婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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ユキとピカ太郎(タコ祭り前に)

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エリーゼの部屋にユキとピカ太郎とルチルは入って行った。
アニスも快くルチルを迎え入れた。
ユキは毛足の長い絨毯の敷かれてる丸テーブルの足元へと進み、静かに伏せるとアニスはサッと椅子を一カ所に寄せる。

特に喋る訳でもなく、ピカ太郎とルチルはユキから降りる。
白くて長い美しい毛を持つ雪狼は、その毛の美しさと保温性の高さ故狩られる。
その雪狼であるユキはコロンと横になると、前足でピカ太郎とルチルを自分の腹へと寄せる。
ピカ太郎とルチルは甘えるようにユキのお腹に埋もれるように体を凭れる、待っていたかのように長い尾が二匹の体を隠すように覆い被さる。
ピカ太郎もルチルもその温かさに大人しくされるがままだった。
やがてユキは少しだけ体を丸くし、ピカ太郎のおでこから頭の天辺へと舐めて毛繕いを始める。

「ピカ……ピカ……チュ……」

小さなピカ太郎の甘えるような鳴き声は、聞いてる者からすると初めて聞く少し高い鳴き声だった。
ルチルからすれば、
初めて聞くピカ太郎の甘え鳴きだった。
その甘え鳴きを聞いたルチルは胸の辺りがポカポカと温かくなるのを感じた。
ルチルはおかあさんを思い出していた。そしてピカ太郎が眉を寄せて甘える自分を見ていたことも。
今なら分かる。
(にいにもママにくっついていたかったんだ……)
ルチルはソッとピカ太郎に体を寄せて長くて白い毛に包まれる。

僅かな時間でも、ユキとピカ太郎の大切な時間。
静かであたたかい時間が流れている。
アニスも邪魔をしない、ここにはルークもノエルもいない。
ルチルの狭い視界には真っ白なユキの毛とピカ太郎の黄色い毛しか見えない。
温かくて幸せな静かな時間だった。
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