婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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思いもよらぬ機会(三番隊のある隊員)

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今日は本来なら天幕を畳んで荷馬車に積み込み、領都にある三番隊専用倉庫に荷馬車ごと突っ込んで新年の長期休暇に入る筈だった。
だが昨日の深酒と休暇長期前の相棒との別れを惜しんだ今朝は毎年と同じようにのんびりと過ごしていた。
ところが、港街からクラーケンが出たと報せが届いた事でのんびり過ごす事は出来なくなった。
……軍馬に乗って駆けつけた時には、時既に遅くエリーゼ様がクラーケンを魔法で楽しそうに討伐していた。
それはもう、良い笑顔で。
そして、あろう事か赤いクラーケンを食べると言い出した。
俺達は遠巻きに見ていただけだが、近くにいた漁師達は焼いたクラーケンの一部と水を与えられていた。
喜んで口にしていたが、赤いクラーケンは相当美味かったらしい。
それだけじゃない。あの水も大喜びされていた。
エリーゼ様は声高らかに、赤いクラーケンを夜に振る舞ってくれると宣言した。
正直、あんなに漁師達が喜んでいたのなら味わってみたい気持ちが湧くってもんだ。
エリーゼ様の考案された料理や甘味はこれまでの料理とは全く違って美味な事この上ない。甘味に至っては味わった事が無かった。これまで甘いと喜んでいた物がかすんでしまう程甘く美味しかった。
きっとあの赤いクラーケンも美味い料理になるに違いないと全員一致でもう一日お邸に泊まる事にして天幕を畳む事なく待機している。
そして今日、赤いクラーケンを食すと言う事で多分ワインが振る舞われると俺達は踏んでいる。
夕方になろうかと思う頃合いに漂って来た、香ばしい香り!
俺達はほんの僅かな軽食をとって、その時を待つ。
昨日に続き今日も思う存分飲めるかと思うと嬉しくて仕方ない。
ソワソワとしながら天幕の近くをうろつく。
俺たちだけじゃない。
隊員全員がウロウロと目立たないように様子伺う。
チラチラと天幕の影から見ては、今か今かとその時を待つ。

……今日こそは長期休暇前最後の夜になる筈だ。ワインをたらふく飲めんで明日こそは長期休暇に入る……筈だ。
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