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第一章 冒険の始まり
ペット
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「とりあえず、今日も行動した方がいいよな?」
最初は、この部屋から出ることだけでも怖くて仕方がなかった。が、結局はそうも言ってられない。食事を行うか戦闘を行うかのどちらかを、一定の時間内にしなければ警告の文章が現れる。そして、その警告を無視した先には、『処分』という文言が示すものが待ち構えているようだ。選択肢など、最初から無い。
「……嫌だなぁ」
全てが犯人の手の内で、俺はただ、その中でもがいているだけ。恐怖と戦う俺を見て、犯人はきっとほくそ笑んでいるのだろう。
「それに……」
俺が見るのは、乾パンとペットボトルの残骸。この十日間、俺の食料はそれだけで、とてもじゃないが腹は膨れない。長い目で見れば、栄養面も心配な状態だ。
「多分、別のモンスターを倒せば、また違うものが食べられるんだろうが」
先に進む度胸など、俺に備わっているはずもない。そんな度胸があるなら、今頃もっと前向きでいられたはずだ。
「……ペットボトルを潰して、外の探索でいいか」
フリュン!
未だに震えるだけのスライムを眺めて、俺は、先程とんでもない致命傷を負わせた凶器を潰していくことにした。
……もう二度と、あんな目に遭うのはごめんだ!
一通り、憎いペットボトルを潰した俺は、しっかりと装備を整えて部屋の外へ踏み出す。
フリュン!
…………ちなみに、ペットという名前がついたスライムは、なぜか俺の肩に鎮座している。一度は、振り落とそうとしたのだが、落ちた瞬間に物凄い速度で這い上がってくるものだから、もう諦めた。断じて、そのスライムに迫られる様子が怖くて、振り落とせなくなったというわけではない。断じてだっ!
ペットを振り落とすことができないままの探索。一応、冒険の書の地図を見ながら、まだ行ったことのない場所へと向かっている。
この十日間で、かなり地図は埋まったのだが、それでもまだ全てではない。ここは案外広いようで、モンスターがいることもあり、数日程度では回れなかった。
が、それも恐らく今日までとなる。冒険の書の地図を見る限り、今から行く方向へ進めば、それ以上に地図の書き込みはなさそうだったからだ。
フルルと震えるペットを肩に乗せながら。俺は左手に冒険の書を、右手に剣を持って、歩く。もちろん、リュックも背負って、モンスターが落とすアイテムはしっかり持ち帰る構えだ。
どことなく淀んだ空気。薄明かりを提供する壁の苔。相変わらずの景色にうんざりしながら、俺は『スライムが現れた』という文字を目にする。
「っ、よ、よし、大丈夫…大丈夫だ」
あの腕を焼かれたときの光景がフラッシュバックするが、それでも俺は努めて落ち着こうとする。
そう、そっと……そぉっと行動すれば、もしかしたら、あるいは、逃げられるかもしれない。いや、もちろん、ドロップアイテムは欲しいが、それで命懸けの戦闘を行うかどうかに関しては全く関係がないと思うのだ。もしかしたら、このまま行けたら、出口が近いかもしれない。
そんな希望が、今の俺にはあるからこそ、ここで命を懸ける必要はないと判断する。そう思って、回れ右をしかけたところで……肩の重みが消えていることに気づいた。
久々に感じる嫌な予感。それは……見事、的中してしまった。
パチャン!
突如として俺の肩から飛び降りたソイツは、盛大な音を立てて体を逆立てる。
はっ、えっ、ちょっとぉぉおっ!?
ペットの思わぬ行動に焦る俺は、すぐに、別の音を耳で捉える。
ピチャッ!
……何で、スライムって奴は毎回毎回、俺の背後にいるんだよ。
最初は恐ろしかったが、もはや、スライムの登場パターンは分かっている。なぜかは知らないが、突然、俺の背後に現れるのだ。
さっと振り向いて、そのまま後ろに跳び、スライムから距離を取る。前に、スライムは必ず俺の後ろに現れることが分かってから、振り向きざまに攻撃しようとしたら、逆に俺の方が攻撃を受けたことがあったため、ここまでの動きは、この十日間で培った反射的なものだ。
案の定、そのスライムは俺がいたその場所に攻撃をしていた。
ああ、あ、危なかった……。
また焼かれていたかもしれないということを考えて、ゾッとする。そして、右手に持った剣をそのスライムに向かって振ろうとしたところで、それは起こった。
ヒュンッ!
