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友人達の村で
404─ナナ:悲しみと怒り
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私はいつもの行くあてもなく彷徨ってるだけだった。
どこに行くでもなく、何か目的があるわけでもない。ただキリュウとの約束を果たすためだけに生きていた。……ううん、違う。生きていたんじゃなくて、死ななかった。
あの日もそう。やることも、やりたいことも、やらなくちゃいけないことも何もなかった。だからとりあえず嫌いなのを倒して時間を潰そうとした。
けど、その意味のない気晴らしは実行する前に終わった。
「なら、同じ旅仲間だな」
多分アンドーはそんなに深く考えていった言葉じゃないと思う。けど、その言葉がとても嬉しかった。
普段なら何にも感じなかったと思う。なのにそれが嬉しかったのは、多分そう言ってくれた人がキリュウと同じ黒い髪に黒い目をしてたから。
昔……ずっとずっと昔、私はキリュウともよく旅をした。あの人も私のことを旅の仲間だと言って手を引いてくれた。それが無性に懐かしくて、だから多分、ついていくことにしたのはその人が楽しかったあの時を思い出させてくれたから。
誰かと一緒にいる旅は楽しかった。今までは一人でいたから話すのも久しぶりだし、一緒に食事をするのも楽しい。そもそもまともな食事を取ったのは何年前だっただろう?
あんまりにも楽しいものだから、もう長いこと見ることのなかったキリュウの夢を見れた。私たちが初めて出会った時から、私を好きだと言ってくれた大事な記憶。もうあんまり思い出せなくなってしまったそれをもう一度見ることができて、とても嬉しかった。
たった数日だけど一緒に旅をした私は、その先で思いもしなかったものに出会った。
見た目は人と蜘蛛の混じったようなあんまりみない姿の獣人の女の人。
一目見た瞬間に私の視線はその女の人から離せなくなった。
──よかった。
それがその女の人を見た瞬間の私が思ったこと。
なんでそう思ったのかわわからなかったけど、その後にすごく懐かしい感じがして、そのせいでさらに目が離せなくなった。
しばらく見ていると、どうして目が離せないのか自分なりの答えを出すことができた。
……多分、あの女の人……キリーは私とキリュウの子供の子孫。
そう思い至った瞬間に、それまでとは比べ物にならないほどに嬉しいっていう思いが溢れ出した。
だからついずっと見続けてしまった。
話しかけてみようかな? 私のことを話してみようかな? キリュウのことは知ってるかな?
いっぱいいっぱい聞きたいことが胸の内に溢れ返る。けど、キリーはきっと私のことを知らない。そんな相手から一方的に話しかけられたら迷惑なんじゃ……
そう思って私が話しかけられないでいつものようにキリーのことを見ていると、旅の仲間だと言ってここまで連れてきてくれた人──アンドーが声をかけてきた。
そして、キリュウと同じように私の手を引いて、キリーのところまで連れて行った。
「──ありがと」
なんだか恥ずかしくて呟くような小さな声になっちゃったけど、聞こえたかな?
「あんたは私のご先祖様なんだろ?」
やった。気づいてもらえた!
