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第8唱 竜の書
もいちど「「「ラピスーッ!」」」
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「なら言わせてもらうわ。これが王都以外の災害なら、皆さんはそこまで必死になった?」
「なに!?」
「これまでも国内外問わず、ひどい災害が起きていたわね。亡んだ国もある。けれど被害のなかった王都ではまるで他人事だったじゃない。アカデミーだって竜の警告を口では憂いつつ、本気で『欠けた力の対処法』を探そうとはしなかったわ」
「それは……」
ディードは唇を噛んだ。ドロシアの指摘が正鵠を射たからだろう。
クロヴィスも以前、問題を先送りするアカデミー派と衝突して王都を去ったのだと語っていた。
「陛下は! 陛下や王子たちは違う! アカデミー派から鼻で嗤われたって、ずっと諦めずに大魔法使いを捜し続けてきたんだからな! その苦労がお前にわかるか!? 本気じゃないなんて、お前なんかに言わせない!」
叩きつけるようなヘンリックの声からは、悔しくてたまらないと、乳兄弟として臣下として、本当に王家の人々が大好きなのだと、痛いほど伝わってきた。
だがドロシアは「なら、その本気を確かめさせてもらいましょう」と、冷淡な目を向ける。
「ねぇ、ディードくん。ラピスくんが『竜の書』を焼かないのなら、代わりに王都が燃えるわ。そうなれば王家の方々はもちろん、王都の民全員が犠牲になるでしょうね。それでもやっぱり、彼に竜の書を焼かせるという選択はしないの?」
「てめえ!」
ヘンリックが飛びかかろうとしたのを、ギュンターがあわてて止める。
だが成り行きを見守る騎士たちも殺気立っており、ほんの小さな火種で爆発しそうだ。みんな王都に大切な人がいるに違いない。
ラピスが声をかけるより先に、ディードが口をひらいた。
「なめるな」
「えっ」
目を丸くした少女を、凄みの宿った榛色の瞳が睨めつける。
「お前たちは『世界を壊したい』んだろう。なら結局、王都を燃やすだけで済ませるはずがない。それを止められるのは、グレゴワール様とラピスだけだ。あの聖魔法みたいに。アードラーもそれをわかっているからラピスの力を削ごうと必死なんだろう? ラピスが魔法を失ったら、奴の思うつぼだ。王都だけじゃない、世界が終わる。ぜったい、竜の書は焼かせない」
断言した第三王子を見つめ返す、底光りする緑の瞳。
重苦しい沈黙と、刺すような緊張感が場を支配した。
「……たとえばきみを殺したり、拷問でアードラーの居場所を吐かせたりしたら?」
いつもの優しい垂れ目の笑顔で、王太子が恐ろしい提案を口にした。と同時に、騎士たちが少女を取り囲む。
ドロシアはそれでも笑みを絶やさなかった。
「無駄なことですわ。わたしの安否はすぐにあの方に伝わりますから」
ギュンターも笑みを崩さない。
「やっぱりねぇ。ラピスの状態をグレゴワール様が把握しているようなものか」
自然、皆の視線がラピスに集まった――次の瞬間。
誰もが息を呑み、次いで悲鳴が上がった。
「「「ラピスーッ!」」」
「ほえぇっ?」
尋常でない反応に、ラピスも仰天して跳び上がった。
しかし皆が驚くのも無理はないのだろう。なにせラピスはとっとと炎魔法を発動させ、今まさに、『竜の書』を焼いているところだったのだから。
「な、ななな、なんでっ!」
「消せっ、早く消せーっ!」
あわてふためき駆け寄ってきたディードとヘンリックと、無言ですっ飛んできたジークに、ラピスはにっこり笑いかけた。
「これで、王都の人たちは助かるのでしょ?」
「「「ラピス!」」」
「僕はもともと、竜の書を持ってなかったんだ。でも歌は聴けたし、それに」
本当は震えている手を気づかれないよう、炎の勢いを強めて。
大切な水色の表紙の本が、一気に灰になるのを見届けた。
ラピスはふう、と吐息をこぼして、キッと顔を上げた。
「僕、とっても怒ってるの」
「お、おこ?」
「お師匠様は言ってた。『どういう理由があるにせよ、自分が気に食わない相手は壊していいなんて、そんな理屈は通らんよ』って」
涙の止まらぬディードに、「こうなったら」とうなずく。
「こ、こうなったら?」
