聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

何やったんだお嬢ーー!

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 順調に目的地へと足を進めていたアルカティーナ達だったが、たちまちその歩みを止めることとなった。
 それには、先程倒したばかりのロボットが関与していた。
1人、こう呟いた者がいたのだ。

 「……部屋の前にさしかかった瞬間またキモロボット出てくるとか、ないよな?」

 それは暗闇の中で嫌に響いた。
そしてそれが、場に混乱をもたらしたのだ。

 「お、おいやめろよ。冗談じゃない」

 「ま、まっさかぁー」

 「俺もう嫌だぞあのキモロボット!」

 「俺だって嫌だ」

 「俺だって!」

 夢に出てきてまで踊り出しそうなおぞましい姿のマドモアゼルを思い出した騎士達は思わず身を震わせた。
何を大袈裟な、と思うだろうか。だが、事実マドモアゼルはそれ程までに不気味な見てくれだったのだ。

 「あの、マドモアゼルちゃんの仲間がまた出てきたとして…そのロボットがわたくしたちを攻撃する可能性ってないのですか?」

 前世でよくロボットもののアニメの宣伝を目にしていたアルカティーナはそれを危惧していた。
ロボットによる奇襲を。

 だが、この世界にはそんなロボットは架空上にも存在しない。それこそ夢物語のようなものだった。
 しかし、騎士達はアルカティーナの言葉を重く受け止めた。なぜなら同じく架空上にも存在しない、走るロボットを目にした直後だったからだ。

 「攻撃…あるかもしれない。だって、走って現れたキモロボットだ。攻撃してくるロボットくらい、いてもおかしくはないはず」

 「攻撃!?そんなものされたら、どうするんだ」

 「さっきは攻撃してこなかったから良かったものの、もし次に出てきたときにされたらたまったもんじゃないぞ」

 「そうだな…あの巨体には太刀打ちできない」

 「あ!ならまたアルカティーナ様に倒してもらったらいいんじゃ…」

 「馬鹿!公爵令嬢に二度もそんな危険なことを頼めるか!」

 一同は、突き当たりの部屋を目の前に尻込みをした。
実は、今回は敵の戦力がそれ程脅威にはならないと既に調べがついていたのだ。 
だから、彼らもそれを前提とした下準備の下、出陣した。
だからこそ、予想外だったからこそ、一同はロボットを警戒した。

もしもあのロボットが攻撃可能で、我々に襲いかかってきたらーー??

 勿論ロボットのことまでは調べがついていなかった。
だから、今ロボットに襲いかかられても彼らには対抗する術がないのだ。
しかも相手は走ることもできる超高性能ロボット。
予想外もいいところである。

 「まぁまぁ皆。落ち着け落ち着け」

 ぐるぐると混乱の渦に巻き込まれていく騎士達をまとめたのは、ゼンだった。

 「ゼン…そうは言ってもこれは落ち着いてはいれんぞ」

  顔を真っ青にさせてそう言った男に、ゼンは苦笑を返した。

 「俺だって気持ちは分かるぞ?確かに俺たちではあのロボットには太刀打ちできない」

 実際、剣で傷一つつかなかった。
ロボットに真っ向から挑むのは得策ではないと、ゼンは見切っていたのだ。
 そして、こうも思っていた。
だからこそ、今自分たちがすべき事は焦る事ではないと。
 ゼンは、仲間達に語りかける。

 「真っ向勝負出来ないなら、真っ向から攻めなければいいだけの話だろ?」

 「確かに。でもどうやって?ロボットがでてくるとしたら、多分あの扉の前だ。でも、俺たちはあの扉を開けないとリサーシャ様とアメルダ様を救出することができない」
  
 その通りである。
今アルカティーナ達がいるのは廊下の一角。
それも、突き当たりの部屋を目前とした一角。
 もう、ロボットが現れるとしたら部屋の前くらいしかない。
部屋の中にはアメルダとリサーシャがいる。
でも、ロボットと遭遇する可能性もある。
そのロボットが攻撃可能である可能性もある。
そしてそのロボットに立ち向かう術を、一同は有していない。
でも、部屋の前を通らなければ2人を救出することはできない。
絶望的な状況だ。

 誰もがそう思っていた。

 しかしゼンは、その考え方をため息まじりに否定した。

 「大体な。2人を助けるのに部屋の前を通らないといけないとか、誰が決めたんだ?」

 「は??…どういうことだよ」

  首をかしげる騎士達を尻目に、ゼンはアルカティーナに話しかける。

 「あのロボットを丸焦げにしたんだ。あの部屋の扉をここから開けて、ついでに中にいる敵もぶっ潰して、アメルダとリサーシャを救出。…できるだろ?」

 アルカティーナは苦笑した。

 「無茶言いますねぇ」

 成る程それなら、誰も部屋に近付くことなく全てが解決するだろう。
 だがしかし。
 ゼンの言う『ここ』とは今アルカティーナ達が立っている場所。
 つまり、例の部屋からおよそ5メートルほど離れている場所のことである。
 そこから扉を開けろ、とはつまり聖女候補の力を使え、と言うこと。それしか打開策がないからとはいえ、あまりの暴挙である。

