聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
37 / 165
幼少期編

初めまして、聖霊さん。

しおりを挟む
 瞳を閉じる。
何も見えない。

 何も考えない。何も考えない。
頭に残るのは聖霊への想い。
それ以外は何も。
考えない。必要ない。
関係ない。

 大きく息を吸い込む。
吐く。
大丈夫。
裏声だって、あんなに練習しました。
あとはそう、自分を信じて。

ーー 歌え。

 

 ♪『照らす光と射す闇と

       それら二つを起源とし

       芽生える命は尊きもの

      この世全てに光あれ

      この世全てに命あれ

      それを際立たせるは闇

      気高くあれ  三色よ             』


 
 吸って、吐いて、吸って。
また吐いて。

 ゆっくりと瞳を開けると、色鮮やかな世界が目に飛び込んで来た。

 「わー!すごいすごーい!」
 「すごーい!きれーい!」
 「あのね、あのね、」
 「おなまえおしえて!」
 「ぼくたちは、」
 「せいれいだよー!」
 「きれいなうた、ありがとー。」

 舌ったらずな子供の声があちこちから聞こえて来て。
見ると、たくさんの可愛い生き物に囲まれていた。
妖精のような透き通った羽、つぶらな瞳、艶々の髪の毛。
わたくしが、この世界を選んだ理由。
全ての始まり。
そんな彼らが今、アルカティーナの呼び出しに応じてやって来てくれた!

ーー成功!!!

 アルカティーナは、嬉しくて泣きそうになった。
でも、これは記念すべき聖霊さんとの初会話!
泣き顔なんてもってのほかです。
急いで、にじんだ雫を引っ込める。

 「初めまして、聖霊さん。わたくしはアルカティーナ・フォン・クレディリア。ティーナって呼んで下さいね!」

 アルカティーナの言葉に聖霊たちは全身で喜びを表した。
くるくると光の鱗粉のようなものを飛ばしながら、クルクルと飛び回ったり。短い手を合わせてペチペチ拍手したり。

 「わー。わー。てぃーな!」
 「てぃーな!てぃーな!!」
 「よろしくね、ぼくはひかりのせいれいー」
 「わたしはき!なかよくしてね!」
 「おれはやみのけんぞくなりー。」
 「わたしはひかりー。」
 「わがはいはやみー!」
 「ぼく、きだよ!」

 「「「「「「よろしくーーーー」」」」」」


 後ろをチラと振り返ると人見知りな聖霊たちを怖がらせまいと、息を潜める皆んなが目に入りました。
息を潜めながらも、その表情は何処か満足気に見えます。
 流石ティーナ。これぞティーナ。まさにティーナ。
皆んなが皆んな、我が事のように、新たな聖女候補の誕生を喜んでいた。

 今世の自分は、こんなに恵まれていて良いのでしょうか。
悪役という爆弾は抱えているけれど。
それにしたって、お釣りがくるくらいじゃないでしょうか。
 だったらもう、いっそのこと。
願っても、良いでしょうか。
もっともっと、幸せな生活を。
これ以上ない楽しさを。
かねてからの願いを。

 「あの、聖霊さん!よ、よかったら。よかったら何ですけど…。わたくしと、お友達になって下さいっ!」

 ほんのちょっとの勇気。
断られたら泣くだろうなと思いながらも言ってしまいました。
返ってきたのは嬉しい言葉。

 「いいよー。」
 「もちろんー。」
 「いいよいいよー!」
 「てぃーな!だいすきー!」
 「ふっよろしくな、あいぼぅ!」
 「きょうからてぃーなも、わがけんぞくだ!ってあれっ?けんぞく、だっけ。かいぞくだっけ?あれー??」


 さっきからちょっと、変な拗らせ聖霊さんが何名かいらっしゃる気がしますが、そんな事は気にしません!

 アルカティーナ・フォン・クレディリア、この世界に来て初めてのお友達ゲットです!!!
 さあ、早速友達同士水入らず、語り合いまし….…
 「ティーーーナァァァーーー!良かったね!よかったね!晴れて聖女候補だよー!わーい!うちの娘は天才だっっ!!!」
 「わーー!」
 「きゃーーー!」
 「にんげんこわいよー!」
 「ばいばいてぃーな!」
 「ふっ、またな、てぃーな!」
 「やみがおれをよんでるきがする!べ、べつにそいつにびっくりしたからじゃないからな!!」
 「え??ちょっと!?聖霊さーん?わー!ま、待って下さいーーー!!!」

 お父様のせいで、初めてのお友達は帰って行きました。
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...