この婚約破棄は正しいのか?

竹本 芳生

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真の愛

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毎日学園に通いながら執務も行い、剣技の訓練もする。
この国の第一王子として生まれたのなら仕事も勉強も出来て当たり前。
剣技も騎士並に出来て当たり前。
だが、王子として生まれた以上笑顔を絶やす事は許されない。

「レクサス殿下、どうされましたか?剣技に迷いが生じておりますぞ!」

私の剣技を指導してくれるハマー将軍。
筋骨隆々で厳つい面差し。顔と言わず体中傷だらけで彼が並々ならぬ戦火を潜り抜けて来たのが分かる。
私は戦前に行ったとしても後方で指揮を振るうフリだけのお飾りにしかなれないだろう。だが、それでも前線に立つ一般兵士や職業軍人……後方支援の者達に至るまで士気は上がるだろう。
度々国境付近にチラホラと隣国のちょっかいが見られる以上、いつ本格化してもおかしくない現状呑気に構えておくのは王家の一員……次期王太子になろうと言う立場である私が取るべき姿では無い。
少しでも体力をつけ、皆の足手まといに成らぬよう鍛えておかねば……

「レクサス殿下、無理は厳禁ですぞ。多少の疲れならば宜しいですが、無理が祟れば鍛える所か病に倒れ寝込む羽目になりかねませんぞ!さ、少し休憩に致しましょう」

「そうか……分かった」

「必要に応じて休憩を挟み、無理せず鍛える事が大切ですぞ!かつて私めも、その様に教わりました。だからこそ言えるのです、無理は禁物だと」

なる程、ハマー将軍が言うならその通りかも知れない。
将軍の先導で訓練所の端にある四阿に向かう。
……思ったより疲れているのか?刃を潰した練習用の剣が重く感じる……
アッ!と思った瞬間、剣の重さにとらわれ足が縺れる。

「殿下!」

先を歩いていたハマー将軍が私の体を抱き留めてくれた。
私よりも上背がある分厚く大きな胸板、太い腕……私よりもガッシリした体……
飛来したのは大きな体に包まれた事で感じた安心感。
ああ……この体にずっと抱き締められたら……
いけない!私は一体何を!私はアルファード公爵令嬢と結婚し、子供を……だが……だが、一人前の男として未熟な私がかの令嬢を娶り立派にやっていけるのだろうか?

「殿下?……レクサス殿下、一体どうされた?」

「すまない。ハマー将軍は……力強いな……」

「ははは……レクサス殿下も鍛えればお体も大きくなりますぞ!まだまだ、これからですぞ!」

私は何と返事をすれば良いか分からず、曖昧に笑って誤魔化した。
私へ愚かで矮小な男だ。強く男らしいハマー将軍とは大違いだ……

そして日々鍛錬する度にハマー将軍への憧れが募る。無理をする度に私を気遣い、時には私を横抱きにし四阿へと連れて行ってくれるハマー将軍に憧れではない気持ちが芽生えてしまった。

いつからだろう私のハマー将軍を見る目も、私を見つめるハマー将軍の目も変わったのは。
きっとそんなに長い間では無かったと思う。

雨の日だった。
いつものように鍛錬は出来ない。自分の部屋で恨めしそうに空を見つめる。
ハマー将軍に会えない事が辛い。
……いや、鍛錬ではなくとも毎日剣技を見て貰っているのだ。礼を兼ねて共にお茶を嗜み、少し話し込んでも良いだろう。

「誰か、ハマー将軍を呼んでくれ。お茶と菓子の用意を!」

そう命令し、ハマー将軍が来るのを待つ。
そうして私の部屋に来たハマー将軍わ見て、私の心は浮き立ち喜びが溢れる。
折角の時間!誰にも邪魔されたくなくて人払いをし二人きりになる。
楽しい時間はあっという間で、下がろうとするハマー将軍に思わず縋った。「行かないで欲しい」と……
そして気付いてしまった。
私のこの心が何なのかと……
私を見つめるハマー将軍の気持ちを……
そして告げられたハマー将軍の本心。
「私、ゲレンデヴァーゲン・フォン・ハマーはレクサス・フォン・クラウン殿下を愛しております。どうか不埒な私を罰し、国境へ追いやって下さい」
涙ながらに訴えるハマー将軍に縋りつき、私は離れて欲しくないと訴えた。
「頼む……愚かな私を見放さないでくれ……私の安寧はハマー将軍の腕の中なのだ……頼む……私を……将軍の腕の中に……」
誰もいない部屋の中、私はハマー将軍の腕の中喜び……咽び泣いた。
もはや誰にも止められない真の愛を手に入れたのだ。
私の罪へ恐らくは弟であるシーマがとりなしてくれるだろう。
シーマよ、愚かな私を許しておくれ。
そして我が婚約者であるアルファード公爵令嬢よ、必要以上に熱い目で見つめていたシーマを望んで欲しい。
私が出来る唯一の事だ。どうか上手く利用して欲しい。
貴女にも真の愛を手に入れて欲しい。
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みんなの感想(5件)

さごはちジュレ

切ない恋が実ってハピエンなのに大変失礼なのですが・・・・・・

ルーインさまに持ってかれました、スミマセン

解除
ひゅうが ちなつ

腐れきった私にはめっちゃ素敵なお話でした(*´艸`*)

将軍が殿下を姫抱っこした後、自分の衣服に残った殿下の香りに堪らなくなって自室に戻った後一人慰めていたりしたらもう最高なので、この乙女ゲームをプレイしたいものです(▼︎∀︎▼︎)ニヤリッ

2020.03.17 竹本 芳生

私もプレイしたい!
(∩´∀`∩)
何、そのBLエンド♡美味し過ぎるんですけど(笑)
きっと将軍も攻略対象ですよね!

……どんな乙女ゲームなのか……
。+゚(*ノ∀`)

解除
ルーイン
2020.01.28 ルーイン

凄まじくどうでもいいリアルでの会社の後輩(男)とのタイムリーな今日の会話。

後輩(´◉◞౪◟◉)「パイセン。パイセンて『おねショタ』有りでしたっけ」

結石野郎(`・ω・´)「いきなりなんやねん。大好物だ」

後輩(´◉◞౪◟◉)「クックック・・・幼くウブなショタはやがて青ヒゲ生えだしてワキや股間もフッサフサになり、お姉さんはやがてお肌が曲がり角になるんすよぉ。『おねショタ』はやがて『女性と少年』になり、『オバハンと青年』になり、『BBAとオッサン』になるんすよぉ!!」

結石野郎(;゚Д゚)「ヤメろやテメェゴルァ!!『おねショタ』は『おねショタ』なんだよ!お姉さんはお姉さんで、ショタはいつまでもピュアなショタなんだよ!『ネバーエンディングおねショタ』なんだよ!!卑怯な手段でお姉さんを罠に嵌めてエロい真似するようなのは『ショタ』じゃねえ!ただの『性根の腐った更生のしようの無いクソガキ』なんだよ!『ショタおね』なんてこの世には成立しねえんだよこの童貞が!!!」

後輩(´◉◞౪◟◉)「そんなこと言ってぇ。パイセンだって童t」

結石野郎(`・ω・´)「・・・お前と社長(男性)のBLのSS書いてお前の実家に郵送すっぞ」

後輩(;゚Д゚)「・・・サーセン。それだけはッ」

・・・仕事中に、なんの話してんでしょうねえ、オイラ。

2020.01.28 竹本 芳生

ヤバイ( ´艸`)楽しそう!

解除

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