キリーは自分の見た目について聞いてきたけど、その理由はわからない。それにどうでもいい。今はこうしてキリュウの子孫に出会えたことの方が大事だから。
何を話そう。いっぱい話したいことがある。キリュウはもういないし、私たちの子供ももういない。けど、その子供や孫達がどう暮らしてきたのか。キリーは、両親は祖父母はどう暮らしてきたのか。幸せだったか。笑っていられたか。辛いことはないか。困ってることはないか。
そんなことをいっぱい話したかった。
「ふざけんじゃないよ!」
でも、そんないっぱいの思いは一つとして言葉になることなく壊れて行った。
「──私だって、両親と同じように、周りのみんなと同じように普通の体が欲しかった!」
突然叫んだキリーは話していく。こんな見た目じゃ嫌だって。
それは私ととの繋がりを否定されたようで悲しかった。けど、それが理由ならまだ大丈夫。
「……ごめん。けど──」
「もう私に関わらないでおくれ」
そう言ってキリーは行ってしまった。
茫然としたままキリーの背中を見送り、しばらくしてからその場を離れるために私も歩き出した。
「──ありがと」
その時アンドーの姿が見えたからとりあえずお礼を言っておく。
結果はアンドーの思っていたのとも、私が思っていたのとも違うかもしれないけど、それでも、話すことができたのは本当に嬉しかったから。
何をしているんだろう。
もう関わらないでと言われてしまった私は、これ以上キリーを悲しませないためにもあの家に帰ることができずにいた。
今は村の外にある木の上で簡単な巣を張ってうずくまっている。
「……キリュウ」
会いたい。またキリュウに会いたい。あって抱きしめてもらって、いっぱいいっぱい話をしたい。
……でも、それはもう無理。だってあの人は死んじゃったから。
私たちの子孫であるキリーに、せっかく会えたのに嫌われちゃった。
キリーと仲直りしたい。私はどうすれば……でも関わるなって言われたし、どうすることもできない。
その後も一日考え続けたけど、結局何も思いつかない。
……このまま、嫌われたままなのかな……
「…………やだよ」
そうしてまた蹲ったまま、ただ時間が流れるのを待っていると村の方から大きな音が聞こえた。
……お祭り? ……じゃない。あれは爆発の音。誰かが村を攻撃してる?
助けに行かないと。
──もう私に関わらないでおくれ。
動き出そうとした私の体はその言葉を思い出して動きを止めてしまった。
……どうしよう、まだ何も思いついていないのに。
ここで行ってキリーに会っちゃえば、もう本当に会ってもらえなくなるかもしれない。
そう思ってもう一度元の体勢に戻った私はそのまま村をボーッと眺めていた。
そんなことをしても良い考えが思いつくわけでも、何かが変わるわけでもない。
……大丈夫。だってあの村にはアンドーもイリンもタマキもいる。だから、私がいく必要なんてない。
だけどそう思いながらも、それでも私はキリーのいる方を見続けた。
しばらくの間村を見続けていた私の耳に、音が届いた。
それは大きな音。さっきと同じ攻撃の魔術による音だった。
あそこにはアンドー達がいるからなんの問題もないと思ってたけど、どうしたんだろう?
……近づくことはできない。けど、これなら平気だよね?
私は指先から糸を出して村の方へと伸ばしていった。
この糸には魔術をかけてあって、伸ばした糸の先に視界を移してその場にある景色を見ることができて声も聞くことができる。とっても便利。
そうして見た村の景色は集団に攻め込まれているものだった。
そしてそれに抗うかのように戦っている村人と、そこに混ざっているキリーの姿。
どうやら壁にかけていた魔術が消されたみたいで、壁の一部が壊れてる。
みんなよく戦ってるみたいで誰も死んでいない。だけど押され気味になっていて、このままではそのうち負けてしまうと思う。
アンドー達はどこにっ!? このままじゃあの子がっ……!
あのくらいならアンドー達がいればなんでもない。そう思ったからこそ私はここで動かなかったのにっ……!
「この程度の奴らに手こずるなんざ、大したことねえな! ハッ! こりゃあ俺が来るまででもなかったか?」
「っ! ぐぅっ……」
聞こえたのは誰かの苦悶の声。違う。誰かなんかじゃない。これはあの子の声だ。
関わるなって言われたのにここで行ってしまえば、もう会うことも許してくれないかもしれない。そんなことになるくらいだったら……。
「知らない! そんなのどうでもいい! 私はっ──!」
木から飛び降りてあの子のところへ向けて走り出す。
「にしても気持ち悪ぃな。なんだその顔。それに腕。ハーフなんざこの世界に存在しねえはずなんだがな……。ま、これから死ぬ奴のことなんてどーでもいいか」
その間もあの子を傷つける奴の声が聞こえるけど、殺させたりなんてしない。
一秒でも一瞬でも早くあの子を助けるために、私は全力で走る。
「とりあえず死ん──あ? ……んだぁこの揺れは」
ついに糸なんかじゃなくて目視で確認できる距離まで近づいた。
傷つきながら地面に膝をついているあの子と、あの子に剣を突きつけてる男。
それを見た瞬間に私の中の理性や自重なんかが弾け飛んだ。
──ギイイイィィィィ!
