黒板の怪談

星宮歌

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第二章 答えを求めて

第二十二話 照らした先(杉下・中田グループ)

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 人が入れるはずもない、小さな小さなスペース。そこからの音に、その場が凍りつくのは当然のことだった。

 どこからか流れてきた生温い風・・・・・・・・・・・・・・が、二人の頬をそっと撫でるも、二人の意識は先程の音に集中していて、その異常性にすら気づかない。


「……確認、しよう」

「っ……で、でも……」


 当然の反応として、中田は確認するという作業を渋る。しかし……。


「もしかしたら、十年前は、もっと大きなスペースだったかもしれないじゃない」


 それは、自分に言い聞かせているかのような言葉。しかし、そうでも思わなければ杉下とて気丈ではいられないのだろう。その証拠に、杉下の手は震えていた。


「す、杉下さん……わ、分かった。な、なら、僕が開けるから、懐中電灯で照らしてくれる?」

「それは良いけど……言い出したのは私よ?」


 問題の場所を開けるという、恐らくは最も危険で恐ろしい作業。それを進んで行うと言った中田に、杉下は複雑な表情で問いかける。


「う、うん、でも、お、女の子は守らないと、だからね」

「っ……」


 杉下は、その言動から守る側になることはあれど、守られる側となることはあまりない。当然、大人から守られることはあるだろうが、同年代の、しかも男の子にそう言われることは初めてだったのか、その頬を赤く染める。


「なら……お願い。私は、何があっても対応できるように準備しておくから」


 言いながら、懐中電灯を片手にカッターを取り出す。
 本来ならば、それが向けられる何かなど無い方が良い。しかし、そう楽観視できるほど、現状はよろしくなかった。


「あ、ありがとう。そ、その、床下収納は、受付カウンターの奥の方にあるんだ。そこで、一気に開けるから、一緒に確認をお願いします」

「えぇ、それなら、行きましょう」


 どことなく緊張感を漂わせながら、中田を先頭に図書室の受付カウンターの奥を目指す。
 普段、生徒が足を踏み入れることのないそこ。正確に、その場所を見つけた中田は、その場でしゃがみ込んで床下収納を開く取っ手を引き出す。


「い、いくよ」

「う、うん」


 新たに音がすることはない。ただただ、彼らの周囲を生温い風が漂うのみ。
 ゴクリ、と唾を飲み込んだのはどちらだったか……。
 ぐっと力を入れてフタを持ち上げた中田。そして、すぐにそこへ懐中電灯の光を当てた杉下は、その場でピタリと固まる。


「何も、ない……?」


 そう、確かに、杉下の言う通り、そこには何もなかった。いや、正確には、その奥を照らせなかった・・・・・・・・・・・


「か、階段……?」


 小さなスペースしかないはずのその場所には、なぜか、地下へ続く階段があった。
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