ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
10 / 228
第1唱 変転する世界とラピスの日常

大魔法使い

しおりを挟む
「ガキがこんな夜中に何してる。つーか、なぜに幼竜を連れてるんだ?」

 落ち葉を踏む音と共に、黒衣の男が歩み寄ってきた。
 ラピスの知る誰より背が高い。

 月に照らされた青白い森の、幻想的な雰囲気のせいだろうか。
 眉根を寄せた知らない男に見おろされているのに、不思議なほど、警戒心が薄れていく。

(なんだろう。なんだか、この人……)

 初めて会う人だ。それは間違いない。
 なのにどこかで会ったような、不思議な親近感が湧いてきて、ちっとも怖くないのだ。
 ラピスは相手を見上げたまま、しばしボーッと惚けてしまった。が、

「おい。目あけたまま寝てんじゃねえだろうな」

 おでこを突かれて、あわてて首を横に振る。

「だ、大丈夫です、起きてます! そしてこの子は盗んだわけではありません!」

 あわて過ぎて、唐突に言い訳してしまった。
 義姉から幼竜を「盗んだ」と決めつけられていたからだ。
 けれど口にしてから、(かえって怪しまれるのかな?)と自分の言動に首をかしげる。腕の中で先ほど出現した謎の本をひらいていた竜の子も、真似して「キュッ?」と首をかしげた。

 すると、怪訝そうに眉をひそめていた男から、意外な反応が返ってきた。

「盗んだなんて思っちゃいねえよ。そんなの見ればわかる。ただ俺は、なんでお前が幼竜を連れて、しかもこんな夜中に森にいるのかって」
「わかるのですか!? 盗んでないって、見ただけでわかっちゃうのですかっ!?」

 驚いた勢いで問い返すと、青年がビクッと肩を揺らした。

「わかるに決まってんだろ。それより、お前はなぜに」
「すごい、どうしてわかるのですか!?」
「そ、それはだな」
「すごいです! 不思議です! それにこの本、『竜の書』っていうのですか!?」

 確か彼は先ほど、そう言っていた。
 だがパラパラとめくってみても、ただの真っ白なページばかり。

「なんでしょうこれ、何も書いてありません! こんな本が、どうしていきなりここにあるのかも、わかるのですか? どうして竜の書というのですか?」
「それは」
「それからそれから、不思議で綺麗なあなたは、もしや本当に月の精ですかっ!?」
「……」

 無言でおでこに、ポフッと手刀を下ろされた。
 弾みで「痛っ」と声を上げたが、すぐに「嘘つけ、痛くない」と言われて、「はい、痛くないです!」と訂正する。確かに力は入っていなかった。

「いいか、よく聴けガキんこ」
「ガキんこではなく、僕はラピスといいます」
「ではラピんこ、落ち着いて聴け。第一に、俺様は確かに美しいが、月の精ではない。ていうかなんなんだ、月の精って」
「月の精というのは、母様が昔読んでくれた本に出てきたとっても綺麗な」
「だから聴けというのに、このラピんこめが」

 また手刀が下ろされたので、(ラピんこではないのだけど)と言うのはやめて「聴きます」とうなずいた。
 確かにちょっと興奮しているかも、と心のどこかで自覚する。
 こんな夜の森で、知らない人と――幼竜を除けば――二人きりで。
 物騒なことこの上ないことくらい、子供でもわかるのに。
 なのにやたら心が浮き立って、仕方ないのだ。

「第二に、お前がその幼竜を盗んでいないとわかる理由は」

 青年の視線が、ラピスの腕の中で謎の本を抱えている、竜の子に向かう。

「俺様が、世界一の大魔法使いだからだ」
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

はじまりは初恋の終わりから~

秋吉美寿
ファンタジー
主人公イリューリアは、十二歳の誕生日に大好きだった初恋の人に「わたしに近づくな!おまえなんか、大嫌いだ!」と心無い事を言われ、すっかり自分に自信を無くしてしまう。 心に深い傷を負ったイリューリアはそれ以来、王子の顔もまともに見れなくなってしまった。 生まれながらに王家と公爵家のあいだ、内々に交わされていた婚約もその後のイリューリアの王子に怯える様子に心を痛めた王や公爵は、正式な婚約発表がなされる前に婚約をなかった事とした。 三年後、イリューリアは、見違えるほどに美しく成長し、本人の目立ちたくないという意思とは裏腹に、たちまち社交界の花として名を馳せてしまう。 そして、自分を振ったはずの王子や王弟の将軍がイリューリアを取りあい、イリューリアは戸惑いを隠せない。 「王子殿下は私の事が嫌いな筈なのに…」 「王弟殿下も、私のような冴えない娘にどうして?」 三年もの間、あらゆる努力で自分を磨いてきたにも関わらず自信を持てないイリューリアは自分の想いにすら自信をもてなくて…。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。 転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚! 魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...