ただの癖じゃ足りない者達へ

暦ちき

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第二章 飼い犬

飼い犬① 捨て犬

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私のご主人様はどこ。
早く、私を見つけて。
どうか、痛めつけるほどたくさんの愛をください。
しめて、叩いて、たくさん叱ってよ。




私のような愛に飢えた変態のためのアプリ『癖』に導かれたのは必然だった。

どうして導かれたのか私自身の生い立ちと、私という人物について話そう。

私の名前は山田 ひめ華(やまだ ひめか)

大体の人から、いや通常なら人からは、平仮名と漢字が混ざった変な名前だと思われる。
芸名か、源氏名みたいな夜っぽい名前だと。
そりゃそうだ、夜の店で働くお姫様から付けられた名前だもの。

でも私は夜のお店で働いた事なんてない。
21歳。昼間は普通の会社員。
高卒で中小企業の事務員をしている。

平日や休日など休みを問わず、だいたい夜は暇つぶし兼自傷行為の男漁りの遊びに出ている。

ネットの広告に載ってる出会い系のアプリに登録して、「今新宿で1人飲んでます!誰か暇な人、泊めてくれる人、あそぼー!」とアプリ内の掲示板に募集をかけて、あとは寄ってきた男に連絡をして会うだけ。

だいたいは暇つぶし目的。
若くて顔の良い男や、ご飯を奢ってくれそうな人と一緒に飲んではセックス。

暇つぶしだけど自傷行為の自覚もある。

だって脳が正常な人なら、不特定多数の人間とセックスなんてしないもの。
それに不特定多数とヤってたら、2.3回性病を移されたこともある。
ピルは飲んでるし、妊娠には気をつけてるけど。

何で毎日夜こんな事してるのかって。

だって、私誰かに愛されたいんだもん。
知らない人や愛がない人でも、形だけのセックスでもいい。
誰かに可愛いねって言われたいだけ。

遠い昔の話をしよう。

私は幼少期、1人のお姫様に育てられた。

お姫様は太陽が出る時間はいつも寝ていて、
夕方になるとお城を出て行く。

お城といっても、お伽話に出てくる豪華な装飾や、召使もいない。
1Kの敷地の部屋に、視界はお姫様の洋服が乱雑していて、後はコンビニで買ったご飯のゴミや何日も溜まったゴミ袋が散乱している。

お姫様は夕方になると、手垢の付いた濁った鏡の前でドレスアップをする。

キラキラした派手なメイク、漫画に出てくるお姫様のようなクルクル巻いた髪の毛、フリルのついたふわふわのワンピース。

お姫様は私にいつも、絶対に部屋を出るなと言い付けてから外へと出かける。

そう、お姫様は夜の街へ消えるのだ。

大好きな王子様に会うために、おしごとをしに行く。

お城に、この家には王子様はいないから。

「おい!!!ガキ!!!」

お姫様は信じられないような暴言を私に吐く。

「テメー、家で大人しくしとけよ。ママはこれからお仕事で朝までいないから。お腹空いたら、冷蔵庫のパン食べといて!!ちゃんと家でお利口に待っとけよ!!」

わかったよ。お母さん。
そんなに怒らないでよ。
お姫様みたいな綺麗な顔が、悪者の魔女みたい。

お母さん‥お姫様はバン!!!と勢いよく扉を閉めて家を出て行った。

部屋に私はいつも1人。
やる事は学校の宿題と、お人形遊びと、お絵描き。
つまらないなぁ。

お母さんはいつからお姫様になったの?

私が保育園に通っていた頃は、ちゃんと太陽が出てる時間に働いて、お休みの日はお弁当を作って一緒に公園でピクニックもしていたのに。

お母さん、いつからお姫様のような格好をして夜にしか動かなくなってしまったの。
いつからこの家はゴミだらけになってしまったの。

寂しい。
私が悪い事をしたから?
いつもご飯を食べるのも、着替えるのも遅いから?
学校のテストで百点取らないから?
なんで。どうして。

ある日、私は夜にお母さんに会いたくなって夜に家を飛び出した。

お母さん、お母さん、お母さん。

お母さんに、会いたい!!!

今すぐに!!!

でもお巡りさんに保護されて家に戻された。
お母さんはお巡りさんにたくさん叱られていた。

「テメーふざけんな!!!!お前のせいで私が怒られただろ!!!お前が家で大人しく留守番しとけばよかったのに!!!」

家に帰るとお母さんに殴られた。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
お母さんの言いつけを守らなかった私が悪いです。

お母さんは私を殴った後、私に犬用の首輪を付けさせた。

「テメーはこれでも付けとけ!!!クソワンコ!!!今日からお前はクソワンコだ!!!」

クソワンコ。

それからお母さんが夜にお仕事に行っている間は、
首輪を付けてお利口さんに家で留守番することになった。

少し首が苦しいけど、これがお母さんと私を繋ぐお守り。
これを付けて良い子に待っていれば、お母さんは許してくれる。

実際、お母さんはいつも私に怒鳴って叩いて怒っていたけれど、時に優しい時もあった。

「ひめ華‥いつもお母さん叩いてごめんね。こんな犬みたいな首輪まで付けさせて‥酷いことして本当にごめん。ひめ華のこと大好きだよ。世界で一番。ママの宝物、愛してるよ‥」

そう言って、優しく抱きしめてくれる事もあった。

だけど、あの日。

雨が強かった台風の日に私は捨てられた。

「ひめ華、ごめん!!!ママもうママを辞める。新しい自分だけの人生を歩む。ごめんね、さようなら」

お母さんに首輪を外され、お母さんは泣きながら家を飛び出した。

どこに?行くの?

私を置いてかないで。
捨てないでよ!!!!

叩いて、また叱っていいから。
良い子にするから、また世界一大好きだよって言ってよ!!!

お母さん!!!!

そうして1人家で何日も大泣きをしながら過ごすと、ある日家に学校の先生とお巡りさんが来て、私はこのお城から解放された。

たぶん近所の人の通報と、学校の先生が心配してきてくれたんだと思う。

私の身柄は養護施設に預けられる事になって、お母さんとは離された。

あれから二度と、そして今も会っていない。

どこで何をしているのかもわからない。

もしかしたら監獄にいるかもしれないし、また夜の世界で泡姫様でもやってるかもしれない。

まぁいいか。

私はお母さんに捨てられた。

捨て犬。

クソワンコ。
お姫様の言う事を守れなかったクソワンコ。

そうだ、そこからきっと愛に飢えてたんだ。

そして養護施設で育ち、高校を出て、就職して、1人でまた生きる事になってから、ご主人様に出会った。

私を愛と性欲に狂わせた、あの男の子。

矢島 圭介(やじま けいすけ)に。








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