『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

文字の大きさ
363 / 499
友人達の村で

404─ナナ:悲しみと怒り

しおりを挟む
 私はいつもの行くあてもなく彷徨ってるだけだった。
 どこに行くでもなく、何か目的があるわけでもない。ただキリュウとの約束を果たすためだけに生きていた。……ううん、違う。生きていたんじゃなくて、死ななかった。

 あの日もそう。やることも、やりたいことも、やらなくちゃいけないことも何もなかった。だからとりあえず嫌いなのを倒して時間を潰そうとした。

 けど、その意味のない気晴らしは実行する前に終わった。

「なら、同じ旅仲間だな」

 多分アンドーはそんなに深く考えていった言葉じゃないと思う。けど、その言葉がとても嬉しかった。
 普段なら何にも感じなかったと思う。なのにそれが嬉しかったのは、多分そう言ってくれた人がキリュウと同じ黒い髪に黒い目をしてたから。

 昔……ずっとずっと昔、私はキリュウともよく旅をした。あの人も私のことを旅の仲間だと言って手を引いてくれた。それが無性に懐かしくて、だから多分、ついていくことにしたのはその人が楽しかったあの時を思い出させてくれたから。

 誰かと一緒にいる旅は楽しかった。今までは一人でいたから話すのも久しぶりだし、一緒に食事をするのも楽しい。そもそもまともな食事を取ったのは何年前だっただろう?

 あんまりにも楽しいものだから、もう長いこと見ることのなかったキリュウの夢を見れた。私たちが初めて出会った時から、私を好きだと言ってくれた大事な記憶。もうあんまり思い出せなくなってしまったそれをもう一度見ることができて、とても嬉しかった。

 たった数日だけど一緒に旅をした私は、その先で思いもしなかったものに出会った。
 見た目は人と蜘蛛の混じったようなあんまりみない姿の獣人の女の人。
 一目見た瞬間に私の視線はその女の人から離せなくなった。

 ──よかった。

 それがその女の人を見た瞬間の私が思ったこと。
 なんでそう思ったのかわわからなかったけど、その後にすごく懐かしい感じがして、そのせいでさらに目が離せなくなった。

 しばらく見ていると、どうして目が離せないのか自分なりの答えを出すことができた。

 ……多分、あの女の人……キリーは私とキリュウの子供の子孫。
 そう思い至った瞬間に、それまでとは比べ物にならないほどに嬉しいっていう思いが溢れ出した。

 だからついずっと見続けてしまった。
 話しかけてみようかな? 私のことを話してみようかな? キリュウのことは知ってるかな? 

 いっぱいいっぱい聞きたいことが胸の内に溢れ返る。けど、キリーはきっと私のことを知らない。そんな相手から一方的に話しかけられたら迷惑なんじゃ……

 そう思って私が話しかけられないでいつものようにキリーのことを見ていると、旅の仲間だと言ってここまで連れてきてくれた人──アンドーが声をかけてきた。

 そして、キリュウと同じように私の手を引いて、キリーのところまで連れて行った。

「──ありがと」

 なんだか恥ずかしくて呟くような小さな声になっちゃったけど、聞こえたかな?

「あんたは私のご先祖様なんだろ?」

 やった。気づいてもらえた!

 キリーは自分の見た目について聞いてきたけど、その理由はわからない。それにどうでもいい。今はこうしてキリュウの子孫に出会えたことの方が大事だから。

 何を話そう。いっぱい話したいことがある。キリュウはもういないし、私たちの子供ももういない。けど、その子供や孫達がどう暮らしてきたのか。キリーは、両親は祖父母はどう暮らしてきたのか。幸せだったか。笑っていられたか。辛いことはないか。困ってることはないか。
 そんなことをいっぱい話したかった。

「ふざけんじゃないよ!」

 でも、そんないっぱいの思いは一つとして言葉になることなく壊れて行った。

「──私だって、両親と同じように、周りのみんなと同じように普通の体が欲しかった!」

 突然叫んだキリーは話していく。こんな見た目じゃ嫌だって。
 それは私ととの繋がりを否定されたようで悲しかった。けど、それが理由ならまだ大丈夫。

「……ごめん。けど──」
「もう私に関わらないでおくれ」

 そう言ってキリーは行ってしまった。

 茫然としたままキリーの背中を見送り、しばらくしてからその場を離れるために私も歩き出した。

「──ありがと」

 その時アンドーの姿が見えたからとりあえずお礼を言っておく。
 結果はアンドーの思っていたのとも、私が思っていたのとも違うかもしれないけど、それでも、話すことができたのは本当に嬉しかったから。



