黒板の怪談

星宮歌

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第一章 肝試しの夜

第五話 その存在は(芦田・鹿野田・望月グループ)

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「大丈夫そうだっ。来てくれっ」


 少し張り上げた声で呼ばれた鹿野田と望月は、順番にって開かずの教室へと向かう。そして……。


「何というか……異様だねー」


 そんな鹿野田の言葉通り、そこは異様だった。

 目の前に広がるのは、何の変哲へんてつもない廊下の続き……だけではなく、ビッチリと御札おふだが貼られた教室の扉があった。
 芦田は険しい表情で扉を見つめ、望月は完全に絶句してしまっている。


「……本当に、三人はここに来た、の?」


 ようやく言葉を発した望月。しかし、望月の言う通り、普通ならばこんなところに入ろうとは思えない。

 そもそも、彼らにとっての肝試しは、あくまでも遊びの範疇はんちゅうで行われるべきものなのだ。こんな、異質で危険そうな場所へ行くというのは想定外だった。


「「「…………」」」


 誰もが沈黙して、扉を見つめる。
 先程までは率先して動いていた芦田も、流石にこの光景には及び腰のようだ。


「と、とりあえず、窓から中を見てみよーよ」

「そ、そうね」

「……反対の扉の方も見てこよう」


 教室の扉は、確かに二つある。今見たものは、手前のものであって、その先にももう一つあるはずなのだ。


「じゃあ、それぞれ見てみよー」


 鹿野田も自分の懐中電灯を取り出して、辺りを照らし始める。

 望月と鹿野田は、教室の窓を照らして、どうにか中をのぞけないかと確認するものの、何年もそのまま放置されていたせいなのか、窓は曇って、中をうかがい知ることは出来ない。ただし、教室のもう一つの扉を見に行った芦田の方は違うらしく……。


「おい、こっちに階段があるぞ?」

「「え?」」


 本来、この廊下は行き止まりのはずだ。それなのに、なぜか階段があると芦田が言う。


「扉の方は、そっちと同じだ」


 視線だけで扉を示した芦田。それにつられる形で、望月も鹿野田も、ビッチリと御札が貼られた扉を確認する。


「うわー、流石にこれはないよー」


 おちゃらけて言う鹿野田だが、その声には怯えが混じる。そして、芦田が示した教室の扉の隣を見ると確かにそこには、細い道幅の階段があった。


「これ、どこに続いてるのかな?」

「少なくとも、屋上ではないと思うが、俺も分からん」


 この学校は、渡り廊下で繋がった二つの建物からなっており、それぞれを東棟、西棟と呼んでいる。
 今、彼らが居る場所は西棟の三階。一階は一年生の教室と職員室や給食室、保健室などがあり、二階は三年生の教室と理科室や生活指導室などがある。
 そして、三階。ここは、五年生の教室と音楽室、茶室などがあり、その上は屋上しかない。


「……あれ? ねぇ、そもそもここの下って…………何の、教室だろう?」


 学校の外観を見る限り、三階だけが飛び出しているなどということはない。だから、本来ならば、開かずの教室など存在しないはずなのだ。

 青ざめた鹿野田の問いに答えられる者は居ない。三人とも、校舎の構造を思い浮かべて、この場所が『存在しないはず』だと気づいてしまったのだ。


「も、戻ろうっ!」


 いち早く言ったのは望月だった。
 自分達は、何かとんでもないものに巻き込まれている。
 そう思っての言葉でもあり……。


「そう、だな。迷子はむしろ、俺達かもしれない」


 芦田の言葉通り、その懸念けねんも強かった。
 そして、彼らはすぐさま元来た道を戻ろうとして、絶望を目にすることとなる。


「……か、べ……?」


 ただただ、机が積まれていただけだったはずのそこは、まるで、最初からそうだったかのように、ちかけた壁におおわれていた。
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