そんな音が耳元で聞こえ、次の瞬間には、ペットがスライムに体当たりしていた。
「はっ?」
いきなりのことに、一瞬呆けた俺は、すぐにグチョグチョというおぞましい音を聞いて身震いする。本能的に、俺はペットが何をしているのか悟っていた。
表面上は、ただ同じようなスライムがくっついているだけ。しかし、それは激しくのたうち、飛沫を撒き散らす。
力の限り暴れるソイツら。そう、ヤツらは、共食いをしていたのだ。
「ひっ、うわっ」
俺は慌ててそこから離れようとするが、コイツらから目を離せば、その飛沫を避けられなくなる。この飛沫は酸性だ。簡単に肉を溶かすほど強力な酸だ。それだけで、目を離すということが自殺行為だと分かる。
しかし、だからといって、近づいて攻撃を加えることもできなかった。ペットと敵のスライムが絡み合っていて、どちらを攻撃して良いのかが分からないということもあるが、共食いの様子が激しすぎて、飛沫から逃れるためにも近寄れないのだ。
いつもなら一撃で倒せるはずの相手を、ペットが戦いに出てしまったがために倒せない。そんな馬鹿らしい状況に、俺はとにかくその場を離れることに集中する。
ただ……運悪く、背後は壁しかなかった。
「うおっ、わっ、わわっ、ひぃっ」
悲しいかな。俺は、その場で飛沫を避けるべく、ダンスせざるを得なかった。
しかし、さすがにしばらくすれば、勝敗が決まってくる。飛沫が収まり、黒い光が霧散した場所には、『濁った水』が一つ。
フリュンッ!
そして、どこか満足そうに体を震わせるペットが居るのみだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ペットは可愛いだけじゃない。
とっても残酷でした。
と、まぁ、それでも、作者としてはペットが可愛いんですけどね。
ではではっ!
最初は、この部屋から出ることだけでも怖くて仕方がなかった。が、結局はそうも言ってられない。食事を行うか戦闘を行うかのどちらかを、一定の時間内にしなければ警告の文章が現れる。そして、その警告を無視した先には、『処分』という文言が示すものが待ち構えているようだ。選択肢など、最初から無い。
「……嫌だなぁ」
全てが犯人の手の内で、俺はただ、その中でもがいているだけ。恐怖と戦う俺を見て、犯人はきっとほくそ笑んでいるのだろう。
「それに……」
俺が見るのは、乾パンとペットボトルの残骸。この十日間、俺の食料はそれだけで、とてもじゃないが腹は膨れない。長い目で見れば、栄養面も心配な状態だ。
「多分、別のモンスターを倒せば、また違うものが食べられるんだろうが」
先に進む度胸など、俺に備わっているはずもない。そんな度胸があるなら、今頃もっと前向きでいられたはずだ。
「……ペットボトルを潰して、外の探索でいいか」
フリュン!
未だに震えるだけのスライムを眺めて、俺は、先程とんでもない致命傷を負わせた凶器を潰していくことにした。
……もう二度と、あんな目に遭うのはごめんだ!
一通り、憎いペットボトルを潰した俺は、しっかりと装備を整えて部屋の外へ踏み出す。
フリュン!
…………ちなみに、ペットという名前がついたスライムは、なぜか俺の肩に鎮座している。一度は、振り落とそうとしたのだが、落ちた瞬間に物凄い速度で這い上がってくるものだから、もう諦めた。断じて、そのスライムに迫られる様子が怖くて、振り落とせなくなったというわけではない。断じてだっ!
