アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 朝の陽光が防衛省の窓から差し込む中、吉澤は自分の新しい執務室でコーヒーを飲みながら朝のニュースに目を通していた。特別調査室の責任者として就任してからまだ日が浅いが、毎日のように新しい情報が舞い込んでくる。
 ノックの音が響くと、鮎川翔子が書類の束を抱えて入ってきた。
「おはようございます。詳細をお持ちしました」
 鮎川は几帳面に挨拶をしながら、机の上に分厚いファイルを置いた。昨夜のうちにあらかたの連絡は聞いていたが、今朝それをまとめて鮎川が持ってきたのだ。
「お疲れさまです。夜遅くまで大変でしたね」
 吉澤はファイルを手に取りながら言った。美佐江からの証言、長崎での石板事件、東シナ海の状況……すべてが一つの線で繋がりつつあることが、報告書からも明らかだった。
「それと」
 鮎川は手帳を確認しながら続けた。
「すでに門について管轄する各省庁の主だったメンバーには連絡済みです。至急官邸にも動いてもらい、確定ではないにせよ、一度C国サイドの意図を確認する必要があります」
「外交ルートですか?」
「はい、それと並行して、外交的には多少問題がありますが、最短で開ける門を通りアガルタの現状把握も必要かと思われます」
 鮎川の提案は的確だった。美佐江の証言だけでは、アガルタでの実際の状況が掴めない。現地調査が不可欠だった。
「また、着任早々で申し訳ないのですが……」
 鮎川が少し申し訳なさそうに前置きをした。
「九時三十分から、門に関するオンライン会議が行われます」
 時計を見ると、すでに八時を過ぎている。
「わかりました。準備をしましょう」

 九時三十分、吉澤は鮎川と共に会議室でモニターの前に座っていた。画面には、各省庁の幹部たちの顔が映し出されている。外務省、内閣官房、宮内庁、そして文部科学省からも参加者がいた。
「それでは、会議を開始いたします」
 内閣官房の幹部が司会を務めた。
「まず、防衛省の吉澤室長から現状報告をお願いします」
 吉澤は資料を確認しながら話し始めた。
「昨夜、アガルタからの避難者である花巻美佐江氏より重要な証言を得ました。アガルタにおいて、プロネス族と地球人の連合軍による攻撃が行われているとのことです」
 画面の向こうで、数名の参加者が驚きの表情を見せた。
「地球人が関与しているということですか?」
 外務省の担当者が質問した。
「はい。装備や言語から判断して、間違いないと思われます。また、これまでの東シナ海での動き、大分や長崎での石板に関する事件も、すべて関連している可能性があります」
 会議室に重い空気が流れた。
「対応策はいかがお考えでしょうか?」
 内閣官房の幹部が聞いた。
「二つの方向で進めたいと考えています」
 鮎川が資料を画面共有しながら説明した。
「まず、外交ルートと門に関する極秘の世界的組織の両方からC国に問い合わせること。そして、アガルタへの調査団派遣です」

 しかし、C国への問い合わせは簡単ではなかった。
「現在までC国は門に関する世界組織に正式に加盟していないため、通常のルートが使えません」
 外務省の担当者が困った表情で説明した。
「では、どうすれば……」
「宮内庁からの伝手で、道士を通して連絡を取ることになるでしょう」
 宮内庁の代表者が発言した。
「道士?」
 吉澤が聞き返した。
「はい、古くから皇室と中国の道教関係者との間には、表に出ない繋がりがあります。彼らを通せば、C国政府の真意を探ることができるかもしれません」
 それは吉澤にとって初耳だった。門に関する世界には、まだまだ知らないことが多い。
「わかりました。その方向で進めてください」
 次に、アガルタ行きの人選についての議論が始まった。
「我が省からも専門家を派遣したい」
「いえ、この件は外務省の管轄です」
「文部科学省としても、学術的調査が必要かと」
 各省庁の代表者が次々と発言し、誰も引き下がろうとしない。結局、外務省、財務省、国土交通省から各一名、それに自衛隊員を加えた編成になることが決まった。
「しかし、時間がありません」
 鮎川が重要な点を指摘した。
「最短で開く門は、長野県にある戸隠神社近くですが、開放までの期間は四日間しかありません」
 会議室がざわめいた。
「四日間? それはあまりにも短すぎる」
「急いで人選と対応検討、装備の準備をしなければなりません」
 内閣官房の幹部が決断した。
「わかりました。二十四時間以内に各省庁の派遣員を決定してください。できるだけマナの保有者でお願いします。それと、防衛省は安全確保のための準備もお願いします」
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