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第六章 魔大陸編

411話 これまでにない邪悪

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「よっ、とっ、と」

 私は、ビジーちゃんを動けなくして、レジーの対処をして、足を進める。
 レジーには、『絶対服従』の魔法がかけられている。それはまだ有効だったようで、術者である私の言葉には逆らえない。

 そのため、私はレジーに『私の邪魔をせずにエレガやジェラと戦え』的な命令をした。
 するとどうだろう。嫌がるレジーとの意思とは裏腹に、体は動きだし……

 レジーは、エレガとジェラのところへと向かっていった。上では、なんかギャーギャー騒いでいる。

「今のうちに……クロガネ!」

 結界に閉じ込められたクロガネを救うには、今がチャンスだ。
 私は、クロガネのところへと到達する。結界の中で、暴れまわるが結界は、壊せない。

 そもそも結界っていうのは、壊れないのを前提に作られるものだ。
 魔導大会でだって、観客席に被害がいかないよう、結界が張られていた。

 まあ、それはエレガたちに壊されてしまったわけだけど。
 壊れないのを前提だけど、壊れない結界もまたないはずだ。

「待っててクロガネ! お、りゃあ!」

 とにかく、考えるのは後回し。まずは、結界をぶっ壊す!
 そのため、私は右拳に魔力を集中して……

 結界へと、打ち込んだ。


 バキィン!


「……はれ?」

 その瞬間、激しい音を立てて結界が……割れた。
 確かに力は込めたけど、壊せるのにはもう少し時間がかかると思っていたんだけど……

 すんなりと、壊せちゃった?

『やはりか……この結界、ワレの力を封じ込めることに力を注いでいたようだ』

「クロガネの力を?」

『うむ。だからこそ、契約者の……外からの攻撃で、簡単に砕くことができた』

 結界の中から解放されたクロガネが、納得がいったというようにうなずいた。
 結界は、ちゃんと結界としての役割を、果たしていたらしい。ということは、だ。

 ……あの結界は、クロガネを閉じ込めるのにかなりの力を使っていた。クロガネが中から結界を壊せないように。
 そのせいで、他の部分へ回す分の力が弱くなっていた。

 つまり……中からの衝撃には強いけど、外からの衝撃には弱かった、ってことだ。

「へぇー、そういうこともあるんだね」

『結界には二種類ある。外と内、両方の力に強いもの。外か内、どちらかの強度が並外れているがどちらかの強度が脆いもの』

 結界にも二種類、か。
 両方の力に強い結界でクロガネを閉じ込められたらどうしようもなかったけど、クロガネの力が強すぎてどっちかの強度を上げるしかなかったってことか。

 閉じ込めているんだから、当然中を強くするよね。

「なんにせよ、すぐに救い出せてよかったよ」

『迷惑をかけたな』

「ぜーんぜん!」

 とにかく、クロガネは解放したし……下に置いてきたラッヘとルリーちゃんを解放して、さっさとここから脱出しよう!

 ガロアズやガローシャには悪いけど、私にとっては友達のほうが最優先。
 魔大陸にいたらルリーちゃんの体に悪影響があるとわかった以上、長くとどまり続けるわけにいかない。

 その時だ……

「!?」

 下から、急激な魔力の上昇を感じた。
 この魔力は……ラッヘ!? いったいどうしたんだろう。

 下で、なにか起こってるってことか。急いで確認しに……

「おいくそっ、離しやがれ!」

「黙れ! そこでおとなしくしてろ!」

 下へ向かおうとした私の前に、影が現れる。
 それは、レジーに戦わせに行ったエレガだった。

 さすがに、二体一じゃ分が悪かったかな……と、ギャーギャーうるさいところを確認すると、レジーは手足を拘束されて動けなくされていた。

「ちっ……余計な手間取らせやがって」

 エレガはというと、少し疲れた様子。体にも、少なからず傷がある。
 私の『絶対服従』の魔法の命令に従って、全力で二人を倒そうとしてくれたのか。戦いの跡が見える。

 ふむ、やっぱりあの魔法すごいな。レジーは仲間じゃないとは言ってたけど、少なくとも協力関係にある相手に本気で戦いに行かせられるんだから。

「あの魔法、エレガたちにもかけられたら楽なんだけどな……」

「やっぱりてめえのせいか、なにをしやがった」

「ったく、つくづく変なガキだね」

「まあ、それは難しいか」

 私の正面にはエレガが、背後にはジェラ……
 二人ともかなりお怒りのようだ。それはまあ、当然だろう。

 だけど……

「私のほうが、ずっと怒ってるよ」

 こいつらは、ルリーちゃんの……ダークエルフの故郷や仲間をめちゃくちゃにした。
 魔導大会でも、魔獣を解き放ち周囲をパニックにした。

 私のほうがずっと、ずっと怒っている。

「知ったことか! 出てこい!」

 エレガは、天に手を掲げる。
 すると、その先……空にヒビのようなものが入り、なにかの手らしきものが出てくる。

 それは、奥から出てきて……ヒビの入った亀裂を、広げるように……四つの太い手が、空間を広げていく。

「な、なにあれ……」

 その瞬間、感じるのはこれまでにないほどの邪悪な気配。
 これまで、魔物や魔獣といった脅威とぶつかってきたけど……なにこれ、そんなのとは比じゃない。

 クロガネと初めて会ったときみたいな、圧迫感……そして、殺意……!

 空間の亀裂から、出てきたのは……これまでとは、桁違いに感じる力を持った、白い魔獣だった。
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