 しかしアルカティーナは首肯した。

 「多分、出来ますよ」

 何しろあの巨大ロボットを丸焦げにしたのだ。
そのくらいは出来てもおかしくないだろうとアルカティーナは思った。

 前世でエリートと呼ばれたその頭を一気に回転させ、手順を考えるとアルカティーナは直ぐに力を発動させた。

 
 「風よ、こじ開けろ」


 最初は、真正面の扉に向けて風属性の力を。
仲間まで風に巻き込まれて吹っ飛んでは困るため、扉間近にだけ風を巻き起こす。
 すると、一秒も経たないうちに扉は勢いよく開け放たれた。
その反動で部屋の内部が露わになったのを、アルカティーナは見逃さなかった。目に入ったのは、床に這いつくばるラグドーナの情けない姿。
 何故か既に敵の襲来を受けたような見てくれだが、アルカティーナはそんな事は気にしない。
 


 よくもわたくしの大切な人達を攫ってくれましたね!

 

 そんな思いを込めて新たに力を展開させる。

 「土の壁よ!」

今度は土属性。
アルカティーナが床に手を当てると、土でできた巨大な壁が、メキメキと床を突き破り現れた。
しかも、その壁は一枚ではない。
アルカティーナの手元から、ラグドーナのすぐ側まで何重にも連なっている。

 一体何をするつもりだ!?

 騒然とする騎士達には目もくれず、アルカティーナは自身の足に風属性の力を加えると、勢いよく手元の壁に回し蹴りを食らわせた。
 もう一度言おう。
回し蹴りである。
いち公爵令嬢が、回し蹴り。母であるマーガレットが見たら真っ青だろう。

 それはさておき、回し蹴りを食らった壁どうなるだろうか。
粉砕か?あるいは倒壊か?
いずれも不正解だ。

 アルカティーナの蹴りを真正面から受けた壁は、グラリと傾く。
その傾いた壁はその前にある壁を押し、前にある壁はいとも簡単にグラリと傾く。
そして、傾いた壁はまたもやその前にある壁にぶつかり、押し…それがまた倒れ、前の壁を押し……バタバタと音を立てながら何重にも連なった壁はどんどんと倒れていった。

 端的にいえば、巨大版ドミノである。

 それを見たゼンが思わず叫んだのは、無理ないだろう。

 「何やってんだお嬢ーー!」

 しかし、当の本人はケロリとしていた。
キョトンと首をかしげると、無邪気に笑ってみせた。

 「えへへ。久しぶりにドミノ、倒したいな~って思ってたので、つい」

 「つい……??」

 ゼンは、アルカティーナの笑顔に呆然とした。
俺の主人はどうしてこんなに変人なんだろうか、と。

 そうこうしているうちに、部屋の方から「ぐぇっ…」と誰かが押し潰れたような声が聞こえてきたから、それは恐らくラグドーナのものだろう。
アルカティーナはそれを聞いて満足げにコクコク頷くと、続いてアメルダ達を救出するための力を展開し始めたのだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 皆様御機嫌よう、水瀬です。

何だか急に秋らしい気候になって、毎日辛くてもがき苦しんでいる(嘘です。そこまで苦しんではないです。)水瀬です。

秋といえば、色々ありますよね。
例えば、読書の秋とか読書の秋とか読書の秋とか読書の秋とか。
あと、強いて言うなら食欲の秋とか食欲の秋とか食欲の秋とか。
うんうん、秋っていいですねぇ。
勉強の秋だとか耳にした事がありますが、私の辞書にそんな言葉はのってないので。
あと、スポーツの秋とか。聞いた事ないですね。
スポーツ、ナニソレ、オイシイノ?

 さてと、余談はここまでにしまして……。
今回は少し長めでした~。
ふぅ、書くのも一苦労だぜ…
次回はいよいよアルカティーナとアメルダ、リサーシャがご対面!やだ、ドキドキね!
 まあドキドキ展開なんてまだ出てこないんですけどね。まだ。
そもそもドキドキ展開なんて書いたことないので自信がないです。どうしよう。ビクビク…

 何はともあれ、そろそろこのラグドーナ事件のお話も終わります!
 そしてそろそろヒロインさま初登場です。
ゲームの世界っぽくなっていくかも…?
どうぞよろしくお願いします!(ぺこり)

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