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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!
第77話 その命、貰い受ける
しおりを挟む……あれから、数日が経った。
久野市さんはなぜか美愛さんを気にかけ、度々彼女のことを探っているようだった。
ちなみに、俺が話したわずかな情報の中で、どうやって所属クラスをあぶり出したのかはわからない。なんか聞くのも怖いので触れないでおいた。
「じゃ、今日も美愛さんと帰るんで」
「おー」
そして、美愛さんと連絡先を交換したルアはというと、あの日から毎日のように放課後は美愛さんと下校を共にしている。
ルアの幸せそうな顔を見ていると、順調にうまくいっているのだろうということがわかってなんだか嬉しい。
……ただ、一方で……
「ぬ、ぐがぎ……!」
ものすごい形相で歯を食いしばっている火車さんが、見ていられない。
この人、ルアが美愛さんと帰るとなるといつも不機嫌なんだよな。
……いや、それだけじゃない。
『昨日、帰ってる途中に美愛さんがさー』
と、昼食中にルアは美愛さんの話をすることが多くなった。
楽しかった出来事を、俺たちに教えてくれているのだ。そこにルアの悪気はない。
だが、その話を聞くと火車さんは不機嫌になる。そしてルアはそれに気づかない。
いったいどうして。火車さんと美愛さんは会ったこともないはずなのに。
「……んだよ」
「いや、最近は尾行とかしないんだなって……」
「あぁ!? 誰が! んな、まるでアタシがあの二人のことを気にしているみたいじゃねえか!」
それのいったいどこが間違いなのだろう。今まで尾行しておいて。
初めのうちは火車さんの尾行に付き合わされていたが、今では尾行はしていない。
あいも変わらず二人は楽しそうに会話をしながら下校している……その光景の繰り返しだからだろう。
最近美愛さんとは、俺や火車さんの話をして盛り上がっているとルアは言っていたな。
「そういえば……」
ルアが気になることを言っていたな。美愛さんが、やたら俺の話に食いついてくるって。
ルアとしては、俺をネタに話のタネが育つようだからいいらしいんだけど。
もしかして、母親と同じ職場の同僚のことが気になるのだろうか。
同じ職場といえば、篠原さんとは相変わらずだ。
……いや、最近娘が楽しそうだと、話していたな。なので、この間連絡先を交換した俺の友達と最近よく話している、と伝えておいた。
『あら、もしかして青春? 青春なのかしらー?』
篠原さん、やたらとテンション高かったなぁ。。
「じゃ、俺も帰るかな」
「へーへー。……最近あの女、見かけねえな」
教室をキョロキョロ見回す火車さん。
あの女とは、久野市さんのことだ。久野市さんが放課後すぐに姿を消していることに、火車さんは気付いている。
だけど、久野市さんが美愛さんを尾行していることには気づいていない。
そういえば、以前俺たちが尾行されたことがあったが……火車さんが気づかなかったあたり、久野市さんの尾行はよほどの精度なんだろう。
というか、あの日から毎日尾行しているのなら、俺と火車さんも同様に尾行されていたってことだな。
その久野市さんは、今日も尾行中だろうな。
「火車さん、もしかして俺がいない間にあの二人を尾行してないだろうね」
「はぁ!? してねえよ!」
俺は尾行に付き合わされなくなったが、火車さんが一人で尾行を続行していた場合……久野市さんがその光景を見たら、なんかややこしいことになりそうだ。
もうやめたとはいえ火車さんは、俺を殺そうとしていたわけだし……久野市さんは、火車さんのことを良くは思っていない。
それでも、普通に接する分には距離感は縮まって……縮まっている?
「そっか。じゃあ、また明日ね」
「おう」
ともかく、俺は俺でやることがある。今日はいつも行くのとは違うスーパーで、特売があるんだよな。
アパートとは反対方向だけど、仕方ない。
いつも行かないスーパーだと、桃井さんと会うこともないだろう。それは残念だけど、どっちにしたっていつも会えると決まっているわけじゃない。
「今日は、なんにするかな。野菜炒めか……最近暑いし、素麺ってのもいいよなー」
などと、今晩の献立を考え、歩いていた。
いつもは通らない道、今晩の献立や久野市さんたちのことなどの考え事……
だからだろうか。少し、注意力が散漫になっていたのかもしれない。
「……」
「むぐっ……!?」
当然、口元になにか、布のようなものを押し付けられた。
背中に、誰かがいる……けれど、口を押さえられているから首を動かすことができない。
それに、いつの間にか両方の手首を掴まれ、体も自由に動かせなくなっている。
「む、ぐぐ……!」
誰か、助けを……そう思って周りを見回すが、誰もいない。
いつの間にか、人通りのない路地裏に来ていたらしい。スマホで地図を見ながら歩いていたから、こっちの道なんだと疑うことはなかったが……
そのせいで、周りに人がいない場所に来てしまった……誰にも、助けを求められない!
「む……」
あ、これ、やばい……なんか、意識がぼーっと、してきた……スマホも、落としてしまった。
口に当てられてるのは、ハンカチか……それに、多分薬品かなんかを、染み込ませてある。
くそっ、いったい誰が、こんなことを……首も動かせず抵抗もできないし、全然わからない。
ただ……俺の両手首を掴んでいる手は、少し柔らかい気がして……
「……その命、貰い受ける」
そんな、言葉が聞こえた直後……ギラリと光るものが、俺の視界に映った。そして……
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