料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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奇妙な偽者

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「ほう?」

 俺たちの知る辺境伯の拍手は止まる。相変わらず自称セロ・ブラッドを睨みつけたままだ。

 それにしても、何が「ほう?」なんだ?

 ええい! くそ! こんな奴らを相手にしている暇なんてないのに!

「どうやって帰還した? もうすっかり下人としての人生を歩んでいると思ったのだが」

 自称辺境伯が名乗らずの辺境伯を睨み返す。

「さてな。ただ記憶は、女騎士が死んだ辺りから再開している。貴様が何者か知らんが、いい加減ワシを名を騙るのはやめろ」

「ということはサーカ・カズンに何か秘密が?」

 下人の言葉を無視して、辺境伯は自前のゴーグルを触ってから、サーカの遺体を見ている。

「いや! 違うぞ! セロ・ブラッド。お前の読みは外れた! 原因は、オーガだ! これまでは魔法を使って視ていたから発見できなかった」

「なに?」

 あぁ、こいつらは探求者か。

 どんな時でもお構いなしに、興味あるものを追求する。

 俺のどこに興味をそそるってんだ? サーカを失って、悲しみに打ちひしがれる俺の、何が面白い!

「彼は地球出身者だ。ほうほう、情報を更新しない間に、地球人はここまで進化したか!」

「なんの話だね?」

 自称辺境伯の片眉が上がる。俺も同じ表情だ。

「なるほど、なるほど。感情が高まり、体の機能が空回りするとき、一部のナノマッシーンが、不要な熱を放射するために体から離れる。で、熱を放出した後のナノマッシーンは、その後どうなると思うね?」

 そりゃ、消滅するに決まってるだろ。っていうか、なんで辺境伯はそんな知識があるんだ? 大神聖にでも会ったのか?

「熱を放出し、エネルギー切れで消滅する」

 一応、俺は答えておいた。

 何かに夢中になっている辺境伯から情報が得られるかもしれない。その知識に、サーカを今すぐにでも蘇らせる知識があれば最高だ。勿論、そんな都合良くいくとは思わないけどな。

「そう。だが! それだけじゃぁない! 答えが、解るかね? オビオ君」

 くそ! 俺は科学者じゃないんだ。深くは知らないよ!

「えーっと・・・。いくらかの素粒子を道連れにする」

 これはサカモト粒子の性質だ。地球人なら誰でも知っている知識!

「違う。残念。答えは、消滅するまでに、見覚えのない異物を巻き込む。主を少しでも守る為にな」

 似てるけど違うのか。くそ、問答なんてやってる暇はない。早く有益な情報をくれ!

「つまりワシの放ったナノマッシーンは、感情の昂ぶった君のナノマッシーンに葬られたのだよ。それで、セロ・ブラッドが正気に戻った」

 どういう事だ? 俺のナノマシンが辺境伯のナノマシンを葬った? じゃあ、この辺境伯は地球人なのか? どう見ても樹族だが?

「話自体はよく判らんが、流れからすると、下人が本物の辺境伯でいいのか?」

 トウスさんが、困惑顔で顎あたりの毛を捻った。

「ああ、そうじゃ。何かの弾みで記憶が戻らんように、ブラッド辺境伯の名を、誰にも言わせまいとしておったのじゃが・・・」

「となると、あんたが偽者か?」

「そうじゃが。それがどうした?」

「だったら答えは簡単。あんたをぶっ倒すまでだ。偽者なんだろうが?」

「うむ。それで?」

 一瞬、間が空く。

 挑発されたと感じたのか、トウスさんが怒って唸りだした。

 なんだこの、偽辺境伯の余裕は。

 ちょっと前まで、ユーザインの料亭で料理対決してた頃の俺たちとは違う。あの時は、まるっきり戦闘態勢をとっていなかったので、急に魔法か何かで眠らされても仕方がなかった。

 だが、現状は少なくとも俺たちは身構えている。それに本物の辺境伯と偽者は敵対したはずだ。

「ブラッド辺境伯! 一応訊いておきますが、どっちに加勢しますか?」

 俺は念の為、本人に訊いてみた。

「勿論、君たちだよ。偽者には身分を奪われたのじゃから」

 それを聞いて、俺は急いでサーカを地面に下ろした。

(ごめんよ、サーカ。暫く冷たい床に寝る事になるけど我慢してくれ)

「何者か知らないが、あんた。これから、俺たちは辺境伯の地位奪還に加担する。なにか言うことはあるか?」

「いいや」

 ゴーグルは俺に向いているのに、俺自身には興味なさそうなその態度。むかつくぜ。なんなんだよ、お前!

「じゃあ、最後に質問いいか? あんたは何で、俺たちとダーレを戦わせた?」

「面白そうだったからじゃよ」

「十分!」

 よし!

 こいつをぶっ倒すのに、これっぽっちの迷いもない。

「これがなのか? 目的のためなら人を人とも思わないその考え。俺はあんたを許せない!」

 こちとら、サーカが死んでんだぞ! わけのわからないお前のせいで! 剣を返しに来ただけなのに、どうしてこうなった!

 意識が静かに、そして深く沈んでいく。奇妙な落ち着きが俺を包む。

 地球人が覚醒した時のそれだ。

「まずはお前の正体を暴いてやるからな!」

 俺はそう叫んで、空中で魔剣蛇殺しを握りしめ、偽辺境伯に急降下した。
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