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宿の一室で、三人は後宮に入る方法を検討していた。
「正面から行くのは無理です」
久世が地図を見ながら言った。
「兵士の数は少ないですが、中庭には遮蔽物がありません」
「別のルートは?」
ユリナスが尋ねた。
「後宮は守りが固いですからね。私が知っている抜け道は、あれだけです」
「困りましたね」
久世が頭を抱えた。
その時、瀬崎が顔を上げた。
「ひょっとしたら、できるかもしれません」
「何か方法があるんですか?」
久世が期待を込めて尋ねた。
「以前、サミアさんが佐野さんに見せた炎の幻覚、覚えていますか?」
瀬崎が説明を始めた。
「あれに近い方法です」
「幻覚ですか?」
ユリナスが興味深そうに身を乗り出した。
「私も防衛大学で学んだ程度の知識しかありませんが、実は人間の目は、構造上見えていない部分があるんです」
瀬崎が熱心に語り始めた。
「マリオット盲点といって、網膜にある視神経が集まる部分で、光を感じる細胞がないため、もともと見えない部分なんです」
「見えない部分……視野にそんなところはないぞ」
久世が呟いた。
「通常は、両目で見て互いの盲点を補い合ったり、脳が周囲の情報を補ったりするため、日常生活で気になることはありません。写真の修正をするときに、不要部分を削除しても、AIがその部分を補って自然に見えるように加工してくれますよね。人の脳も、勝手にそれと同じ働きをしているので私たちは気づかないんです」
瀬崎が続けた。
「そこで、この盲点を脳が勝手に補う機能を利用できないでしょうか」
「どういうことですか?」
「人が消える魔法って、映画やアニメで出るじゃないですか」
瀬崎が興奮した様子で言った。
「以前、サミアさんに炎を見せられた時から、それを使って再現できないかと思ってたんです」
ユリナスと久世が驚いた顔をした。
「自分の目では試したんです」
瀬崎が付け加えた。
「手を伸ばした状態でグーにしていたら、消すことはできました。でも、パーにすると指がなんとなくわかります」
「つまり?」
「兵士たちから見て、それよりも自分たちが小さく見えるような距離なら、できそうなんです」
瀬崎が真剣な表情で言った。
「試してみていいですか?」
久世が頷いた。
「じゃあ、これを見てください」
瀬崎が目の前にあったカップを指差した。
次の瞬間、カップが消えた。
「え……」
久世が驚いて、元々カップがあった位置に手をやった。
確かに、そこにカップはあった。触ることができる。しかし、目には見えない。
「すごい……」
久世が感嘆の声を上げた。
「大丈夫そうですね。今は、カップの部分に盲点があると認識するように久世さんに魔法をかけました」
瀬崎が魔法を解くと、カップが再び姿を現した。
「ただ、私はマナを操る力が弱いんで離れた位置にいる兵士にこの魔法をかける自信がありません」
瀬崎がユリナスを見た。
「だから、ユリナスさんがこれをできないかと思うんです」
「私が……」
ユリナスが考え込んだ。
「なんとなく理屈は理解できました。しかし、実際にできるかどうか」
「練習しましょう」
瀬崎が提案した。
「レクチャーしますよ」
その夜、ユリナスは瀬崎からレクチャーを受けていた。
「まず、マリオット盲点の位置を理解する必要があります」
瀬崎がノートに図を描いた。
「視神経が集まる部分は、視野の中心から少し外側、鼻側にあります」
「つまり、見ている対象の少し横ということですね」
ユリナスが確認した。
「そうです。そこに、周囲と同じ情報を送り込むんですが、マリオット盲点の位置を体験してもらいましょう」
瀬崎はそう言うと、小さな紙に〇と×を描いた。
「左目を左手で隠してください。そして、右手でこの紙を腕いっぱいに伸ばして持ち、右目で×をじっと見つめてください」
「そうです。そのまま、×から視線を外さずに、紙をゆっくりと顔に近づけていきます。すると、ある特定の距離に達すると、視野の端にあった○が見えなくなるはずです。このとき、○の像が右目の盲点に入ったことを意味します。」
