婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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婚姻式の日 ~後宮にて・グレース~

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私達はあの後、無言で歩き進めた。
顔見知りの衛兵達ばかりになり、とうとう私の居室の居間へと続く扉の前に着いた。
今まで後ろについていた侍女達がスルスルと前に進み、扉を開いた。
中からはフェリシア様と侍女達の小さな笑い声が聞こえて、自分の鬱屈とした気分を慰めて貰いたくなる。
不意に笑い声が止んだ。

「グレース?終わったの?」

フェリシア様が立ち上がり、私に声を掛けてくれる。
学園時代から変わらない、私を呼ぶ声。笑顔。
その笑顔がスッと消えた。
私の後ろにいる第2王子妃キャロラインの存在が、フェリシア様の笑顔が消えた原因だ。

「お義母様、そちらの方かしら?」

キャロラインの声で、フェリシア様は貴族達の前と同じ笑顔でこちらに向かってきた。

フェリシアはグレース妃とキャロライン妃の前に立つと、ため息が出るほど優雅な挨拶をした。

「久方振りにございます。私はシュバルツバルト侯爵家当主ハインリッヒの妻で、フェリシアと申します。第2王子ウィルフレッド殿下正妃キャロライン妃殿下と、この様にお近付きになれるとは夢にも思いませんでした。」

スラスラと口上を述べ、さも嬉しそうな顔をするフェリシア様にキャロラインも笑顔を浮かべる。

「久方振りです。お義母様にどうしても紹介して欲しい方がいたので、無理を言ってついてきてしまったの。ねぇ、お義母様シュバルツバルト侯爵夫人がそうなんですの?」

キャロラインは無邪気そうな口振りで、私に確認を取ってくる……フェリシア様の言ったとおり、中々に逞しい方だった。

「えぇ、そうです。今日、あの娘の支度を手伝って下さったのはシュバルツバルト侯爵夫人です。」

キャロラインから笑顔が消え、今まで見たことの無い顔でヒタとフェリシア様を見つめる。
そう……まるで慣れ親しんだ配下の者と対面した支配者のような顔でフェリシア様を見つめるキャロラインに不穏なものを感じた。

「お義母様、私シュバルツバルト侯爵夫人と帝国の話をしたいのですけど少しお借りしても?」

帝国の話ですって?いったい……

「グレース…私、キャロライン様と少しだけお話しても良いかしら?ついでにお部屋にお送りしますわ。」

え?……キャロラインとフェリシア様がお話?帝国絡みと言うこと?
思わず、フェリシア様を見つめる。

「グレース、ちょっとした事よ。少しお話したら、戻って貴女に教えるわ。だから安心して。」

フェリシア様は少しだけ困ったお顔で仰る、私はいつだってこんな風にされると負けてしまう。

「フェリシア様、お約束ですわよ。」

「ありがとう、グレース。では、お送りいたします。皆ついてくる様に。」

フェリシア様はご自分の侍女達に命じると、侍女達は無言で頷きフェリシア様の直ぐ側へと寄って行った。
そしてフェリシア様はキャロラインと共に侍女達3人を連れて居室から出て行った。
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