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第一章 解放

第十二話 ままならない企み(???視点)

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 エルヴィスがリリス嬢との婚約破棄をして一週間。ちょうど建国祭が終わった翌日に、余は苛立ちをあらわにしていた。


「まだ見つからぬのかっ!」

「はっ、申し訳ありませんっ」


 余が怒鳴りつけている相手は、この国の近衛兵長。彼には、国外追放を言い渡された直後、消えてしまったリリス嬢の捜索にあたらせている。しかし、待てど暮らせど、リリス嬢を見つけたという報告はない。まさか、本当に国外まで転移できるわけがないので、まだ国内に居るとは思うのだが……。


「早く見つけ出せ」

「ははっ」


 一通り怒鳴り散らした後、近衛兵長を見送った余は、何らかの報告を持ってきた文官からの報告を、近くに居た侍従長から伝えてもらう。


「何? エルヴィスはまだそのようなことを言っているのか?」

「はい。どうしてもかの男爵令嬢と婚約するのだと申しておられるそうです」

「……謹慎の期間を伸ばすこととしよう。あと一週間だ」

「はっ。では、手続きをして参ります」


 息子、エルヴィスの暴走は、半分は予想済みであり、半分は予想外だった。
 リリス嬢の父親であるシャルティー公爵とは、エルヴィスがリリス嬢の腹違いの妹であるシェイラ嬢と婚約することを条件に、王家への金銭的な支援を約束していたのだが、よりにもよって、当のエルヴィスが男爵令嬢ごときにたぶらかされていた。リリス嬢の婚約破棄が成功しても、このままでは、シャルティー公爵家からの援助は受けられない。ここは、何としてもエルヴィスにシェイラ嬢との婚約を認めさせなければならないところだった。


「ふぅ」


 自室に戻り、息を吐いた余は、今は姿の見えないリリス嬢を想って、目を閉じる。

 元々、リリス嬢の母親であるレイア・シャルティーは、余の想い人だった。ただ、出会った時にはすでに、彼女は侯爵家の三男坊であるアドス・リーバー……後に、リリス嬢の父親となる、現シャルティー公爵と婚約しており、余は、彼女を諦めざるを得なかった。しかし、彼女はリリス嬢を生んだ三年後、馬車で移動中、賊に襲われて亡くなった。
 彼女が亡くなった直後に、新たな妻を迎え入れたり、金遣いが荒くなり始めたアドスを見れば、恐らく、アドスが彼女を殺害したのだと思われたが、真相は闇の中だ。

 余はその時、一人残されたリリス嬢を憐れに思って、エルヴィスの婚約者に据えた。しかし、それは時が経つにつれ、歪な想いへと変化していったのだ。


「リリス嬢……」


 年を経るに従って、どんどん愛しのレイアに似てきた彼女の姿に、余は、欲情を隠せなくなった。王妃は、そんな余の想いを見抜き、ひたすらにリリス嬢を嫌ったが、それを見ても、余は手を差し伸べるようなことはしなかった。

 追い詰められれば良い。追い詰められて、追い詰められて、最終的に余を頼ってくれば良い。

 リリス嬢が、シャルティー公爵家でどのような扱いを受けているのかも知っていた余は、とにかく傍観を続けた。そして、今回の婚約破棄によって捨てられ、国外追放まで言い渡されたリリス嬢に対して、余は、余の側妃となることと引き換えに、国外追放処分を取り消す心積もりだったのだ。
 だから、現在、リリス嬢が見つからないこの事態は、最も予想外な出来事だった。


「くっ、なぜ、見つからないっ」


 計画では、国外追放を言い渡されて呆然としたリリス嬢に優しく声をかけ、エルヴィスの横暴を諌め、交換条件を出すつもりだった。しかし、会場に辿り着いた時には、すでにリリス嬢は去った後、エルヴィスはどこの馬の骨とも知れない女に溺れているし、何一つ、計画通りに動かない。
 いや、もっと言うなら、リリス嬢を側妃にした後、王妃には不幸な事故に遭ってもらうつもりでもあった。そして、リリス嬢を側妃から王妃へと変えるつもりでもあったのだ。


「全てが、台無しだ」


 もしかしたら、リリス嬢にはエルヴィスの不義が相当に堪えたのかもしれない。そのために、今は姿を消してしまったのかもしれない。


(戻って来てくれさえすれば、余が、身も心も慰めてやれるというのに……)


 今、側にリリス嬢が居ないことが、何よりも悲しくて、悔しくて仕方がない。


「早く、見つけてやらねば、な……」


 きっと、リリス嬢は傷心中だ。ならば、余はリリス嬢を迎え入れるための準備をしておこう。そう、王妃には、不幸な事故に遭っておいてもらうのだ。そうすれば、リリス嬢が戻ってきた暁には、すぐにでも王妃へと迎え入れることができる。リリス嬢も、悩むことなく、安心して余のものになってくれる。そうだ、そうしよう。

 上手い閃きに、余は一人、ほくそ笑む。そうと決まれば、行動あるのみだ。毒の入手は簡単だ。だから、明日にでも、王妃には眠ってもらうこととしよう。

 リリス嬢が余のことを歯牙にもかけていないなど思いもせず、余は、明るい未来を夢見て嗤うのだった。
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