涙と鼻水でびしょ濡れのヘンリックにも、グッとこぶしを握って見せてから、大きな声で宣言した。
「竜とお師匠様に、言いつけてやるーっ!」
「なに!?」
「これまでも国内外問わず、ひどい災害が起きていたわね。亡んだ国もある。けれど被害のなかった王都ではまるで他人事だったじゃない。アカデミーだって竜の警告を口では憂いつつ、本気で『欠けた力の対処法』を探そうとはしなかったわ」
「それは……」
ディードは唇を噛んだ。ドロシアの指摘が正鵠を射たからだろう。
クロヴィスも以前、問題を先送りするアカデミー派と衝突して王都を去ったのだと語っていた。
「陛下は! 陛下や王子たちは違う! アカデミー派から鼻で嗤われたって、ずっと諦めずに大魔法使いを捜し続けてきたんだからな! その苦労がお前にわかるか!? 本気じゃないなんて、お前なんかに言わせない!」
叩きつけるようなヘンリックの声からは、悔しくてたまらないと、乳兄弟として臣下として、本当に王家の人々が大好きなのだと、痛いほど伝わってきた。
だがドロシアは「なら、その本気を確かめさせてもらいましょう」と、冷淡な目を向ける。
「ねぇ、ディードくん。ラピスくんが『竜の書』を焼かないのなら、代わりに王都が燃えるわ。そうなれば王家の方々はもちろん、王都の民全員が犠牲になるでしょうね。それでもやっぱり、彼に竜の書を焼かせるという選択はしないの?」
「てめえ!」
ヘンリックが飛びかかろうとしたのを、ギュンターがあわてて止める。
だが成り行きを見守る騎士たちも殺気立っており、ほんの小さな火種で爆発しそうだ。みんな王都に大切な人がいるに違いない。
ラピスが声をかけるより先に、ディードが口をひらいた。
「なめるな」
「えっ」
目を丸くした少女を、凄みの宿った榛色の瞳が睨めつける。
「お前たちは『世界を壊したい』んだろう。なら結局、王都を燃やすだけで済ませるはずがない。それを止められるのは、グレゴワール様とラピスだけだ。あの聖魔法みたいに。アードラーもそれをわかっているからラピスの力を削ごうと必死なんだろう? ラピスが魔法を失ったら、奴の思うつぼだ。王都だけじゃない、世界が終わる。ぜったい、竜の書は焼かせない」
断言した第三王子を見つめ返す、底光りする緑の瞳。
重苦しい沈黙と、刺すような緊張感が場を支配した。
「……たとえばきみを殺したり、拷問でアードラーの居場所を吐かせたりしたら?」
いつもの優しい垂れ目の笑顔で、王太子が恐ろしい提案を口にした。と同時に、騎士たちが少女を取り囲む。
ドロシアはそれでも笑みを絶やさなかった。
「無駄なことですわ。わたしの安否はすぐにあの方に伝わりますから」
ギュンターも笑みを崩さない。
「やっぱりねぇ。ラピスの状態をグレゴワール様が把握しているようなものか」
自然、皆の視線がラピスに集まった――次の瞬間。
誰もが息を呑み、次いで悲鳴が上がった。
「「「ラピスーッ!」」」
「ほえぇっ?」
尋常でない反応に、ラピスも仰天して跳び上がった。
しかし皆が驚くのも無理はないのだろう。なにせラピスはとっとと炎魔法を発動させ、今まさに、『竜の書』を焼いているところだったのだから。
「な、ななな、なんでっ!」
「消せっ、早く消せーっ!」
あわてふためき駆け寄ってきたディードとヘンリックと、無言ですっ飛んできたジークに、ラピスはにっこり笑いかけた。
「これで、王都の人たちは助かるのでしょ?」
「「「ラピス!」」」
「僕はもともと、竜の書を持ってなかったんだ。でも歌は聴けたし、それに」
本当は震えている手を気づかれないよう、炎の勢いを強めて。
大切な水色の表紙の本が、一気に灰になるのを見届けた。
ラピスはふう、と吐息をこぼして、キッと顔を上げた。
「僕、とっても怒ってるの」
「お、おこ?」
「お師匠様は言ってた。『どういう理由があるにせよ、自分が気に食わない相手は壊していいなんて、そんな理屈は通らんよ』って」
涙の止まらぬディードに、「こうなったら」とうなずく。
「こ、こうなったら?」
涙と鼻水でびしょ濡れのヘンリックにも、グッとこぶしを握って見せてから、大きな声で宣言した。
「竜とお師匠様に、言いつけてやるーっ!」
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