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出会い編
後ろのアナタもそう思わない?
しおりを挟む「と、いうことがあったんですよ~」
「へー!それはまた面白い料理長ね。犬とポッ○ーを間違えるだなんて」
「ですよねぇ。あの時は本当に焦りましたよ…もう少しで可愛いワンちゃんを食すところでした」
それは、あくる日の午後。
アルカティーナとリサーシャはアメルダの家に招待され、共にアフタヌーン・ティーを楽しんでいた時のことだ。
アルカティーナは先日起きた軽い(?)事件ーー名付けて『ポッキーちゃん(ポッ○ーじゃないよ!ワンちゃんの方だよ!)と料理長のまな板上での悲劇事件』の話を2人にしていた。
「でもポッ○ーかぁ。確かに食べたいかも!」
「ですよねぇ」
「懐かしいよね!」
「ね!」
前世のお菓子を懐かしみ、そして思いを馳せていた2人にアメルダはおずおずと声をかけた。
「ね、ねぇ」
「「何(ですか)??」」
「さっきから言ってる、そのポッ○ーって何?聞いたことないんだけど…べ、別に2人の会話についていけなくて寂しかったわけじゃないからね!…ま、まあちょっとは思ったけど、ちょっとだけだからねっ!ほんのちょっぴりなんだからね!!………あ、それで、ポッ○ーって一体何?」
アメルダは相変わらずのツンデレを炸裂させている。
しかし、アルカティーナ達は全く動じない。
あのお茶会以来アメルダと仲良くなったリサーシャと、それ以前から付き合いのあるアルカティーナは、もう慣れてしまったらしい。
実に変な慣れである。
そして、そんな慣れっこな2人はアメルダの言葉に苦笑した。
なるほど、やけに静かにしていると思えばポッ○ーが何なのか分からなかったらしい。
よくよく考えてみれば、彼女はアルカティーナ達とは違って転生者ではないのだから知らなくて当然なのだが。
しかし、ポッ○ーを知らないまま生きるのは勿体無い!あんなに美味しいのに!
そう思ったアルカティーナは、生き生きと説明をした。
「えっとえっと、ポッ○ーっていうのはですねぇ。ピョーーーンってしてて、それでいてカコーーーンとしてて、そんでもってパキーーーンドカーーンって感じのお菓子のことですよ!」
「「………………………………」」
「あれ、すっごく美味しいんですよ?あのポキッて感触がまた良いのですよー」
「へ、へぇ…そんなお菓子があるのね(棒)」
「……ドカーーンて、何」
あたりに微妙な、何とも言えない空気が流れた。
アルカティーナの意味不明なポッ○ーの解説に2人が思わず閉口したのも無理はない話だ。
「あーーっとね、ポッ○ーは、細長い棒状のクッキーの上にチョコレートがかかっているお菓子なの。で、そのチョコレートがクッキーの下の方にはついてないから食べるときに手が汚れないからすごく便利なの!美味しいしね!」
アルカティーナとは一転。リサーシャがほぼ完璧な説明をしてのけた。
そして、アメルダはそれに顔を輝かせた。
「へぇ!そんなお菓子があるのねっ!ちょっと食べてみたいかも…ちょっとだけだけどねっ!」
「ね、ねぇねぇ。どうして同じ言葉なのに私の時と全然態度が違うのですか!?わたくし、そんなに変なこと言いましたか?…あれっ?なんで!?なんで2人とも目をそらすのですか…!?」
少し涙目になりつつあるアルカティーナから、2人は顔を背け続けた。
良心が痛むのは言うまでもない。
「うーん、でもさっきのは本当にひどかったよ?」
「うんうん。正直何言ってるか分からなかったし」
「ふ、2人ともひどいです!わたくしの精一杯の説明を一言で片付けるなんて」
「「精一杯…………????」」
「ひどい!」
2人の本心からの言葉にアルカティーナはふくれっ面をしてみせた。
童顔の彼女がそれをすると、実はかなり可愛かったりする。
「いや、でもあれは酷いってー。ね、後ろのアナタもそう思わない?」
リサーシャは、アルカティーナの背後に視線を投げかけるとそう言った。
アルカティーナの背後にいるのは、ただ1人。
ゼンだ。
護衛役の彼はアフタヌーン・ティー中とは言えずっとアルカティーナの後ろに控えている。
ゼンに笑顔を向けたリサーシャに、ゼンもまた笑顔を返した。
「はい、自分もあれはないかと思います」
人前なので、ゼンは完全に従者モード。
いつものような軽口は叩かないが、言っていることはかなり辛辣である。
そしてリサーシャは、うんうんと頷いてみせた。
「だよねぇー。あ、私はティーナの友達でリサーシャ・キリリア。よろしくね」
「あ、私はアメルダ・サクチル。どうしてもって言うなら宜しくしてあげなくもないわ!…宜しくお願いします」
「お二人とも、ありがとうございます。申し遅れました。自分は聖女候補アルカティーナ様の護衛役をつとめております、ゼンです。今後ともよろしくお願いします」
そうしてゼンは、笑ってお辞儀をした。
完璧な挨拶、振る舞い、笑顔、お辞儀。
完璧な従者「ゼン」を演じている。
そしてアルカティーナはと言えば、世間話に花を咲かせ始めた3人を横目に考え事をしていた。
前々から2人にはゼンを紹介しようと思っていましたし、ちょうど良かったのかな?
できればゼンには2人と仲良くなってもらいたいですし……
それに、上手くお話が出来てるみたい。
よかったです!
アルカティーナは微笑みながらもう一度、3人に目をやり…そして、瞠目した。
「アナタって、第一騎士団に史上最年少で入団したっていう、あの…?」
「はい。恐れながら…」
「え!す、すご…いとでも言うと思った?この私が!……あの、すごいわね。素敵だと思うわ」
「はは、ありがとうございます」
完璧な挨拶、振る舞い、笑顔、お辞儀。
………乾いた、笑い声
その姿が、わたくしと彼が初めて出会った時の光景と重なったのです。
薄々気がついてはいるんです。
気がついてはいたのです。
ゼンはきっと、社交が苦手です。
初対面でゼンをとっつきにくいと思ったのは、きっとそのせい。
ゼンは社交が…いえ、きっと人が苦手なのでしょうね。
一種の人見知りのようなものでしょうか。
勿論本人に聞いたわけではないので断言はできません。
でもそうでないなら、どうして侍女と廊下ですれ違うたびに、使用人とすれ違うたびに、ゼンは僅かに顔を引攣らせるのでしょうか。
でも、ゼンのことです。
きっとその「苦手」を克服しようとしているに違いありません。
だって、何もかもを完璧にこなそうとする彼ですからね。
だからどんなに人付き合いが苦手でも、それを自力でこなそうとしているのです。
わたくしは、ゼンの友達です。
ゼンの味方です。
だったら、
今わたくしがすべき事は…
わたくしにできる事は、ふたつ。
ひとつは、苦手に立ち向かうゼンを応援する事。
心の底から応援します!
頑張れゼン!!
もうひとつは…
「ゼン!」
「なんですか?」
「わたくしたちに混ざりませんか?一緒にお茶して、語らうのです!きっと楽しいですよー」
もうひとつは、頑張り屋さんのゼンの背中を押してあげる事。
ゼンがなんで人見知りなのか。
ゼンは一体何を抱えているのか。
わたくしは知りません。
でも、わたくしの思いは変わりませんよ?
心の底から応援します。
だからゼン、頑張って!
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