婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
98 / 756

討伐の旅 12

しおりを挟む
食事も済んで、一人安いベッドでゴロリと横になる。
今頃マリアンヌは一人寂しく過ごしているだろう……愛し合って婚姻してのに、早々に討伐隊として旅立った俺を心配してるだろう………
薄暗く埃臭い安宿は、酷く惨めな気分になる。
…………?ドカドカと激しい足音がする……一体何事だ?

ーシュタイン、重要な案件だ。野営地に女は入れるな!魔物からすればご馳走らしい。それと俺達の野営地から村を挟んだ向こうに魔物の群れが居るとの情報だ、心当たりはあるか?俺は今から向かう所だ。ー

ーキャスバル様!女が魔物を呼ぶと言う事ですね、心当たりはあります。同道しているクズイ子爵令息がこの村の娼婦を野営地に連れ込みました。私も一緒に行きます。ー

!!!ミヒャエルの野営地に魔物がいる?しかも群れで?
俺は飛び起き、いまだ解いてなかった武装のままで良かったと部屋を飛び出した。

「シュタイン!ミヒャエルの野営地が襲われているって……」

俺の目の前にシュタインと一緒に居たのは、エリーゼの兄だった……冷たい美貌と男らしい引き締まった体の美丈夫………姦しい城勤めの女達が遊びでも良いから抱かれたいと話していた次期侯爵………俺の苦手な男がそこに居た。

「殿下……えぇ……キャスバル様からのお話では、そのように今聞いた所です。」

「シュタイン、悪いが出遅れるのは嫌なんでな行かせて貰う。」

そう冷たく言い捨て、早足で俺の前から遠ざかる。

「殿下、あちらは危ないです。どうか、こちらでお待ち下さい。私は隊長です、報告の義務もありますから行かねばなりません。」

外に出ようと踵を返すシュタインの背に向かって、つい叫んでしまった。

「ミヒャエルは俺の友人なんだ!心配なんだ!一緒に行かせてくれ!」

俺の叫びに立ち止まったシュタインはチラリと振り返った、苦々しい顔で……

「分かりました……ですが、必ず皆の前に出て来ないで下さい。皆の後ろに居る事をお約束下さい。」

「分かった。」

シュタインは俺の希望を受け入れ、連れて行ってくれた。
馬に乗ってミヒャエルの野営地で見たのは、屈強な兵士達と次々と倒される大きな牙を持つ猪と引き裂かれた天幕…………そして人間の一部だったと思われるグチャグチャに踏み荒らされた肉片と赤黒く染まった地面。
獣臭と血と肉の匂いに俺は耐えきれなくて、宿で食べた食事を吐き出した。
ゲエゲエと吐き出し口元を袖で拭って、改めて野営地を見渡すと一際大きな牙を振るう巨大な猪が居た。
その巨大な猪と戦っているのはエリーゼの兄達だ………
あんな巨大な猪と戦うなんて…………

「エリーゼ様………」

シュタインの驚きに満ちた、小さな……本当に小さな叫びに俺はシュタインの視線の先……あの巨大な猪を見る。
居た………巨大な猪の背に乗り、何度も剣を突き刺しては抜いてを繰り返していた。
大きく振りかぶって………グラリと………倒れる!

「エリーゼ!」

思わず叫んでしまった。

エリーゼは倒れる事無く、攻撃を続けていた。
エリーゼは絶え間なく攻撃し続けていた……そして………そしてエリーゼが飛び降りて少ししたら、巨大な猪は音を立てて倒れた。
ミヒャエルが亡くなった事よりも、エリーゼが魔物と戦っていた事の方が驚いた。
しおりを挟む
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

処理中です...