「すごい。本当に見えなくなった」
驚くユリナスの声を聴きながら、瀬崎が説明を続けた。
「さらに紙を近づけると、再び○が見え始めます。つまり、その見えなかった位置に盲点があるということです」
「脳は、盲点の部分を周囲の情報で自動的に補完します。その補完を盲点以外でも行うようにするんです」
「なるほど」
ユリナスが頷いた。
「面白い現象ですね。では、試してみます」
ユリナスが集中し、目の前のカップに意識を向けた。
マナを操り、カップの周囲の視覚情報を盲点に送り込む。
しかし、カップは消えなかった。
「難しいですね」
ユリナスが額の汗を拭った。
「そうですね。私もなかなか消せませんでした」
瀬崎が励ました。
「コツは、カップを消そうとするのではなく、周囲の背景を延長させるイメージです」
「背景を延長……」
ユリナスが再び集中した。
カップの後ろにある壁の模様。それを延長させるイメージ。
次の瞬間、カップが微かに揺らいだ。
「今、少し消えかけました!」
久世が興奮して言った。
「もう一度、やってみてください」
ユリナスが深く息を吸い、再び集中した。
そして、ゆっくりとマナを操る。
カップが消えた。
「成功です!」
瀬崎が拍手した。
ユリナスが魔法を解くと、カップが再び現れた。
「できました……」
ユリナスが信じられないという表情で自分の手を見た。
「素晴らしいです」
久世が頷いた。
「これなら、中庭を渡れるかもしれません」
「ただし」
瀬崎が釘を刺した。
「完璧ではありません。早く動くと見破られる可能性があります。魔法操作を正確にするだけでなく、我々もゆっくり、慎重に動く必要があります」
「わかりました」
ユリナスが真剣な表情で頷いた。
「これから精度を高められるように練習します。できれば、明日にでも、試してみましょう」
二人は、明日の作戦に備えて休むことにした。
窓の外では、月が皇宮を照らしていた。
そこに捕らわれている皇帝たちを、必ず救出する。
ユリナスは、その決意をもち、魔法の組み立てを何度も確認した。
「正面から行くのは無理です」
久世が地図を見ながら言った。
「兵士の数は少ないですが、中庭には遮蔽物がありません」
「別のルートは?」
ユリナスが尋ねた。
「後宮は守りが固いですからね。私が知っている抜け道は、あれだけです」
「困りましたね」
久世が頭を抱えた。
その時、瀬崎が顔を上げた。
「ひょっとしたら、できるかもしれません」
「何か方法があるんですか?」
久世が期待を込めて尋ねた。
「以前、サミアさんが佐野さんに見せた炎の幻覚、覚えていますか?」
瀬崎が説明を始めた。
「あれに近い方法です」
「幻覚ですか?」
ユリナスが興味深そうに身を乗り出した。
「私も防衛大学で学んだ程度の知識しかありませんが、実は人間の目は、構造上見えていない部分があるんです」
瀬崎が熱心に語り始めた。
「マリオット盲点といって、網膜にある視神経が集まる部分で、光を感じる細胞がないため、もともと見えない部分なんです」
「見えない部分……視野にそんなところはないぞ」
久世が呟いた。
「通常は、両目で見て互いの盲点を補い合ったり、脳が周囲の情報を補ったりするため、日常生活で気になることはありません。写真の修正をするときに、不要部分を削除しても、AIがその部分を補って自然に見えるように加工してくれますよね。人の脳も、勝手にそれと同じ働きをしているので私たちは気づかないんです」
瀬崎が続けた。
「そこで、この盲点を脳が勝手に補う機能を利用できないでしょうか」
「どういうことですか?」
「人が消える魔法って、映画やアニメで出るじゃないですか」
瀬崎が興奮した様子で言った。
「以前、サミアさんに炎を見せられた時から、それを使って再現できないかと思ってたんです」
ユリナスと久世が驚いた顔をした。
「自分の目では試したんです」
瀬崎が付け加えた。
「手を伸ばした状態でグーにしていたら、消すことはできました。でも、パーにすると指がなんとなくわかります」