ペットを振り落とすことができないままの探索。一応、冒険の書の地図を見ながら、まだ行ったことのない場所へと向かっている。
この十日間で、かなり地図は埋まったのだが、それでもまだ全てではない。ここは案外広いようで、モンスターがいることもあり、数日程度では回れなかった。
が、それも恐らく今日までとなる。冒険の書の地図を見る限り、今から行く方向へ進めば、それ以上に地図の書き込みはなさそうだったからだ。
フルルと震えるペットを肩に乗せながら。俺は左手に冒険の書を、右手に剣を持って、歩く。もちろん、リュックも背負って、モンスターが落とすアイテムはしっかり持ち帰る構えだ。
どことなく淀んだ空気。薄明かりを提供する壁の苔。相変わらずの景色にうんざりしながら、俺は『スライムが現れた』という文字を目にする。
「っ、よ、よし、大丈夫…大丈夫だ」
あの腕を焼かれたときの光景がフラッシュバックするが、それでも俺は努めて落ち着こうとする。
そう、そっと……そぉっと行動すれば、もしかしたら、あるいは、逃げられるかもしれない。いや、もちろん、ドロップアイテムは欲しいが、それで命懸けの戦闘を行うかどうかに関しては全く関係がないと思うのだ。もしかしたら、このまま行けたら、出口が近いかもしれない。
そんな希望が、今の俺にはあるからこそ、ここで命を懸ける必要はないと判断する。そう思って、回れ右をしかけたところで……肩の重みが消えていることに気づいた。
久々に感じる嫌な予感。それは……見事、的中してしまった。
パチャン!
突如として俺の肩から飛び降りたソイツは、盛大な音を立てて体を逆立てる。
はっ、えっ、ちょっとぉぉおっ!?
ペットの思わぬ行動に焦る俺は、すぐに、別の音を耳で捉える。
ピチャッ!
……何で、スライムって奴は毎回毎回、俺の背後にいるんだよ。
最初は恐ろしかったが、もはや、スライムの登場パターンは分かっている。なぜかは知らないが、突然、俺の背後に現れるのだ。
さっと振り向いて、そのまま後ろに跳び、スライムから距離を取る。前に、スライムは必ず俺の後ろに現れることが分かってから、振り向きざまに攻撃しようとしたら、逆に俺の方が攻撃を受けたことがあったため、ここまでの動きは、この十日間で培った反射的なものだ。
案の定、そのスライムは俺がいたその場所に攻撃をしていた。
ああ、あ、危なかった……。
また焼かれていたかもしれないということを考えて、ゾッとする。そして、右手に持った剣をそのスライムに向かって振ろうとしたところで、それは起こった。
ヒュンッ!
そんな音が耳元で聞こえ、次の瞬間には、ペットがスライムに体当たりしていた。
「はっ?」
いきなりのことに、一瞬呆けた俺は、すぐにグチョグチョというおぞましい音を聞いて身震いする。本能的に、俺はペットが何をしているのか悟っていた。
表面上は、ただ同じようなスライムがくっついているだけ。しかし、それは激しくのたうち、飛沫を撒き散らす。
力の限り暴れるソイツら。そう、ヤツらは、共食いをしていたのだ。
「ひっ、うわっ」
俺は慌ててそこから離れようとするが、コイツらから目を離せば、その飛沫を避けられなくなる。この飛沫は酸性だ。簡単に肉を溶かすほど強力な酸だ。それだけで、目を離すということが自殺行為だと分かる。
しかし、だからといって、近づいて攻撃を加えることもできなかった。ペットと敵のスライムが絡み合っていて、どちらを攻撃して良いのかが分からないということもあるが、共食いの様子が激しすぎて、飛沫から逃れるためにも近寄れないのだ。
いつもなら一撃で倒せるはずの相手を、ペットが戦いに出てしまったがために倒せない。そんな馬鹿らしい状況に、俺はとにかくその場を離れることに集中する。
ただ……運悪く、背後は壁しかなかった。
「うおっ、わっ、わわっ、ひぃっ」
悲しいかな。俺は、その場で飛沫を避けるべく、ダンスせざるを得なかった。
しかし、さすがにしばらくすれば、勝敗が決まってくる。飛沫が収まり、黒い光が霧散した場所には、『濁った水』が一つ。
フリュンッ!
そして、どこか満足そうに体を震わせるペットが居るのみだった。
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ペットは可愛いだけじゃない。
とっても残酷でした。
と、まぁ、それでも、作者としてはペットが可愛いんですけどね。
ではではっ!
応援ありがとうございます!
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