「ありゃあ魔物か? チッ、騒ぎに釣られでもしたか? まあ良い。いくらデカかろうと魔物の一体程度、オリハルコンの冒険者である俺の前にはただの雑魚とかわりゃあしねえ!」
人の姿をやめて本来の姿になった私は、叫びながらあの子を傷つけた男へと近づく。
私の大事な家族を傷つけた。絶対に許さない。
_______
この後二話投稿してますが、それで閑話は終わりで次からは主人公に戻ります。
どこに行くでもなく、何か目的があるわけでもない。ただキリュウとの約束を果たすためだけに生きていた。……ううん、違う。生きていたんじゃなくて、死ななかった。
あの日もそう。やることも、やりたいことも、やらなくちゃいけないことも何もなかった。だからとりあえず嫌いなのを倒して時間を潰そうとした。
けど、その意味のない気晴らしは実行する前に終わった。
「なら、同じ旅仲間だな」
多分アンドーはそんなに深く考えていった言葉じゃないと思う。けど、その言葉がとても嬉しかった。
普段なら何にも感じなかったと思う。なのにそれが嬉しかったのは、多分そう言ってくれた人がキリュウと同じ黒い髪に黒い目をしてたから。
昔……ずっとずっと昔、私はキリュウともよく旅をした。あの人も私のことを旅の仲間だと言って手を引いてくれた。それが無性に懐かしくて、だから多分、ついていくことにしたのはその人が楽しかったあの時を思い出させてくれたから。
誰かと一緒にいる旅は楽しかった。今までは一人でいたから話すのも久しぶりだし、一緒に食事をするのも楽しい。そもそもまともな食事を取ったのは何年前だっただろう?
あんまりにも楽しいものだから、もう長いこと見ることのなかったキリュウの夢を見れた。私たちが初めて出会った時から、私を好きだと言ってくれた大事な記憶。もうあんまり思い出せなくなってしまったそれをもう一度見ることができて、とても嬉しかった。
たった数日だけど一緒に旅をした私は、その先で思いもしなかったものに出会った。
見た目は人と蜘蛛の混じったようなあんまりみない姿の獣人の女の人。
一目見た瞬間に私の視線はその女の人から離せなくなった。
──よかった。
それがその女の人を見た瞬間の私が思ったこと。
なんでそう思ったのかわわからなかったけど、その後にすごく懐かしい感じがして、そのせいでさらに目が離せなくなった。
しばらく見ていると、どうして目が離せないのか自分なりの答えを出すことができた。
……多分、あの女の人……キリーは私とキリュウの子供の子孫。
そう思い至った瞬間に、それまでとは比べ物にならないほどに嬉しいっていう思いが溢れ出した。
だからついずっと見続けてしまった。
話しかけてみようかな? 私のことを話してみようかな? キリュウのことは知ってるかな?
いっぱいいっぱい聞きたいことが胸の内に溢れ返る。けど、キリーはきっと私のことを知らない。そんな相手から一方的に話しかけられたら迷惑なんじゃ……
そう思って私が話しかけられないでいつものようにキリーのことを見ていると、旅の仲間だと言ってここまで連れてきてくれた人──アンドーが声をかけてきた。
そして、キリュウと同じように私の手を引いて、キリーのところまで連れて行った。
「──ありがと」
なんだか恥ずかしくて呟くような小さな声になっちゃったけど、聞こえたかな?
「あんたは私のご先祖様なんだろ?」
やった。気づいてもらえた!
