25 / 84
第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第25話 殺し屋の家
しおりを挟む「ウチは、殺し屋の家に生まれた。んな話、現実離れしてるのはわかってるし、嘘だと思うなら信じなくてもいいさ。
物心付いた頃から殺しについてあらゆることを教え込まれてきたもんでな、殺し屋の世界についてもよぉくわかってる。ウチの両親も、依頼にしくじって殺されたからな。
確かに、こうして失敗したんじゃウチの命も危ういなぁ」
火車さんは、ポツポツと話し始めた。まず、殺し屋の家に生まれたと……その時点で、俺にとっては衝撃的な内容だった。
殺し屋の家なんて、そんな物騒なものがあり、そこで火車さんが育ったのだという事実に。
ただ……それが嘘だとは、どうしてか思えなかった。
「そこで、アンタに頼みがあるんだけど」
「いや」
「ちょっ、答え早!
いいじゃん、話くらい聞いてよ!」
「どうせ、あなたに依頼した人間を私にどうにかしろ、って言うんでしょ」
火車さんの頼み……それを聞くより先に、久野市さんは断った。そして、火車さんの反応を見るに久野市さんの予想は、当たっているらしい。
久野市さんが思い至ったとおり、火車さんはこのままだと依頼人に消されてしまうから、そうなる前に久野市さんに依頼人をどうにかしてほしい……こういうことだ。
俺にも、一応は理解できている。ただ、それがどれほど切実な頼みか、真にはわかっていないのだろう。
「そ、そうだよ。ウチを自由にしてくれたら、情報提供もする。
た、頼むよ! このままじゃウチは依頼失敗で殺される! そんなのは勘弁だ!」
「知らないよ、自業自得でしょ。主様を殺そうとしておいて自分は死にたくない、バカなの?
人殺しの頼みなんて聞けない」
「くっ……ウチはまだ、誰も殺したことはねぇ。木葉っちが初めての男だったんだよ」
「言い方」
「い、いいのか? ウチに木葉っち殺しを依頼した人間。つまりウチを消したあとも木葉っちを今後も狙い続ける人間だ。
そんな人間を、野放しにしてていいのか? 大切な主様の危険が続くことになるんだぞ?」
助かるために必死……と言えば良いのだろうか、火車さんの態度は、助けてくれと懇願するものだった。
それを聞き届ける義理は久野市さんにはない……が。火車さんの言葉に、久野市さんは反応を見せた。
それはおそらく、俺を狙っている人間、という部分。俺を狙って火車さんに依頼したのならば、火車さんがいなくなっても別の人間に俺を狙わせる可能性が高い。
実行犯を捕まえても、黒幕を捕まえなければ意味がない。
火車さんを見捨てれば、黒幕への手がかりはなくなり、また俺は狙われることになる。そう誘導して、久野市さんの助けを得ようとしている。
「……あなたが、また主様を狙わないという保証がないわ」
「言ったろ、ウチは殺し屋だ。殺しの依頼がなけりゃ、木葉っちを狙う理由はねぇ」
「つまり、依頼があればまた主様のお命を狙う、と?」
「さあな」
ここで火車さんの拘束を解いて、その願いを聞き入れたとして……果たして、もう俺は狙われないのか?
その答えは、ひどく曖昧なものだ。また別に、俺の命を狙う人間がいるとは思いたくないけど。
もちろん、火車さんの言葉が嘘で、火車さんが個人的に俺を狙う可能性もあるが……それはないんじゃないか、と思えた。
「はぁ、バカバカしい。そんな危険を侵す必要はない。
あなたの情報がなくても、あなたに依頼し主様のお命を狙った者は必ず見つけ出して……」
「いいよ、火車さんを解放して」
「……へ?」
気づけば俺は、自分からとんでもないことを言っていた。これがとんでもないことだというのは、さすがにわかる。
自分でも、なに言ってるんだろうとは思う。だって……
「ほ、本気ですか主様? このメスゴミは、主様のお命を狙ったんですよ!」
「メスゴミ……」
「わかってる。俺を殺そうとして……俺が今生きてるのは、運が良かったってことも。
けど、火車さんが依頼で俺を狙ったって言うんなら、その依頼主をどうにかすれば、俺を狙う必要はなくなる」
「でも……」
心配そうな久野市さんの理由はわかる。さっき久野市さん自身が言っていたことだ。
もし火車さん自身に俺を狙う理由がなくとも、また別の人間から依頼を受ければまた俺を狙うかもしれない。
だったら……
「だったら、殺し屋やめるってのはどうだ?」
「……はぁ?」
今度は、火車さんが困惑の表情を浮かべている。殺し屋をやめる、そんなこと考えたこともなかったのだろう。
だが、火車さんが殺し屋をやめれば、正真正銘俺を狙うことはなくなる。
しばらく黙り、「はっ」と火車さんは笑う。
「殺し屋をやめる? バカバカしい、言ったろウチの家は殺し屋の家だって!
殺し屋としての生き方しか知らねぇ、今更やめることなんて……」
「でも、ちゃんと学生としての生き方ってやつやってたじゃないか。
まだ誰も殺したことがないなら、引き返せる」
「……っ」
俺の言葉は、ただなんの根拠もない、ただ自分に都合のいい持論を並べているだけだ。
だけど、これは本音でもある。火車さんは、そういう生き方しか知らなかっただけ。
助けられた身で、殺されていたかもしれない身でなにを偉そうなことを言っているんだと思うだろうが……甘いと、思われるかもしれないが。
「やめよう、殺し屋」
これが、俺の本音だ。
それを受けて、火車さんはしばらく黙っていた。久野市さんも、同じように黙っていて。
それから、はぁー、と深いため息が漏れた。
「……ウチが木葉っちを狙うことは、もうない。これは約束してやるよ」
俺の言葉に対する答えとは違うが、どこか諦めにも似た表情を浮かべて、火車さんは口を開いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる