アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 岩国基地に到着したヘリコプターから、結衣と森川が降りた。
 目の前には、V-280バローが待機していた。ティルトローター機の独特のフォルムが、強い存在感を放っている。
「こちらです」
 自衛隊員が二人を案内した。
「この機体なら、沖縄まで最速で到着できます」
 結衣はV-280を見上げた。初めて見る最新鋭機に、少し圧倒される。
「大丈夫ですか?」
 森川が心配そうに尋ねた。
「はい」
 結衣が頷いた。
「行きましょう」
 機内に乗り込むと、そこには医療機器が積み込まれていた。まるで空飛ぶ救急車のようだ。
「離陸します」
 パイロットの声が響いた。
 V-280が垂直に上昇し、やがて水平飛行に移った。その速度は、ヘリコプターとは比較にならない。
「およそ一時間で到着します」
 森川が言った。
「太田さん、少し休んでください」
「いえ、大丈夫です」
 結衣が首を振った。
「それより、花巻さんの容態をもっと詳しく教えてください」
 タブレット越しに鮎川が資料を見せた。
「火傷は右手、右頬、右の脇腹に集中しています。皮膚は壊死し、一部は骨まで達しています」
 結衣が資料を凝視した。
「通常の火傷治療は、すべて試しました」
 鮎川が続けた。
「植皮、再生医療、最新の薬物治療……すべて可能性を考慮しました。しかし、すべて効果がみこめませんでした」
「どうして効かないんですか?」
「特殊なエネルギーが残留しているようです」
 鮎川が説明した。
「そのエネルギーが、治癒を阻害しています」
 結衣は深く考え込んだ。
(特殊なエネルギー……マナとは違う何か……)

 一時間後、V-280は伊平屋島に到着した。
 島の北部、海岸近くに臨時のヘリポートが設置されていた。
 機体が着陸し、扉が開く。
 強い日差しと、潮の香りが入ってきた。
「こちらです」
 近寄ってきた鮎川が先導した。
 ヘリポートの近くに、白いテントがいくつも並んでいた。まるで野戦病院のようだ。
 医師や看護師たちが、慌ただしく動いている。
「太田さんが到着されました」
 鮎川が医療チームに告げた。
 白衣を着た医師たちが、結衣を見た。
 その目には、期待と不安が入り混じっている。

「あなたが太田さんですか。こちらへ」
 一人の医師が案内した。
 結衣は、最も大きなテントに入った。
 そこには、ベッドに横たわる人物がいた。
 花巻五郎――いや、ユリナスだ。
 結衣は息を呑んだ。
 右半身が、酷い状態だった。皮膚は黒く焦げ、ところどころ白い骨が見えている。顔の右半分も焼けただれ、目を背けたくなるような光景だった。
 しかし、結衣は目を逸らさなかった。
「花巻さん……」
 結衣が小声で呟いた。
 花巻のそばには、見知らぬ女性と二人の男性がいた。
「あなたが……」
 女性が結衣を見た。
 その目は赤く腫れている。ずっと泣いていたのだろう。
「太田結衣さん?」
「はい」
 結衣が頷いた。
「あなたは……」
「サミア。花巻美佐江です」
 女性が答えた。
「ユリナスの……妹です」
 サミアの隣にいた大柄な男が口を開いた。
「俺はヨルンヘルム。こっちはクロストロフ」
「ユリナスを……頼む」
 クロストロフが頭を下げた。
「やってみます」
 結衣が決意を込めて答えた。
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