キリーは自分の見た目について聞いてきたけど、その理由はわからない。それにどうでもいい。今はこうしてキリュウの子孫に出会えたことの方が大事だから。
何を話そう。いっぱい話したいことがある。キリュウはもういないし、私たちの子供ももういない。けど、その子供や孫達がどう暮らしてきたのか。キリーは、両親は祖父母はどう暮らしてきたのか。幸せだったか。笑っていられたか。辛いことはないか。困ってることはないか。
そんなことをいっぱい話したかった。
「ふざけんじゃないよ!」
でも、そんないっぱいの思いは一つとして言葉になることなく壊れて行った。
「──私だって、両親と同じように、周りのみんなと同じように普通の体が欲しかった!」
突然叫んだキリーは話していく。こんな見た目じゃ嫌だって。
それは私ととの繋がりを否定されたようで悲しかった。けど、それが理由ならまだ大丈夫。
「……ごめん。けど──」
「もう私に関わらないでおくれ」
そう言ってキリーは行ってしまった。
茫然としたままキリーの背中を見送り、しばらくしてからその場を離れるために私も歩き出した。
「──ありがと」
その時アンドーの姿が見えたからとりあえずお礼を言っておく。
結果はアンドーの思っていたのとも、私が思っていたのとも違うかもしれないけど、それでも、話すことができたのは本当に嬉しかったから。
何をしているんだろう。
もう関わらないでと言われてしまった私は、これ以上キリーを悲しませないためにもあの家に帰ることができずにいた。
今は村の外にある木の上で簡単な巣を張ってうずくまっている。
「……キリュウ」
会いたい。またキリュウに会いたい。あって抱きしめてもらって、いっぱいいっぱい話をしたい。
……でも、それはもう無理。だってあの人は死んじゃったから。
私たちの子孫であるキリーに、せっかく会えたのに嫌われちゃった。
キリーと仲直りしたい。私はどうすれば……でも関わるなって言われたし、どうすることもできない。
その後も一日考え続けたけど、結局何も思いつかない。
……このまま、嫌われたままなのかな……
「…………やだよ」
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……どうしよう、まだ何も思いついていないのに。
ここで行ってキリーに会っちゃえば、もう本当に会ってもらえなくなるかもしれない。
そう思ってもう一度元の体勢に戻った私はそのまま村をボーッと眺めていた。
そんなことをしても良い考えが思いつくわけでも、何かが変わるわけでもない。
……大丈夫。だってあの村にはアンドーもイリンもタマキもいる。だから、私がいく必要なんてない。
だけどそう思いながらも、それでも私はキリーのいる方を見続けた。
しばらくの間村を見続けていた私の耳に、音が届いた。
それは大きな音。さっきと同じ攻撃の魔術による音だった。
あそこにはアンドー達がいるからなんの問題もないと思ってたけど、どうしたんだろう?
……近づくことはできない。けど、これなら平気だよね?
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この糸には魔術をかけてあって、伸ばした糸の先に視界を移してその場にある景色を見ることができて声も聞くことができる。とっても便利。
そうして見た村の景色は集団に攻め込まれているものだった。
そしてそれに抗うかのように戦っている村人と、そこに混ざっているキリーの姿。
どうやら壁にかけていた魔術が消されたみたいで、壁の一部が壊れてる。
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「この程度の奴らに手こずるなんざ、大したことねえな! ハッ! こりゃあ俺が来るまででもなかったか?」
「っ! ぐぅっ……」
聞こえたのは誰かの苦悶の声。違う。誰かなんかじゃない。これはあの子の声だ。
関わるなって言われたのにここで行ってしまえば、もう会うことも許してくれないかもしれない。そんなことになるくらいだったら……。
「知らない! そんなのどうでもいい! 私はっ──!」
木から飛び降りてあの子のところへ向けて走り出す。
「にしても気持ち悪ぃな。なんだその顔。それに腕。ハーフなんざこの世界に存在しねえはずなんだがな……。ま、これから死ぬ奴のことなんてどーでもいいか」
その間もあの子を傷つける奴の声が聞こえるけど、殺させたりなんてしない。
一秒でも一瞬でも早くあの子を助けるために、私は全力で走る。
「とりあえず死ん──あ? ……んだぁこの揺れは」
ついに糸なんかじゃなくて目視で確認できる距離まで近づいた。
傷つきながら地面に膝をついているあの子と、あの子に剣を突きつけてる男。
それを見た瞬間に私の中の理性や自重なんかが弾け飛んだ。
──ギイイイィィィィ!
「ありゃあ魔物か? チッ、騒ぎに釣られでもしたか? まあ良い。いくらデカかろうと魔物の一体程度、オリハルコンの冒険者である俺の前にはただの雑魚とかわりゃあしねえ!」
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本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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