婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
198 / 756

コレットの怒り 注意!このお話は少し未来のお話です!

しおりを挟む
「む、来たか……どれ…………これは酷いな……」

「アリスティアよ、届いたか?」

「はい、コレット様届きまして……此方を。」

「アリスティアよ、アヤツ等はここへ連れて参れ。良いな。」

「畏まりまして。」

白銀の長い髪を結いあげる事もなく、幾つもの房に分け小さな鈴を付け白いドレスの上に鮮やかな色とりどりの刺繍を施された変わった形のガウンを数枚羽織った老婆は木造の大きな屋敷へと入っていく。
見送った淡い金髪の熟女は朱色のドレスに同じような朱色の変わった形のガウンを数枚羽織っていた。熟女の名前はアリスティア、夫は帝国宰相アーネスト・コレミツ・ド・シルヴァニア公爵。

「誰ぞ、ここに。」

「お呼びで。」

いつの間にやらアリスティアの足元には、紫紺の髪を持つ若い女が跪いていた。

「うむ、大婆様がお怒りじゃ。これを……こやつ等二人は里へ連れて参れ。ご禁制の薬に近い物を作ったようじゃからな。」

「これは……なる程、大婆様がお怒りになるのも分かります。首を送った後でよろしいですか?」

「当然じゃ、首の行方は捕まえたようじゃからの。私の小姫が上手い事運んでくれるじゃろう。」

「フェリシア様が動いて下さると?」

「小姫からの依頼もあったが、思いのほか外道。何ぞあの国も焦臭い事よ。」

「では、そのように動きましょう。」

紫紺の髪の女は音も無く消えた。
アリスティアは香木で作った扇子を広げ、遥か彼方遠くに見える白い山脈の向こうを見つめる。

「妾の小姫よ……思いのほか其方の近くは腐っておった。これで少しは其方の悩みが晴れれば良い。」

朱色のガウンを翻し、アリスティアも又木造の屋敷へと消えて行った。

空に色とりどりの小型のハーピーが飛び交い、何処かへと目に見えぬ程速く飛んで行く。
白い山脈の向こうへ何羽も……何羽も。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「エミリ様、里から来ました。此方を。」

「……フェリシア様をお呼びしましょう。」

「エミリ、呼ばなくても良いわよ。誰からなの?」

「アンナです。大元は大婆様です、ご禁制に近い物を作ったようで里に連れて来いと。」

「そう、では里送りにしましょう。……二人……ね、事故に見せかけて攫ってしまえば良いわ。首は抑えているから問題は無いでしょう。ヒュージとノットが隣接しているから、その二家に支援させれば良いわ。」

「では、そのように……失礼致します。」

「「私達も、これで。」」

「ええ……」

手の中の小さな紙切れをグシャリと握り潰す。

「外道も外道。到底許せぬ…………だが、まぁ良い。大婆様ならば到底、死んだ方が良いと哀願するほど故な……」

遠くに見える白い山脈の向こうを見つめる。
あの白き山々の向こうにお母様やお祖母様がいる、いつもご機嫌で微笑んでいた白銀の髪の大婆様……幼き私をいつでも膝元に呼んでは色んな事を教えて下さった……あの大婆様がお怒りならば、ただ事では無い。きっと私に教えて下さらない事がある。
ご禁制は遥か彼方昔、里長様が決めた品々……大婆様の話では、外道中の外道が手を出す品だと教えて下さった。
でも大婆様って……お母様が震える程恐れていたのよね。
どんな仕置きをなさるのかしら?少し興味があるわ。

ねぇ……大婆様、幼き頃のように教えて下さいますか?
しおりを挟む
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

処理中です...