「つまり?」
「兵士たちから見て、それよりも自分たちが小さく見えるような距離なら、できそうなんです」
瀬崎が真剣な表情で言った。
「試してみていいですか?」
久世が頷いた。
「じゃあ、これを見てください」
瀬崎が目の前にあったカップを指差した。
次の瞬間、カップが消えた。
「え……」
久世が驚いて、元々カップがあった位置に手をやった。
確かに、そこにカップはあった。触ることができる。しかし、目には見えない。
「すごい……」
久世が感嘆の声を上げた。
「大丈夫そうですね。今は、カップの部分に盲点があると認識するように久世さんに魔法をかけました」
瀬崎が魔法を解くと、カップが再び姿を現した。
「ただ、私はマナを操る力が弱いんで離れた位置にいる兵士にこの魔法をかける自信がありません」
瀬崎がユリナスを見た。
「だから、ユリナスさんがこれをできないかと思うんです」
「私が……」
ユリナスが考え込んだ。
「なんとなく理屈は理解できました。しかし、実際にできるかどうか」
「練習しましょう」
瀬崎が提案した。
「レクチャーしますよ」
その夜、ユリナスは瀬崎からレクチャーを受けていた。
「まず、マリオット盲点の位置を理解する必要があります」
瀬崎がノートに図を描いた。
「視神経が集まる部分は、視野の中心から少し外側、鼻側にあります」
「つまり、見ている対象の少し横ということですね」
ユリナスが確認した。
「そうです。そこに、周囲と同じ情報を送り込むんですが、マリオット盲点の位置を体験してもらいましょう」
瀬崎はそう言うと、小さな紙に〇と×を描いた。
「左目を左手で隠してください。そして、右手でこの紙を腕いっぱいに伸ばして持ち、右目で×をじっと見つめてください」
「そうです。そのまま、×から視線を外さずに、紙をゆっくりと顔に近づけていきます。すると、ある特定の距離に達すると、視野の端にあった○が見えなくなるはずです。このとき、○の像が右目の盲点に入ったことを意味します。」
「すごい。本当に見えなくなった」
驚くユリナスの声を聴きながら、瀬崎が説明を続けた。
「さらに紙を近づけると、再び○が見え始めます。つまり、その見えなかった位置に盲点があるということです」
「脳は、盲点の部分を周囲の情報で自動的に補完します。その補完を盲点以外でも行うようにするんです」
「なるほど」
ユリナスが頷いた。
「面白い現象ですね。では、試してみます」
ユリナスが集中し、目の前のカップに意識を向けた。
マナを操り、カップの周囲の視覚情報を盲点に送り込む。
しかし、カップは消えなかった。
「難しいですね」
ユリナスが額の汗を拭った。
「そうですね。私もなかなか消せませんでした」
瀬崎が励ました。
「コツは、カップを消そうとするのではなく、周囲の背景を延長させるイメージです」
「背景を延長……」
ユリナスが再び集中した。
カップの後ろにある壁の模様。それを延長させるイメージ。
次の瞬間、カップが微かに揺らいだ。
「今、少し消えかけました!」
久世が興奮して言った。
「もう一度、やってみてください」
ユリナスが深く息を吸い、再び集中した。
そして、ゆっくりとマナを操る。
カップが消えた。
「成功です!」
瀬崎が拍手した。
ユリナスが魔法を解くと、カップが再び現れた。
「できました……」
ユリナスが信じられないという表情で自分の手を見た。
「素晴らしいです」
久世が頷いた。
「これなら、中庭を渡れるかもしれません」
「ただし」
瀬崎が釘を刺した。
「完璧ではありません。早く動くと見破られる可能性があります。魔法操作を正確にするだけでなく、我々もゆっくり、慎重に動く必要があります」
「わかりました」
ユリナスが真剣な表情で頷いた。
「これから精度を高められるように練習します。できれば、明日にでも、試してみましょう」
二人は、明日の作戦に備えて休むことにした。
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