからね。ユーカに似合うものを見繕ってあげるね」

「へっ? い、いえ、私は、見るだけで十分ですよ?」

「ダーメっ。せっかくのユーカからのおねだりなんだから、僕にも格好をつけさせてよ」


 ただ、少しだけ確認するつもりが、何やらハミルさんに火をつけたらしい。絶対に何か贈り物をすると言って聞かないハミルさんに、私は早々に折れるのだった。


「じゃあ、アマーリエ。明日の警護はよろしくね」

「もちろんですわ。お兄様」


 そうして、私は翌日の、建国祭最終日を迎えた。











「三日続けて晴れたのは良かったね」

「そうですね」

「来年の建国祭も来てくれるかな?」

「そうですね」

「うん、今から楽しみだよ」

「そうですね」

「……ユーカ、探知魔法は使わなくても良いんだよ?」


 ハミルさんとの話を聞いていた私は、探知魔法を使ってみると、護衛の数が昨日の倍以上に膨れ上がっていることに気づいて呆然としていた。そのせいで生返事になってしまったのは仕方がないことだと思う。


「ハミルさん、どうして今日は護衛がこんなに多いんですか?」

「う、うーん、どうしてだろうね?」


 懸命にごまかしているつもりだろうハミルさんに、私はじとーっとした視線を送る。これでは、やはり、私は城でじっとしていた方がよかったのではないかと思えた。


「でも、囮くらいならなれるかも?」

「ユーカっ、僕は、ユーカを囮にしようだなんて考えてないからねっ! 絶対に守ってみせるからっ!」


 ボソッと小さく呟いたつもりが、どうやらハミルさんには聞こえていたらしい。


(何だか、私の周りの人って地獄耳が多いような……?)


 本当は、種族の違いで、聴覚が魔族や獣人の方が発達しているだけなのだけれど、それを知らない私は、一人でおののく。


「ユーカには、純粋にお祭りを楽しんでほしいんだ。できることなら、今回は護衛に全てを任せて、お祭りを見ることに専念しようと思って、護衛を増やしてあるんだよ」

「そうでしたか。でも、それにしても多過ぎるのでは?」

「むしろ、少ないくらいだよ。人が多いところだから、もっと多くの護衛が居ても良いくらいなんだ」


 護衛のことは、よく分からないけれど、ハミルさんがそう言うということは、そうなのだろう。


「さっ、ここだよ。レイシー雑貨店は」


 そうして、ひとまずは気になっていたお店、レイシー雑貨店に入ってみるのだった。
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