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デビュー編

では、失礼いたします。

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 聖霊という神秘的な生き物たちが誘うファンタジーな世界。
それがこの、「聖霊のアネクドート」という乙女ゲームの世界観です。
 わたくしはマニュアル本を毎日のように呼んでいるので内容はほぼ暗唱できます。
 
まず、ヒロイン様。
名前はロゼリーナ・アゼル。
元々は庶民で、出身国もルーデリア王国ではなく、お隣のゲレッスト王国。
しかし、12歳の時に聖女候補になり、ルーデリア王国のアゼル伯爵の養女になる。
そして、貴族令息や貴族令嬢ばかりが通う王立リリアム学園に入学。
そこで様々な人達と交流する中で、彼女は運命の恋をするのだ。

 マニュアルによれば、彼女がアゼル伯爵の養女になるのは12の時。
今のところ、ロゼリーナという少女が聖女候補になったという話は聞かないので、恐らくまだなのでしょう。
ただ、アルカティーナと同い年なはずなので、もうそろそろロゼリーナも聖女候補になる頃だと思われます。
 ひとまず、今日のパーティーで遭遇する確率はゼロ。
安全圏です。
が、学園に入学してからは出来るだけ関わりたくない人No. 1。自分の命のために気をつけたいところです。
 

 ですが、今問題なのは攻略対象さま達です。
攻略対象様は全員が貴族。
しかも、全員年上か、同い年。
つまり年下がいない上に貴族なので、今日のパーティーで彼らに遭遇する確率が高いという事です。
 年上ならばパーティーに来ていないかも、とも思ったのですが、なんと今年のデビュタントパーティーは何故かデビュー済みの方々の出席率が異常に高いのだとか。
なんで今年に限って!
皆さま、どうぞおかえりくださいませ!
何度そう思った事でしょう…。

 まあ、それはさておき攻略対象さまです。

攻略対象1。
ディール・エル・ルーデリア。
ルーデリア王国の第一王子。
「白馬の王子様」と名高い、完璧な少年。
ヒロイン様よりも2歳年上。
この方のルートは、所謂王道ルート。
王族ならではの悩みや苦しみを和らげ、仲良くなる事で好感度アップ。
そして、二人で困難をいくつも乗り越えて行くうちに上手くいけば思いが通じ合う。
そんなストーリーだそうです。

 そうです、彼こそが一人目の攻略対象さま。
この国の王族なのですから、今日のパーティーに参加することは予想していましたが…
 まさか目があってしまうなんて!!
悲劇です。ヤバイです。
絶対あとで、「何ガンつけてくれたんだ」って怒られるに決まってます!
何たって悪役ですからね。
多分ゲーム補正とやらでイチャモンつけられる未来は確定してると思うのですよ。
御免なさい。
わざとじゃないんです。
だから死刑とかやめて下さい。

 「………だから、我も其方を誇りに思っておるのだ。其方は兄と同様、優秀だと書いておる。期待しているぞ。今日はおめでとう。」

 あれ?何か、陛下が喋ってらっしゃる。
しまった!!
ゲームのことばっかり考えていたせいで全然聞いてませんでしたよ!
よし、うまく誤魔化しときましょう!
 こういう時は笑顔で誤魔化すんだとお母様から教わりました。

 「勿体無いお言葉、ありがとうございます陛下。」

 だからもう、帰っていいですか?
家に、とは言わないのでせめてお兄様のところに。
そんな思いを込めて陛下を見つめると、大きく頷いてくださいました。
 帰っていいんですね!ありがとうございます!

 「では、失礼いたします。」

 最後にもう一度カーテシー。
そして、退散。
パンダのお披露目の時間は終了ですよ。

 戻る途中、玉座の方から…主に王子殿下の方向から物凄く視線を感じたのですが…気のせいですよね?
「何ガンつけてくれたんだ」って事じゃないですよね?

  
 こうして、アルカティーナは無事?第一関門を突破したのだった。
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