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獣人国での冬

219:…もしかしてニートだった?

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「ううぅぅ……私のお金~……」

 ケイノアは、稼いだ金が借金の支払いに消えてしまった事でテーブルの上に突っ伏してしまった。

「どうせすぐに使っちまうんだからいいだろ」
「そうかもしれないけど~、そうじゃないかもしれないじゃない~」
「どうだか。……ほれ、小遣いだ。これだけあれば次の依頼の準備とか多少の買い食いとかには足りるだろ」
「……ああ。私のお財布。こんなにしぼんじゃって……」

 ケイノアは、俺がテーブルの上に置いた袋を手に取り嘆いている。

 さっきまでお金がパンパンに詰まってた袋が、現在では見る影もないほどに萎んでしまっている。

「金が欲しいなら働け。借金を返し終えたら自由だぞ」
「えぇ~、それはそうなんだけど~。そもそもその借金って後どれくらいあるのよ?」
「それぐらい自分で把握しておけよ。……あとはこれだけだな。まあ頑張れ」

 収納の中に入っていた借用書の全てをケイノアに見せてやるとガクリとうなだれてしまった。

「これだけって、そんなにあるんじゃない……」

 これでも利子をとっていないのでそれほど高額、というわけじゃない。これは今までケイノアが借りてきた金額そのままだ。それが返せないんだったら自業自得だろう。俺が借用書を買い取る前に加算された分は知らない。その程度は頑張ってもらおう。

「さっきの額を三日で稼いだんなら、真面目にやればすぐにでも回収できるだろ?」
「真面目にやるのって疲れるのよね~。私は疲れるのは嫌なのよ。出来るだけ楽に怠けてダラダラと生きたいの」
「……そうか」

 結構ダメなやつの発言だが、少し前まで似たような考えをしていた自分がいるだけに、なんとも言えない……。

「……まあ、頑張れ。まともに稼いでる限りは追い出したりしないから」
「はーい」

 そんな俺の言葉に、ケイノアはテーブルに突っ伏し項垂れながらも返事をした。



「ご主人様、ご夕食の準備ができましたが、いかがいたしますか?」

 ケイノアの話の後、暇つぶしに戻ったのだが気がつけば結構な時間が経っており、外は既に暗くなっていた。

「ああ、悪い。今片付けるから夕食を頼む」
「はい。かしこまりました

 片付けると言っても、収納すれば一瞬で終わるので問題ない。動かす必要がないから運んでる最中に崩れることもないし、手間もかからない。収納って本当に便利だよな。

 俺は片付け終わったのだが、俺の前ではケイノアが突っ伏しながら寝ていたので口の中にかなり苦い薬草を突っ込んだら、もしゃもしゃと食べ始めた。
 ……この状況で食べるのか。どこまで食い意地が張ってんだこいつ。

「むぐぅ~~!?」 

 起きないな。寝てる間って味とかわからないのか? と思って見てたら、ケイノアがいきなり叫び出して椅子から滑り落ちた。

「いった~~~っ! うぇぇ、なんか口の中がすごい苦い~」

 どうやら俺がやったことだとは気が付いていないらしく、ケイノアは魔術で水を作って飲んでいる。便利そうだな。

「起きたな。夕食だぞ」
「わーい、ごっはん~!」

 俺がやった事だと気づかれないように夕食だと教えて話を逸らすと、さっきまでの不機嫌そうな顔を消して笑顔になった。チョロすぎないか?

「ケイノア、あなたはこっちです」
「ぅえ!?」
「早くなさい」
「う……はーい」

 だが、キッチンにいるイリンから指示が出され渋々ながら立ち上がって歩いて行った。

「おまたせしました」

 お待たせしましたとイリンは言ったが、いつものことながら待ったというほどの時間は経っていない。

「いや、ありがとうな。──それじゃあ、食べようか」
「はい」
「いただきまーす!」

 食事は進み、最後にケイノアが達成表の金額を稼いだご褒美としてデザートが出された。

「あ~、これだけが私の救いよねぇ~。美味しいわ~」

 ケイノアが美味しいと言いながら料理を食べるのはいつも通りといえばいつも通りだが、そこにいつもとの違いを感じ取ったのか、イリンが首を傾げた。

「あの、ケイノアはどうされたのですか?」
「ん? ああ、今日稼いだ金で借金を返してもらったんだ」

 そう言うとイリンは納得したように頷きケイノアの事を見た。

「因みに、後どの程度残っているのでしょうか?」
「んー……エルフが奴隷落ちすれば返せるくらい?」

 その場合は身の安全とかはどうなるか知らないけど。

 俺はケイノアの事を見ると、ケイノアは胸を張って宣言した。

「ふん、今に見てなさい! 明日からバンバン稼いで借金なんてすぐに返してみせるんだから!」
「そうなると良いな」
「早く自立してくださいね」

 さっきまでの勢いは何処へやら。俺とイリンの言葉を聞くと、急に大人しくなってしまった。

「……自立かぁ。もうしばらくここにいても良いかなぁ……」
「ダメです。しっかりと働きなさい。むしろ今まで以上に稼いでくるのです」
「え~。まあ出来なくはないけどさ~。働くのってなんか拒否感が出るのよねぇ……」

 できるならやれよ、と思う俺は心が狭いだろうか?

 まあケイノアの気持ちもわからないではないんだけどな。そもそも俺もまともに働いているとは言えない状態だし……あれ? もしかして俺もニートになるのか? もしくはヒモ? イリンに世話をして貰ってるし。

 ……いやいや、そんな事はない。俺はしっかりと自分で稼いだ金を使って生活している。一部は何処ぞから奪ったり裏の店に行ったりとまともに稼いだ金とはいえないが、些細な事だ。俺はニートでもヒモでもない! ……はず。

「馬鹿な事を言わないでください。シアリスさんと約束したのですからしっかりと働いてもらいます。それに、貴女も姉なのですからしっかりとした方が良いのではありませんか?」
「そうねぇ……うん、そうよね。姉としての威厳を見せてあげないと!」

 どうやらケイノアはやる気になったようだが、威厳など既に取り戻せないところまで来ているんじゃないだろうか?

「……もう遅いんじゃないかな?」
「本人がやる気になってるから良いのではないでしょうか」
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