 何をしているんだろう。

 もう関わらないでと言われてしまった私は、これ以上キリーを悲しませないためにもあの家に帰ることができずにいた。
 今は村の外にある木の上で簡単な巣を張ってうずくまっている。

「……キリュウ」

 会いたい。またキリュウに会いたい。あって抱きしめてもらって、いっぱいいっぱい話をしたい。
 ……でも、それはもう無理。だってあの人は死んじゃったから。

 私たちの子孫であるキリーに、せっかく会えたのに嫌われちゃった。
 キリーと仲直りしたい。私はどうすれば……でも関わるなって言われたし、どうすることもできない。
 その後も一日考え続けたけど、結局何も思いつかない。

 ……このまま、嫌われたままなのかな……

「…………やだよ」

 そうしてまた蹲ったまま、ただ時間が流れるのを待っていると村の方から大きな音が聞こえた。
 ……お祭り? ……じゃない。あれは爆発の音。誰かが村を攻撃してる?

 助けに行かないと。

 ──もう私に関わらないでおくれ。

 動き出そうとした私の体はその言葉を思い出して動きを止めてしまった。

 ……どうしよう、まだ何も思いついていないのに。
 ここで行ってキリーに会っちゃえば、もう本当に会ってもらえなくなるかもしれない。

 そう思ってもう一度元の体勢に戻った私はそのまま村をボーッと眺めていた。

 そんなことをしても良い考えが思いつくわけでも、何かが変わるわけでもない。

 ……大丈夫。だってあの村にはアンドーもイリンもタマキもいる。だから、私がいく必要なんてない。

 だけどそう思いながらも、それでも私はキリーのいる方を見続けた。

 しばらくの間村を見続けていた私の耳に、音が届いた。
 それは大きな音。さっきと同じ攻撃の魔術による音だった。
 あそこにはアンドー達がいるからなんの問題もないと思ってたけど、どうしたんだろう?

 ……近づくことはできない。けど、これなら平気だよね?

 私は指先から糸を出して村の方へと伸ばしていった。
 この糸には魔術をかけてあって、伸ばした糸の先に視界を移してその場にある景色を見ることができて声も聞くことができる。とっても便利。

 そうして見た村の景色は集団に攻め込まれているものだった。
 そしてそれに抗うかのように戦っている村人と、そこに混ざっているキリーの姿。
 どうやら壁にかけていた魔術が消されたみたいで、壁の一部が壊れてる。

 みんなよく戦ってるみたいで誰も死んでいない。だけど押され気味になっていて、このままではそのうち負けてしまうと思う。

 アンドー達はどこにっ!? このままじゃあの子がっ……!
 あのくらいならアンドー達がいればなんでもない。そう思ったからこそ私はここで動かなかったのにっ……!

「この程度の奴らに手こずるなんざ、大したことねえな! ハッ! こりゃあ俺が来るまででもなかったか?」
「っ! ぐぅっ……」

 聞こえたのは誰かの苦悶の声。違う。誰かなんかじゃない。これはあの子の声だ。

 関わるなって言われたのにここで行ってしまえば、もう会うことも許してくれないかもしれない。そんなことになるくらいだったら……。

「知らない! そんなのどうでもいい! 私はっ──!」

 木から飛び降りてあの子のところへ向けて走り出す。

「にしても気持ち悪ぃな。なんだその顔。それに腕。ハーフなんざこの世界に存在しねえはずなんだがな……。ま、これから死ぬ奴のことなんてどーでもいいか」

 その間もあの子を傷つける奴の声が聞こえるけど、殺させたりなんてしない。

 一秒でも一瞬でも早くあの子を助けるために、私はで走る。

「とりあえず死ん──あ? ……んだぁこの揺れは」

 ついに糸なんかじゃなくて目視で確認できる距離まで近づいた。
 傷つきながら地面に膝をついているあの子と、あの子に剣を突きつけてる男。
 それを見た瞬間に私の中の理性や自重なんかが弾け飛んだ。

 ──ギイイイィィィィ!

「ありゃあ魔物か? チッ、騒ぎに釣られでもしたか? まあ良い。いくらデカかろうと魔物の一体程度、オリハルコンの冒険者である俺の前にはただの雑魚とかわりゃあしねえ!」

 人の姿をやめて本来の姿になった私は、叫びながらあの子を傷つけた男へと近づく。

 私の大事な家族を傷つけた。絶対に許さない。



_______

この後二話投稿してますが、それで閑話は終わりで次からは主人公に戻ります。
しおりを挟む
感想 317

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。