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出会い編
待ってください料理長ぉーーー!
しおりを挟む「やりました、やってやりましたよ!ふふーん!」
上機嫌で廊下でスキップをするアルカティーナに侍女たちは目を丸くした。
ここまで目に見えて上機嫌なアルカティーナは少し珍しいからだ。
何事か、と思った侍女の一人がとうとう尋ねた。
「何か良いことでもございましたかアルカティーナ様?」
「あらリリーヌ!そうなんですよ、聞いてください!あ、皆さんも聞いてください~~!ゼンのことを少し知ることができたのですよ!ふふーん!」
「「「まあ!おめでとうございます!!」」」
侍女たちは声を揃えて祝福した。
実はこのクレディリア邸で、アルカティーナは最早アイドル的存在となりつつあるのだ。
それは勿論、侍女たちの間でも同様の話で、本人のいないところではいつもアルカティーナを「可愛い」「可愛い」と賞賛祭りにあげている。
そんなアルカティーナが喜んでいるのだから、侍女たちは心から祝福したのである。
「まず、ゼンは今14歳なんだそうです。好きな食べ物はチーズケーキで、嫌いな食べ物はセロリですよ!」
得意げに胸を張るアルカティーナに、一人の侍女がおずおずと話しかけた。
「あの…お嬢様。ゼン様…ゼン殿は、ご自身の出生について何か仰っておられましたか?お家のこととか…」
「ゼンの実家ですか?それについては結構前に聞き及んでますよ?」
さも当たり前のように言いのけたアルカティーナに、侍女たちは騒然とした。
「え!?ゼン様の出生を既にご存知なんですか!?」
「はい。ゼンの実家は、没落してしまって今は名もなき貴族なのですって」
少々言いにくそうにそう言ったアルカティーナに、一人の侍女が呟いた。
「え?ぼ、没落…?何処が?」
しかし、その小さな声には気が付かなかったアルカティーナは侍女らに又もや嬉しそうに話した。
「あ!そう言えばゼンのお誕生日もわかりましたよ!11月11日だそうです。ポッ○ーの日ですね!ポッ○ー!!」
「「「ポッ○ー???」」」
侍女たちの脳内はハテナマークで埋め尽くされた。
◇ ◆ ◇
「と、言うわけで!11月11日は飛びっきりのお料理をお願いしますね料理長!」
「お任せください、お嬢様!ふははは!我が腕の前に作れぬ料理などないわ!ふははは!!」
時折謎の笑い声をあげるこの人は、我が家の誇る凄腕料理長です。
普通にしていたら普通に良い人なんですけど、料理の事になると一転。変な人になります。
何故だ?わからない!
「それにしても、11月11日かー。ポッ○ーの日がお誕生日なんて、ゼンは恵まれてますね。羨ましい!はぁ、ポッ○ーが食べたいです…」
前世で勉強の合間に食べていたあの味が忘れられません!美味しかったなぁ~~。
そんな思いで呟いただけだったのだが、料理長は何故かそれに過剰な反応を示した。
「えっ…お嬢様、ポッ○ーをご所望なのですか?」
「?はい。料理長はポッ○ーをご存知なんですか?わたくし、最近ポッ○ーポッ○ーと連発していたせいでポッ○ーが食べたくなったんです…」
「ポッ、ポッ○ーを、た、食べたい…!?」
「え?あれ?わたくしそんな変なこと言いました?何でそんなこの世の終わり~~みたいなお顔をするのですか!?あの、料理長!?おーい!料理長ぉー?」
「くっっ!お嬢様のご要望なら致し方ない…」
「あのぉ、料理長…?」
どうしよう。
料理長が壊れました。
なにやらずっとぶつくさ呟いてます。
夏バテですか?
「お嬢様!!!!」
急にギュイン!と顔を上げて叫んだ料理長に、アルカティーナは悲鳴に近い声をあげた。
「ひゃいぃっ!な、何ですか?」
すると、料理長は何故かイイ笑顔で…
「お任せください!!」
そう言った。
「え?何をですか??」
何が何やらさっぱりわからないアルカティーナを残して、料理長は何故か屋敷を全速力で飛び出して行った。
~~数分後~~
料理長がやはり全速力で帰ってきました。
そして彼の腕には可愛らしくブラウンの毛がうねる小型犬が抱えられています。
彼はそのワンちゃんを何故か!何故かまな板に乗せ…
「お嬢様がお前をご所望だ。悪いな、お前とはここでお別れだ」
「くぅん」
「や、やめろ!俺だって…俺だって!お前を殺したくはない!でも、やらなければいけないんだ!!」
そして彼はまな板目掛けて包丁を構えました。
あれ?何かおかしくないですか?
何で料理長はワンちゃんに包丁をむけてるんですかね?
「くぅぅ~~ん…」
つぶらな目元に僅かに涙をなじませるワンちゃんの首元には金のチャーム付き黒の首輪がついています。
金のチャームには何か文字が書かれてあります。
ワンちゃんの名前かな?
よくよく見ると、そのチャームには『ポッキー』と書かれてあって………
「悪い、ポッキー!俺を恨んでくれて良いから!」
「きゅうん…」
「いやぁぁぁああああああああ!!!待ってください料理長ぉーーー!」
そのワンちゃんは料理長の飼い犬なのだとか。
あ、勿論ポッキー(ワンちゃん)は救出しましたよ?
はあ、危うく可愛いワンちゃんを殺めるところでしたよ…。
ごめんなさい、ポッキー。
ごめんなさい、ポッ○ー。
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