久野市さんは忍びたい

白い彗星

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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

第71話 美人だったから?

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「お、おい今、お、女の先輩っつったのか?」

「へ?」

 たった今登校してきた火車さんは、俺とルアの会話を知らない。
 なので要点だけまとめて話したのだが、なにかまずかっただろうか?

 気のせいか、わなわなと震えている気がする。

「あぁ、そうだよ」

 対してルアは、あっさりと答えた。
 火車さんの様子がおかしいことに気づいているのか、いないのか。

 その答えに火車さんは「そっか」とだけ返事をして、自分の席に行ってしまった。

「どうかしたのか、紅葉もみじは」

「さあ?」

 ルアも、火車さんの様子には気がついていたようだ。
 だけど、なんで様子がおかしいのかまでは、わかっていない。俺と同じく。

 まあ、体調が悪いわけでもなさそうだし、大丈夫だと思うが。

「それで、どうするつもりだよ」

「どうするとは?」

美愛みあさんだよ。まさか既読スルーされたのに、今晩またメッセージを送るつもりじゃないだろうな」

「そのつもりだけど?」

「肝でかいなお前は」

 昨晩既読スルーされた相手に、今晩もメッセージを送るつもりだとは……
 わかってはいたが、ルアはやはりすごい。いろんな意味で。

 しかし、あの内容じゃ今晩送ってもまたスルーされると思うし。

「よせやい、でかい男なんて」

「言ってない」

「というか美愛さんは、別に既読スルーしたわけじゃないと思うぞ?」

「……」

 問題は、そもそもルアが美愛さんとのやり取りをポジティブに考えていることだ。
 あんなにメッセージを送ったのに既読スルーされたら、諦めようというものだが。少なくとも連日送信は避ける。

 また同じようなメッセージを送るつもりなのだろうか。それとも、違った話題で?
 どちらにしろ、それで美愛さんからの返事がもらえるとは思えない。

「ルアって、すごいんだかそうじゃないんだかたまにわからなくなるよ」

「よせやい、すごい男なんて」

「なんて都合のいい耳をしていやがるんだ」

 正直ルアには、感謝している。ルアが俺に話しかけてくれなければ、未だに俺は一人のまま学校生活を送っていたかもしれない。
 こんな田舎者の転校生に根気強く話しかけてくれたんだ。積極性の塊のような男だ。

 一方で、今みたいなこともある。相手が迷惑だと思っているかもしれないのに、構わず突っ込んでいくのだ。
 俺はそれに救われたが、果たして美愛さんはどうだろう。

「ええと、ルア。俺が言えたもんじゃないけど、あんまりしつこすぎるのは……」

「おい! 女の先輩ってどういうこった!?」

「ぅおう!?」

 突然、俺とルアの間に火車さんが割って入ってきて、たまらずのけぞってしまう。
 さっきまでなぜかフリーズしていたのに、戻ってきたのか。

 そして、突然の叫び。女の先輩……多分、美愛さんのことだろう。

「いやな、俺のバイト先の……」

「木葉っちには聞いてねえよ!」

「俺にも関係ある話なんだってば!」

 やだこの人、怖い。あんまりすごむなよ。
 ほら、そんなことだから向こうで久野市さんが睨んでるぞ。なんかどす黒いオーラ出してるぞ。

「こほん。俺のバイト先に、お世話になってるパートの女性がいるんだよ。
 その人の娘さんがこの学校の生徒で……つまり、その先輩と知り合ったルアが、ほぼ強引に連絡先を交換してってこと」

「おいおい、強引ってのはないだろ」

 昨夜の出来事を、できるだけわかりやすく説明する。
 ルアや火車さんは、俺がコンビニでバイトしていることは知っている。そこでお世話になっている人がいるなんて話も、したことはある。

「へ、へぇ……そ、そうなのか」

 ところで、さっきから火車さんはやけに動揺しているように見える。
 なにかおかしなことでもあったのだろうか?

 ルアに目で聞いてみるが、どうやらルアもわかっていないご様子。

「な、なあおい、ルアっちはその……なんで、その先輩に、連絡先聞こうと思ったんだよ」

「なんでって……美人だったから?」

「びっ……」

 おいおい、ぶっちゃけちゃったよこの人。
 確かに美愛さんは美人の部類だと思うけど……それを恥ずかしげもなく言うとは。強いな、心が。

「そ、そうなのか木葉っち」

「え、俺?」

 その後、矛先がなぜか俺に向く。
 なんて答えにくい質問をするんだ。いや、事実だけを答えればいいんだ、やましいことはなにもない。

「まあ、無愛想な感じだったけど美人だったとは思うよ」

「へぇ、美人ですか」

「おわぁ!?」

 正直に答えている途中、急に後ろから声がした。
 振り返ると、そこにはにこにこ顔の久野市さんの姿があった。いつの間に!?

 さっきまで、自分の席に座っていなかったっけ!?

「え、えっと、くのい……」

「美人、ですか、それはそれは。バイト先とやらに美人の先輩がいるのですね、そうですかそうですか。それはつまりはある……瀬戸原さ……瀬戸原くんがその人のことを美人だと思っているとそういうことですよねぇ。仲良く一緒に働いているわけですね」

「ちょちょっ、いろいろ違うしなんか怖い怖い怖い!」

 どうしてだろう、にこにこ顔なのに目が笑っていない。怖いんだけど!
 こんなときでも、俺の呼び方を事前に決めていたものに訂正してくれた冷静さはありがたいけど!
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