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出会い編

お嬢様の御心のままに

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ラグドーナと居場所は案外容易くわかった。
どうやら彼は王城からあまり離れていない廃虚間近の母屋を潜伏先に選んだらしい。
彼がそこへ出入りしているところを目撃したものがいるらしいのだ。
 普通の公爵令息が出入りするような場所ではないので、ほぼ間違いなく彼は黒だろう。

 「そうと分かれば早速向かったほうがいいと思うぜ?ラグドーナ様はきっと相手が公爵令嬢だろうと何だろうと容赦しないぜ?」

 騎士たちに囲まれたままで身動きの取れないジェソーはアルカティーナたちにそうアドバイスした。
 元よりジェソーは血生臭いことはあまり好まない。
むしろ平和主義者だ。
ゼンに負けた以上、悪あがきをするつもりはなかった。
しかしディールを始めとする城の者たちからすればジェソーはこの場で一番信用ならない人物だ。
信じろというほうがむしろ酷な話である。

 「殿下、こいつの言うことに耳を貸してはいけませんよ。罠かもしれません」

 案の定、騎士の1人がディールにそう耳打ちした。
そしてやはり、ディールもそれに頷きかけた。が、そこでゼンがこれ見よがしにこう言ったことで思いとどまった。

 「彼の話を聞いてお嬢様はどう思われました?」

 一同は静まり返ってアルカティーナに注目する。 
静かな夜の闇の中、アルカティーナはやはり静かに告げた。

 「わたくしは…彼が嘘をついているとは思いません。そんな感じが一切しないのです。わたくしは人の悪意というものにはとても敏感なので、彼が嘘をついている可能性は低いかと」

 「そうですか。では自分はお嬢様を信じましょう。今すぐ母屋へ向かいましょうか」

 様当たり前のように飄々と告げたゼンに、アルカティーナは狼狽した。

 「えっ…?いや、でも今ディール殿下が」

 「長い物には巻かれろとはよく言いますが…」

 何かを言いかけたアルカティーナに被さるようにしてゼンははっきりと言い放つ。

 「自分は、人を疑うよりも信頼する人を信じたいと思いますので」

 その空色の瞳に真っ直ぐ射抜かれたまま、アルカティーナはハッと息を飲む。

 ゼンに嫌われてはいないと思ってはいましたが、まさかそんな風に思っていてくれたなんて…

 彼は暗に『お嬢を信頼している』と言ってくれたのだ。
そして『俺はお嬢に従う』と。

 自分で思っていた以上に、ゼンはわたくしを思ってくれているみたいです。

 アルカティーナは感激に身を震わせた。

 「ありがとうございます」

 本当に、ありがとうございます。ゼン。
わたくしはなんていいお友達を手に入れたのでしょうか!!
すごくすごく、嬉しいです!

 心から感謝の気持ちを告げるとゼンはフッと笑って返しました。

 「お嬢様の御心のままに」

 ゼン、それじゃあまるで執事みたいですよ?

思わずクスリと笑ったアルカティーナから、ゼンは目をそらすと今度はディールを見つめた。
 『殿下は何を信じますか?』という意を込めて。
その目線に耐えきれなくなったように、ディールは苦笑してからこう言った。

 「私も、アルカティーナ嬢を信じよう」

 「っ!しかし殿下!」

 食い下がる騎士に、ディールは引かなかった。

 「その注意深い精神は素晴らしいものだ。だが、彼女が悪意に目敏いというのも、事実だ」

 「……わかりました。アルカティーナ様、失礼いたしました」

 「いえいえ、とんでもありません」

 騎士が諦めたところで、ディールは捜索の準備を整え始めた。
次々と騎士団に事細かな指示を出していく。

 「アルカティーナ嬢たちは第一騎士団と一緒に行動してくれ」

 何かあっては大変だからな。と告げたディールにアルカティーナとゼンは頷いた。

 「はい、わかりました」

 「承知いたしました」

 第一騎士団といえばルーデリア王国が誇る国内最大勢力の騎士団です。
 これは足を引っ張らないようにしないと!
アルカティーナは気を引き締めた。

 「すまないが私はここを離れられない。まだ事件に関与する案件が残っていてな。代わりと言っては何だが、ラグドーナ殿およびテンペス公爵家への処置に関しては任せて欲しい。くれぐれも道中は気をつけて」

 出発間際、ディール殿下は申し訳なさそうにそう仰いました。
まぁ殿下ともあろうお方がそうポンポンと外出できませんよね。

 「勿論それは心得ておりますよ、殿下。では、行って参ります」

 と、そこでアルカティーナは大切なことを思い出した。
 
ここまで話がスムーズにいったのは「彼」のお陰でもあるのです!
やっぱり出発の前にお礼を言いたいです。
そう、「彼」はラグドーナ様に女装までさせられたのですよ?
かわいそう…!本当にかわいそう!!
女装だなんて!
女装、じょそう、じょそう…じょそう。

 「彼」のドレス姿を想像してあまりのおぞましさに考えるのを途中でやめたアルカティーナは、ふと首をかしげる。

 あれ?「彼」、名前何でしたっけ??
 あ!そうそう!思いだいました!

 アルカティーナはニッコリ笑顔で「彼」に近付くと、お礼を言った。

 「色々教えてくださってありがとうございました、ジョソーさん!」

 そして深く一礼をしてからその場を第一騎士団と共に後にした。

 向かうは戦場。
アメルダとリサーシャを取り戻すべく出発です。
絶対に助け出してみせますよ!

 その切実な思いが強すぎたのだろうか。
アルカティーナは、とある人物の切実な声には気が付きもしなかった。

 「オレ、ジョソーじゃなくてジェソーなんだが!?ジョソーって何だよ!絶対女装のこの引きずってんだろ!」

 「……………なんて言うかその…ドンマイ!」

 騎士の1人に励まされたジェソーは、深いため息をつくとガクリと項垂れたのだった。
 
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