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第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第44話 忍びと殺し屋
しおりを挟む「なあなあ、あの子めっちゃかわいくね」
「彼氏とかいんのかなぁ、なあ聞いてこいよ」
「お前が行けよ」
転入生の性、とでも言うべき事態。それがまさか、目の前で起こるなんて、考えたことがなかった。
転入生として教室に現れた久野市さん。その見た目のよさから、あっという間に男子の視線を釘付けにしてしまった。
そして、それを察した女子たち。まるで久野市さんを男子から守るように、ホームルームが終わるや彼女の席の周りを囲った。
俺とは席が離れている。近くに居たらぼろが出そうだし、よかったが。
女子たちがいるため、男子は遠巻きに久野市さんを見つめることしかできない。それでも、クラスの明るい奴……いわゆる陽キャは、構わず話しかけにチャレンジしているわけで。
「はぁあ、すごい人気だねぇ久野市さん。木葉は興味ないの?」
久野市さんの周辺を見物しつつ、ルアは俺に話しかけてくる。ルアも当然久野市さんのに興味はあるようだが、話し相手は俺だ。
「……転入生には興味あるよ。そういうルアこそ」
「オレも興味があるけど、オレは木葉と話している方が楽しいからさ」
「ルア……」
「男同士のキモい雰囲気やめてくんない」
俺とルアの会話を聞いていた火車さん。彼女も久野市さんの側にはいかず、俺たちの近くにいる。
火車さんが、久野市さんに近づきたくないのはまあわかる。俺が止めなければ、久野市さんは火車さんを害して……いや、殺していたのかもしれないのだから。
その火車さんが、なんで普通に教室にいるのかも、久野市さんが転入してきたのと同じくらいに気になっている。
そんな俺の気持ちを、察したのかはわからないが……
「ま、話は後でな」
「え、なになに?」
「なんでもねー」
話は後で、と俺に告げる。ルアからしてみれば、訳のわからない言葉だろうが、ありのままを話すわけにもいかない。
久野市さんとも、話せそうにないし……ていうか久野市さん、口を滑らして俺との関係を話さないでくれよ?
そしてこちらも、そんな俺の気持ちを、察したのかはわからないが……
「……ふふ」
ふとこっちを見て、うっすらと微笑んだ。
「! おい、今俺に微笑んだぞ!」
「バッカ俺だよ!」
「いーやおいどんだ!」
多分、久野市さんの笑顔は俺に向けられたもの……しかし、そうとは知らない、久野市さんの笑顔の直線上にいた男子は、自分に笑顔を向けられたのだと湧き立つ。
というか、俺も思わず声を上げそうになった。なんだよあれ、卑怯だろ。いつもアホみたいな言動や行動ばっかだったじゃないか。
なのに、なんだあの、清楚な感じ! 黙ってれば、まるでどこかのお嬢様だ!
「今、こっちに微笑みかけなかった? 久野市さん」
「あははは、どうだろうな」
いまいちピンと来ていないルア。助かった……が。
久野市さんよぉ、そういう思わせぶりなことはやめてくれ!
今すぐにでも、この学校に……それもこのクラスに来た理由を、聞きだしたい!
でも、他の男子も近づけない中で、俺だけ話しかけにいくのも変だし、話の内容が内容だけに人前では話せない。
かといって、どこかへ連れ出すわけにもいかない。どうすりゃいいのこれ。
救いがあったとすれば、久野市さんから俺に向かって「主様」や「木葉さん」と呼びかけながら来なかったことだ。
主様呼びはもちろんのこと、木葉さんなんて親し気に呼ばれては、クラスの連中から根掘り葉掘り聞かれるに違いない。
その危険を、久野市さんは考えて……くれているのはわからないけど、おかげで彼女との関係性は秘密にしておける。
「ほら席つけ、授業始めるぞ」
その後、授業が始めるチャイムが鳴る。いつも通り授業を受けるが、やはり美少女転入生の存在にみんな過敏になっているのか、なんか教室内がざわざわしていた。
それと、久野市さんがまだ教科書がないからって隣の男子に教科書を見せてもらっているときは、隣の男子がかわいそうになるくらいに殺意がびんびんだった。
授業と授業の合間の休憩時間、そして昼休憩……女子たちが久野市さんを囲んでいたことで近づくことはできなかった。
とはいえ、それも学校の中での話……学校が終われば、俺と話をする時間ができる。
「久野市さん、一緒に帰ろー」
「いやいや、久野市さん部活入らないの? ウチ入らない?」
「ごめんなさい、私今日、早く帰らないといけなくて」
放課後になると、やはり女子に囲まれていた久野市さんだが、それらをさらりとかわす。早く帰る……それはつまり、久野市さんも俺と話をしたいと思っているのか。
ならば俺も、帰るとするか。
「ルア、今日は早めにバイトあるから、俺帰るわ」
「あ、そうなの? じゃあ紅葉、一緒に……」
「悪い、帰り道に火車さんに話あるから! じゃーなー!」
久野市さん、そして火車さんから話を聞く。なので、火車さんにも一緒にご帰宅願う。彼女を引っ張り、教室を出る。
ちなみに、早めのバイトというのは自然に早く帰るための嘘だ。
「いやん、木葉っちってばだいたーん」
「やかましいよ」
火車さんも、理由はわかっているだろうに、からかうようなことを言ってくる。
それから俺たちは、足早に帰宅して……アパートに着くと、一足先に戻っていた久野市さんが、アパートの前に立っていた。
「! 主様!」
別に約束していたわけではないが、彼女を待たせてしまっていた。俺を見て表情が明るくなった姿に、ちょっと罪悪感。
「久野市さん、待たせてごめ……」
「主様主様ぁ!」
すると、久野市さんは俺に飛びついてくる。まるで待てでお預けをくらっていた犬みたいに。
「おわっ!?」
「私、寂しかったんですよ! 主様の姿を確認したのに、声をかけることも近づくことも我慢して!
でも、初日から主様に話しかけては、ご迷惑になってしまうと、香織さんが言うからぁ!」
我慢……俺に対して、我慢していたのか。そしてその理由が、桃井さんにある。
転入初日の美少女が、自ら異性に話しかける……これにより起こる可能性を危惧し、桃井さんは先手を打っておいてくれたわけか。
マジで助かった。それがなければ、どうなっていたか。
というか、桃井さんは久野市さんが俺の学校に転入してくるって知って……るか、当然。一緒に住んでたんだから、そういう話をすることもあるだろうし、そうでなくても今朝なら制服を見る機会もあっただろう。
「ちょっとちょっと、ウチを置いてイチャイチャしないでくんない?」
「いっ……まあ、なんだその、とりあえず……」
「?」
「いろいろ、聞きたいことがありすぎてね……まずは、部屋に行こう」
このまま外で騒いでいるわけにはいかないし、外でする話でもない。一旦は、俺の部屋にでも入ろう。
久野市さんが転入してきた理由、火車さんが普通に登校してきた理由……聞きたいことは山ほどだ。
まったく、おかしなことになったものだ。俺のことを守りに来たという、忍びの久野市さん。そして、一度は俺の命を狙った、殺し屋の火車さん。
この二人と、同じ学校に通うことになる……この先、俺の生活はいったい、どうなっていくのだろうか?
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