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友達として

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事業企画より経営企画の方が忙しい。だから、永瀬からアフター5に誘われる事無く、2週間が過ぎようとしていた。

新しいホテルが札幌に建ち、その関係で永瀬は、出張でいない。

金曜日。
仕事を終え、ホテルから出てiPhoneを開くと永瀬からLINEがきていた。

“飲みに行こう。21時に銀座の蝶々で”

時計を見たら20時半。
辞めた店に客で入るのは複雑な気持ちだけど、向かう事にした。

着替えにマンションに戻ると21時を過ぎてしまうから、このまま向かった。

お団子はほどき、パンツスーツで、蝶々に入る。
懐かしい店内に、心踊る。

「葛城、こっち」

永瀬が入り口で立ってるわたしに、近づき、手を引いて、席に案内してくれる。

御曹司グループに蝶のように群がるホステス達……。

「君達、もういいよ。お酒はさくらちゃんに作って貰うから」

大島建設の御曹司が、ホステス達を席から追い出した。
そしてわたしを見て、

「さくらちゃん、イメチェン?キャリアウーマンな装いも似合ってるね」

永瀬と大島さんの間のいつものポジションに座る。

「わたし、もう、ここを辞めた身なんですけど……。だから、さくらとは呼ばないで下さい」


マスターから許可を得て、なぜか、わたしがお酒を作る。

「創志、良かったな。ついに、入社してからずっと思ってたさくらちゃんと付き合えるようになって」

「友達としてですがね……」

もう、ホステスではないから、毒を吐くわたし。
プリンセスホテルでのわたしも、素になってる。

蝶々でホステスをしてた頃は、純粋でいられた。
今は、プリンセスホテルで戦士をしていて、常にプレゼンで戦い、現場と戦う生活で、ブラックな性格になりつつある。 

戦士なわたしの性格が、嫌い。

だから、蝶々で、正反対のさくらを演じてたのもあるかもしれない……。


水曜日と金曜日、毎週では無いけで、永瀬にLINEで蝶々に呼び出される。

永瀬の友人達、大島建設の御曹司に、秀英社の御曹司、パナソニットの御曹司、大山製薬の御曹司と、たんなる御曹司でなく大企業の御曹司で、身分の高さに驚く。

会話の質も高く、ホステス目当てで飲みに来るというよりも、純粋に友人達と仕事等のレベルの高い話しをしたくて、蝶々に訪れていた。

「そろそろ、親が政略結婚企てで来て面倒臭い」

大島建設の御曹司の大島匠が、いつもよりブランデーを飲むスピードが速く、潰れかけてた。

「俺も、お見合い写真を毎週のように渡されてる。無視してるけど」

大山製薬の大山高良も嘆く、プリンセス御曹司の永瀬も、結婚は会社のための政略結婚だろうと、大島さんに少し薄めたブランデーを作りながら、わたしは思った。

「永瀬は、社内の仕事ができる女性と結婚すればいいからいいよな。」

わたしが大島さんにお酒を出すと、大島さんがわたしを見ながら言った。

「社内結婚をして、夫婦で会社を守り育てるのが創業時からの伝統だからな。プリンセスホテルのプリンセスも、素敵な女性とホテルを守る的な意味合いがあるらしいしさ」

永瀬が、呟くように、わたしの横で言う。

「30歳過ぎたら、親父から、社内でできる女性リストを渡されて、お見合いとかさせられるから、それまでには結婚したいな」

わたしが呟いた永瀬の方を見たからから、わたしの瞳を見つめ、目を細め、そんな事を言い出した。

永瀬のわたしへのアプローチは日に日に増している。

「さくらさん、いい加減、創志と付き合う……結婚してやってよ」

友人一同から、結婚するよう、言われるのは困る。

永瀬とプライベートで友達付き合いを始め、3ヶ月経った。
お見合いなら、結婚をするかどうか判断する時期だろう。

永瀬が多忙でアフター5の誘いが無いと寂しいなと思う自分もいる。

でも、だからといって、恋人になって、まして夫婦になるのは安易に考えられない。

永瀬と結婚したら、プリンセスホテルの協同経営者となり、今以上に会社のために尽くさないといけなくなると思うと、その重圧に押しつぶされそうになる。

世の中の女性の大半は、社長夫人はお金に困らなくて遊んで暮らせるイメージかもしれないけど、プリンセスホテルの社長夫人に至っては、副社長としてバリバリに働かないといけない。

わたしには、到底、できない。

今の時点で、仕事に疲れてる。
働いてる自分に対しても、嫌悪感を感じてる。
戦士みたいに、強い女、キャリアウーマン気取りする自分に違和感しかない。


だから、永瀬にアプローチされても、上手くかわしてる。

わたしは、プリンセスホテルの社長夫人にはなりたくない。

プリンセスホテルにはわたしよりも、仕事が好きで活躍している女性はたくさんいる。

永瀬は御曹司という身分を隠して、経営企画部のホーフとして活躍している。

だから、かなりモテてる。

わたしを諦めて、他の女性社員に目がいけばいいのにと、思いつつも、それはそれで嫌だと思う自分がいた。


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