秘密の二足の草鞋

鳴宮鶉子

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蓮翔のマンションから逃げるように出て、わたしはノートパソコンとiPhoneとお財布だけを持って沖縄にやってきた。
そして、船で渡って行った孤島のペンションに連泊して、毎日朝と夕方に砂浜を歩き、それ以外はペンションの部屋で小説の執筆をする生活をしていた。
孤島にはスーパーやコンビニなどはなく、ついてしばらくは本土に衣類などの身に付けるものを買いに行った。
もちろん、市内中心部に行けばブランドショップはあるが港付近にはそういう店はない。
Tシャツとジーンズ、寒い季節だからセーターにコートを着る。
年配のペンションのオーナー夫婦は優しい。
海岸を歩いてたら、オーナー夫婦がウクレレや三味線を弾いてくれて、その音色とともに日が暮れる光景に、心が癒されていく。

そんな生活を送る中、宮浦英夫監督から一通のメールが来た。
夏休みのジプリ映画の撮影と放映が終わり、落ち着く年の瀬にいつもディナーに誘われる。
高校時代にジプリ映画に影響を受けて、小説を出版するようになり、縁があり、宮浦英夫先生から直々にアドバイスを頂いたりし、それから年に数回メールのやり取りやお会いして食事に行っていた。
メールを読むと、ディナーの誘いもだったが赤白歌合戦の出演依頼が本題だった。
NHAからの赤白歌合戦はいつもスルーしていたのが、今年は[海辺で約束して一生の恋]が社会現象化した事から、主題歌と挿入歌をエントリーしたいと交渉が来ていた。
わたしに関しては、顔出しNGのアニメーションキャラクターでない【知念日和】の登場を依頼され、困っている。
しかも、蓮翔こと【雨月晴太】とのデュエットなんて、無理だ。
あのスキャンダルに関しては、njs24のメンバーの1人が付きまとっていただけと記者会見で潔白が証明されたけど、付き合って半年間、恋人らしいことは何もなく、ただ蓮翔の仕事のサポートをしていた気がして、完全に気持ちが離れていた。
身体がつながってない関係だからか、絆が弱かったのか、離れて暮らす寂しさはまだあってもだからと会いたいと思えない。
一緒にいるのがつらい。

12月24日に宮浦英夫監督に誘われたから、久しぶりに東京へ戻った。
監督と待ち合わせてる店が銀座だから、蓮翔に遭遇しないか怖かったが、タクシーで移動し、道端を歩かないようにした。
食事をしたのはまさかのBAR蒼月で、高遠オーナーが蓮翔に連絡しないか気が気じゃなく、お会いしてすぐに口留めした。
その事で、父のように慕っている宮浦監督に蓮翔との関係を話し、赤白のデュエットについてお断りをしたいと伝えた。
それと、小説家としての仕事に専念し、アーティストとしては引退したいと伝えた。
何も後ろめたい事をせずガセネタの熱愛報道に間に受け、蓮翔から離れ、蓮翔が塞ぎ込んでることを高遠オーナーから伺っても、自分の中ではもう、蓮翔と歩んでいく気持ちがないと2人に伝えた。
蓮翔がわたしがいないと新曲もかけず、不調な事から、高遠オーナーはわたしに
『蓮翔ともう1度会って話し合うように』
と、いい、宮浦監督は
『凛花ちゃんが利用されてる感があってくるしいならはなれなさい』
と援護してくれた。
赤白歌合戦については、曲を流すことに関しては承諾してる事から、最悪、アニメーションキャラクターのVTRで誤魔化して出演をするように宮浦監督に言われた。

宮浦監督とのディナーを終え、自宅マンションへ帰り、休んだ。
NHAから毎日メールがきて、それに目を通すのも面倒くさい。
『物書きのアーティストだから作品を書き始めたら引きこもる』
『歌番組などのパフォーマンスをバカにしてる』
など、大物歌手からも言われてるようで、ため息しか出ない。

25日、早朝にNHAにメールを打つ。

沖縄の●●島から中継で出演します。
キャラクターアニメーションでなく、わたし自身が歌います。
そして、最後に、小説家として専念するため、アーティストを引退する旨を発表させて下さい。
お願い。中継先については、中継まで極秘にして下さい。

朝1番の飛行機で沖縄へ飛んだ。
そして、赤白歌合戦でどう演出するかを考えた。
曲のパートとして、
1番【知念日和】 沖縄
2番【雨月晴太】スタジオ
サビ1  アニメーション
3番【知念日和】沖縄
4番【雨月晴太】スタジオ
サビ2 アニメーション
サビ3 PD【雨月晴太 】君がいた夏

持ち出した蓮翔が沖縄で撮影した動画をパソコンで加工し、サビ3の曲に合わせた。
そのデータも情報が漏れないようNHA沖縄から中継で流すようにした。
23時30分からの生中継だから、天気も気になる中、月の光とライトの灯りでどう照らすか。
なにより、大自然の中で歌うと声が響き難い問題がある。
マイクを最高級の物を使うなど、27、28、29の夜中に試行錯誤を繰り返し、なんとか形になった。
ただ、生でリハーサルなしで行うと伝えているから、蓮翔の反応が怖い。



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