ただの癖じゃ足りない者達へ

暦ちき

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第一章 穴

穴⑨ 終演

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終わりの時間は突然不意に現れる。
そう、何の前触れもなく。

「キョウコさん、突然の事で本当にすみません。会えるのはもう今日で最後です。」

土曜日の夜。ラブホテルにて。
クマさんと出会って4ヶ月。
ほぼ毎週、私達はラブホテルにて致している。

いや、実際にはセックスなどしていない。
世間一般的な意味でのセックスとは。

毎回週末の夜に2人で飲みに行ったあとは、繁華街のラブホテルへと消え、私のオナニーにクマさんを付き合わせるだけだ。
そう、なんていったって私は鼻の穴の中に太い指で掻き乱され、惨めな姿になるのが性癖なのだから。

クマさんとの夜は、クマさんがニヤニヤ嬉しそうな興奮した顔をして私の鼻の穴に指を突っ込む。

時に優しく、時に血が出るまで鼻の粘膜を傷つけながら激しく。強弱をつけて。

私はクマさんの太い男らしく、指毛もしっかり生えた逞しい指で激しく中を弄ばれるのが好きだ。
この時間が人生の中で大事で、愛おしい時間だと言っても過言ではない。

だって、今まで色んな男に拒絶され続けていたから。
苦しかった。
私はこの惨めで小っ恥ずかしい行為が、唯一イケる行為なのに。
今までの男には汚いと言われて、否定されてずっと心の奥底に閉じ込めてた。

だけどそれをクマさんは、私がイッてる姿が好きだと言い受け止めてくれた。
私はこれが好きなんです、という私の苦しみや性癖全てを認めてくれた。
私にとってクマさんは、ただの性癖を満たしてくれる玩具なんかじゃない、救世主だ。

なのに、そのクマさんと会えなくなるなんて。

「キョウコさん、これ‥」

クマさんはカバンから辞令表を出してきた。

愛知県のとある部署に異動とある。

そうか、クマさんは国家公務員だっけな。
全国転勤だもんな、大変だ。
律儀なクマさんだ。
別にクマさんが嘘をついてるだなんて思わないのに、わざわざ本物の辞令まで見してくるなんて。

「ご覧の通り愛知に異動になります。もう会えないでしょう。キョウコさん、今まで4ヶ月ほどお付き合いいただきありがとうございました」

クマさんは改まって頭を下げる。
最後まで礼儀正しい人だなぁ。

でもここはラブホテル。
ベットの上で真剣に頭を下げるなんて、
まるで浮気相手との修羅場みたいじゃないか。

変なの。
別に異動だろうが、どうせ性癖マッチングアプリで出会ったセフレ相手なのだから連絡先を消すか自然消滅でいいのに。
でもこういう変に律儀なところがクマさんらしい。

クマさんがこうしてしっかり教えてくれたのだから、私も前を向いて話そう。

「クマさん、こちらこそありがとうございました。
私初めてなんです。鼻の穴にたくさん指を入れてくれた人。凄く嬉しかった。やっと私が私を満たしてくれるセックスに出会えた。幼少期から抑えてた欲求を、クマさんが満たしてくれました。本当に‥ありがとう」

一筋の涙が私の頬を伝う。
バカ。私まで変なの。ただのセフレ相手に。
しかも鼻の穴に指を入れて満足の人なのよ。

「キョウコさん‥」

静まり返る一室。
何だこの空気。お別れするカップルじゃあるまいし。

「もうやめ!!この空気!クマさん、最後にしよ?」

私はクマさんに飛び切りの笑顔を振りまいた。
そして振りまいたと同時に、クマさんに待ってましたとばかりにバンと体を突き飛ばされた。

え?
クマさんが時々見せる暴力的な片鱗。

そうだ。なんでクマさんは時々怖いんだろう。
クマさんは女性が、自分の指で溺れる姿が好きだと言った。喜ばせるのが好き。喜ぶ顏が好き。
そこが性癖だと。

だけど、本当は少し違う気がする。
クマさんの心の奥底に感じる闇はなんだろう。

まぁそんな事どうでもいいか。
もう会わないのだから。


クマさんの太い指が鼻の穴に入る。
鼻の穴が拡がっていく感覚。

恥ずかしい。
性器を見られることよりも、下品な鼻の穴を拡げられる方が何倍も何百倍も興奮する。

クマさん、クマさん。
クマさんの荒い興奮した鼻息が私の顔にかかる。
首も締め付けられた。

鼻の穴に。首。
呼吸さえままならない。

鼻の穴にもっと、もっと来て。
横だけでなく、縦にも拡げられる。
なんて恥ずかしくて哀れな姿。

これに興奮する私達2人はまさに変態だ。

こんなに鼻の穴を弄ってくれる人は
二度と現れないかもしれない。

さようなら、愛しい時間。

鼻の穴からクマさんの指が勢いよく飛びだす。
私の鼻水と鼻血で混ざった指。
それによだれを垂らし、白目を剥きながら喜ぶ私。
白い液体をペニスから出すクマさん。

本当にただの癖じゃ足りないんだからな。





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