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第五章 魔導大会編
319話 使い魔の能力
しおりを挟む……突然だが使い魔とは。固有に一つの能力を持っているモンスターのことである。
ただモンスターを自らの相棒とするだけならば、そのへんのモンスターを調教でもしたらいい。
そうしないのは、使い魔として召喚されたモンスターには能力が付与されるから。
召喚者と使い魔の視界は共有することができる、など細かい利点もあるが、明確な形で能力は存在する。
今、リリアーナが召喚した蛇。名を「ハク」。その牙には毒があるが、この蛇は毒蛇だ。使い魔としての能力は、毒ではない。
ちなみにサーペントの種類の蛇には大型が多いが、彼女のものは小型である。
蛇の能力は、ブルドーラが予想したように、己の体重の増減変化だ。体重を羽のように軽くすることや、鉄のように重くすることもできる。
使い魔の能力は、それぞれだ。同じモンスターでも、まったく違うものもいる。
ちなみに、ゴルドーラの使い魔サラマンドラだが……彼にも、能力はある。
しかし、能力を使うまでもなく強大なモンスターなので、使うときはあまりない。せっかく能力を得ても、モンスターが強大だからこそ使うことのないものもある。
「ぬぅっ、こんなもの……っ……」
さて、ブルドーラの足首に、リリアーナが召喚した使い魔のハクが牙を立てる。
魔法どころか魔術をも弾く肉体……牙を立てても突き刺さることはない。
しかし、刺さらなくていい。触れるだけで、充分だ。その牙にある毒は、触れるだけで岩をも溶かす力を持つのだから。
「っ、めまい……がっ……」
もちろん、結界内であるためにそのような被害をもとらすことはない。が、毒の効果までもなくなるわけではない。
即効性の毒は、肌に触れただけでめまいを起こすほどの事態を引き起こす。
逃げようにも、ハクの鉄のような重みが足枷となり、逃げられない。
もっとも、わずか数秒で方向感覚すら失ってしまうのだが。そうならないのは、やはり体内に毒を送れなかったからか。体内に毒を流すか、体外に毒を付けるか……その差は大きい。
ふらつきながらも、足元はしっかりしているように見える。
もちろん、毒が回り切るまで悠長に待っているつもりもない。
魔術の詠唱が完了し、リリアーナは杖を振るう。
「荒風刃斬!!!」
瞬間、ブルドーラの周囲を風が囲む。これは突風……いや嵐とさえ見間違うほどの強大なエネルギー。しかし、規模はブルドーラを囲う程度だ。
外から見れば、それは嵐の球体とも言える。その中に取り込められたブルドーラは、周囲を見回すが……
突如、なにかに斬りつけられる。今までいかなる魔法も通してこなかった体に、傷が付けられたのだ。
それは、風の刃。風の球体に囲まれ、吹き荒れる風の刃が次々と、ブルドーラに襲い掛かる。
「ぬぅううう……!」
たまらず、顔を庇うように両腕を移動させたブルドーラだったが、無防備となった体に次々と刃が刻まれていく。
ふと、足元を見た。これだけの風の刃、足を縛っている蛇もただでは済まないはずだ。まさか使い魔ごと……
……いつの間にか、蛇は消えていた。
「っ!?」
使い魔召喚のできないブルドーラはあまり使い魔の知識を持っていない。使い魔は召喚者の意思で消すことが可能だ。もちろん、視覚的な意味ではなく物理的な意味で。
魔術を唱えると同時、リリアーナはハクを消していた。なので、ハクが巻き込まれることはない。
しばらくの間、閉じ込めておけば……戦闘不能と、なっているはずだ。
「すごい……」
それを見て、コーロランは素直に称賛の声を漏らす。
ゴーレム召喚以外の魔術を使えないコーロランにとって、様々な種類の魔術を、それもかなり大規模のものを使える兄ゴルドーラは尊敬の相手だ。
今日こうして、リリアーナの魔術を見ることができた。ゴルドーラに負けず劣らずの魔術……舌を巻くばかりだ。
今は魔術を使えなくとも、学園で学んでいけば身につけることができるだろうか。
……同じ一年生でありながら、ゴルドーラに匹敵するエランの存在は、ちょっと泣きたいくらいにうらやましいが。
「っと、ぼくも……!」
いつまでも見とれているわけにはいかない。ブルドーラのおかげで選手は大幅に減ったし、当のブルドーラも倒れるのは時間の問題だろう。
ならばここで一気に、ケリをつける!
「不死たる身体を形成されし人造なる人形よ……」
魔術詠唱を開始する。当然それを食い止めようとする他の選手だが、コーロランは身軽に後退しつつ詠唱を続ける。
防御しながらやったり、エランのように飛んだままやったり分身してやったり……そんな高度な方法は、コーロランにはできない。
だから、相手の攻撃をかわしながら、唱えていくしかない。
「我が下僕となりて眼前に姿を現せ!」
兄と妹と同じ、ゴーレムを召喚するための詠唱が完成する。妹は無詠唱だし、兄のものと比べるとでかいだけで質は全然だが……
だが、この場においてはでかさこそ力だ。
「人造人形!!!」
唱え、直後出現するのは巨大な土人形。見上げるほどの巨体が出現し、選手一同の視線を集める。
みな疲弊してきたところでの、ゴーレムの召喚。これは、他選手にとって厳しいものがあった。
このタイミングで間違いはなかったと、コーロランはふっと笑う。
「さあゴーレム! 残りの選手をなぎ倒して……」
ドッ……!
……次の瞬間、なにか鈍い音が響いた。なにかを殴ったような、そんな音だ。
その数秒後……ゴーレムの体に、異変が起こる。その体がひび割れ、ボロボロと崩れていくのだ。
その光景に、驚きを隠せない。
「……は?」
一瞬、なにが起きたのか……コーロランは、そして他の者も目を疑った。
見上げるほどに巨大なゴーレムが、崩れていく。もちろん、コーロランはそれに関与していない。
外部からの干渉。それは……
「けぇーっへへはははは!
これがゴーレムか! けはははは!」
いつの間にか風の球体から抜け出し、ゴーレムの足元に立つ一人の男だった。
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