婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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極寒のシュバルツバルト王都邸 そして元皇女達

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王都が雪と氷に覆われる真冬、シュバルツバルト侯爵王都邸は多くの人がいた。
最初は近隣に住んでいた平民だった、やがて平民同士の口伝てで……それが密やかな噂になってシュバルツバルト領へ移民となれば生活出来ると聞いて多くの平民が王都邸へと集まっていた。
いつの間にか年がら年中領地から定期的に来る頑丈な荷馬車が一台増やされ、月に二回があっという間に四回来るようになっていた。
来る時は様々な食料や布等から数多ある雑貨や生活用品を乗せ、帰りには旅に耐えれそうな者達を乗せて領地へと帰って行く。
中には栄養失調等で到底連れて行けない者もいたからだ。
さすがに王都邸の領主一家が住む本館には入れられないが、使用人棟や幾つもある兵舎の空室は使用を許された。
外の庭に降り積もる雪の中、遊ぶ者はいないが兵舎の鍛錬場は子供達の遊び場には丁度良かった。
大きな荷馬車が四台護衛騎士と共に来る日は多くの平民がソワソワする。
ここに来て食事を与えられ、何枚か衣服を誂えられ顔色も良くなった者達は荷馬車で一路シュバルツバルト領へと向かう。
彼等は最初にシュバルツバルト領には大きくて恐ろしい魔物の出る領地だと教えられる。
だが、街等の集落は魔物除けにより守られている事や働き口は沢山ある事。
それこそ女子供でも仕事がある集落も多い事を教えられる。
働きさえすれば暮らしは苦しくないと説明される。
順番待ちしながら待つ平民達は荷馬車に乗って新天地を目指す。
発展の止まらないシュバルツバルト領は人手不足過ぎて手段を選びたくないが、人攫いみたいな真似は出来ないと暮らして行けなくなった王都民をスカウトして領地民を増やしていた。
シュバルツバルト領行きの事を知らない王都民や、知っていても辿り着けなかった者達は王都の路地の片隅で冷たくなる者は少なくなかった。



ツイと王都の鈍色の空に色鮮やかな鳥の姿がチラと見えたが、直ぐさま鈍色の雲の中消えて王宮へと飛んでいった。
後宮の煌びやかな一室にその部屋の主と腹心の部下である侍女が二人いた。

「ルーク殿下がシュバルツバルト侯爵家へ婿入りしますが、婚姻式に皇太子殿下が第三側妃様をお連れして祝いに行くとの事です」

「……私の時とは大違いね。やはり近しいと行きやすいのかしら?」

「それだけではありません。里の大婆様と婆様が行くと……フェリシア様の時ですら動かなかった方々が行かれます。大変な事です」

「何となく分かるわ」

主は白く細い美しい指先で贈られた菓子を摘まみ口の中へと押し込む。
今まで食べて来た甘味は一体何だったのか?と思う程の甘味……お菓子と言われる其れ等を齧りながら自分も行きたいと思うが到底旅費を工面出来ないと分かっていた。

「ルークが幸せになるなら良いわ」

そう言って鈍色の空を睨み付けた。
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