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出会い編
たとえ二人が変態でも、
しおりを挟むそこは、薄暗い地下の廊下。
そこには三人の少女が代わる代わるに話す声が響いていた。
その声は、揃ってどこか悲痛な声に聞こえる。
「大丈夫です、わたくしは気にしませんから…っ!」
「お願い話を聞いて!」
「てか何が大丈夫なのよ!」
「良いではありませんか、もう。二人は少し特殊で…わたくしとは相容れない人種だった……そうでしょう?」
「「そう、だけど…なんかちがう!」」
「もう、やめましょう。こんな言い争い。これ以上はもう……!」
「待ってお願いよ、待って!」
「やめて困るの私達なんだけど!ねぇ!ティーナ!ティーナさぁぁあああーーん!!!」
良い感じに聞き間違えたら、或いはこの会話の前に起こったことを知らなければ、少し感動してみたり泣いてみたり出来そうな雰囲気の会話である。
しかし、現実はそんなに美しいものではない。
「つまりわたくしが言いたいのは、たとえ二人が変態でも、二人のことは変わらず大好きですよってことです!」
「やだ嬉しい!」
「でもなんかちがう気がする…」
「そう、わたくしは何も気にしません!たとえ二人が変態でもストーカーでも軟体動物でもネコ型ロボットでも」
「なんたいどーぶつ」
「ちょっとは気にしてよ…!」
そう。そこは、薄暗い地下の廊下。
三人のうち、二人は肩でゼェハァと息をしている。
一方残り一人はキョトンと首を傾げている。その姿からは「何でそんなに必死になってるんですか?」と言う声が聞こえて来そうである。
かなり…かなりカオスな空間が今にも出来上がろうとしていた。
因みにアルカティーナが『ネコ型ロボット』と発言した辺りで約一名、「ネコ型ロボット…!?何だそれ欲しい」と呟いた護衛役がいたような気がするが、まあ
気のせいだろう。
そして、漸く静かになったと思われた三人はと言うと…ほぼ全員同時に大きく深呼吸をして、
「信じてお願い!私を信じてっ!私は!断じて!変態でも何でもないのよ!」
「それを言うなら私のことも信じてよー!」
「で、でもでもさっき『気を付けろ』って言われましたし…」
「「あんな男より私達を信じてよーー!」」
またもや言い合いを始めた。第2ラウンドか何かだろうか。そしてこれはいつ終わるのだろうか。
終わりが全く見えない…。
三人を取り囲む者全員がそう思っていた。
「信じてよ…って…いや、あのですね?わたくしだって二人のことは信じたいと思ってますよ?でも…」
「「でも?」」
「さっきから『信じて』とか『変態じゃない』とか言う割にはその……リサーシャがずっと棒読みなので」
「…リ、リサーシャのせいじゃないのっ!もうー!」
涙目になりかけの目でアメルダに睨まれたリサーシャは心の内で『やば。美少女の涙目やば!』と場違いなことを考えながらも、地面に視線を落とした。
そしてわざとらしく握りこぶしで床を叩いてこう叫んだ。
「くっ……!反論できない、だと!?!?」
そんなリサーシャを、その場にいる全員(約一名の天然は除くが)が冷たい目で見たのだった。
そして、冷たい目線にただ一人晒されたリサーシャは耐えられなくなったようにキッと前方を睨む。
そして何を思ったのかそのままガバッと土下座を披露すると、又もや叫んだ。
「すみませんでしたぁぁぁぁーー!」
場が、静まり返った。
いや、凍りついたと言った方が正確かもしれない。
取り敢えず、場は居た堪れない空気に包まれた。
しかしそんなことには気が付かず、リサーシャは顔を勢いよく上げると謎の弁解を始めた。
その表情は必死だ。
「だって仕方ないじゃない!私嘘つくの下手なんだもん!ティーナのこと馬鹿に出来ないくらい下手なんだもん!!棒読みになるくらい仕方ないのっ!あーーーもう認めます!認めますよ!!私は!変態です!はい!!終わり、ちゃんちゃん!」
言い終わるとリサーシャは、今度は何故か先程とは正反対に胸を張って踏ん反り返った。
まるで、何か文句でも!?と言っているかのようだ。
因みに、一同はドン引きである。
何故、侯爵令嬢ともあろう人がこんな公衆の面前で土下座をし、ましてや開会宣言ならぬ変態宣言をしているのか。
しかし、たった一人ドン引きしていない者がいた。
アルカティーナである。
彼女はぷくーっと頰をリスのように膨らませると、リサーシャに言った。
「もーっ!それならそうって最初から言ってくださいねー??無駄に皆さんを混乱させちゃいましたよ。それに、別に嘘つく必要なんてないじゃありませんか」
大有りだよ!!!!
誰もがそう思ったが、漸く言い争いに終止符が打たれそうだったために誰も口を挟むものはいなかった。
もう、どーでも良いから早く終わってくれ。
それが彼らの願いだった。
結局、アルカティーナによって場は元通り(?)に落ち着き、皆は冷静さを取り戻した。
「で、今からどうするのですか?」
わたくしはゼンに尋ねてみました。
何故って、非常に申し訳ないのですが皆さんがこれからどうする予定なのかなんて知らないからです。
ゼンはそんなわたくしに、嫌な顔一つせずに答えてくれました。
「そろそろ第2騎士団がここに来るはずなんだ。だから、俺たちはそれまでここで待機。そのあとは、第2騎士団と合流して城に帰るって段取りだな」
ゼンの言う「ここ」とは、さっきまでアメルダ達がいた部屋の真ん前の廊下のことです。
わたくしがアメルダ達を救出している間に、第1騎士団の人が、第2騎士団のところまで行って、ここまで来るよう伝えたそうです。
「成る程成る程。ありがとうございます。因みに第2騎士団の皆さんは何故遅れて来るのですか?」
そう言えば、元々一緒に行動していればよかったのに、何故第1騎士団と第2騎士団は別行動をしたのでしょう。
「あぁ。それは、保険だよ。俺たちは正面から侵入しただろ?でも、正面の護りが固い可能性は高い。だから、第2騎士団には裏口から侵入してもらった。裏口はここから少し離れてるらしいからな…時間がかかるんだそうだ」
「おー成る程!」
凄いです!やっぱり騎士様ともなれば念入りに作戦を立ててから出陣するのですね!!
わー!カッコいいです。
ぱちぱちぱちー!
アルカティーナが一人で拍手をしたその時の事だった。
「あ!第2騎士団の奴らが来たぞ!」
「おっそいぞおまえらー!」
「お疲れ!」
タイミングよく第2騎士団の方々が到着したようです。これで漸くお城へ戻ることができますね!
あ、でもその前に潰れたまのラグドーナ様を回収して……
『警告、警告。侵入者を確認!任務を実行します』
「「「……え??」」」
突然流れたアナウンスに、そして聞き覚えのあるそれに、思わず固まりました。
え?何で??今わたくし達何も……あ!
よく見たら第2騎士団の方々が立ってる位置、例の部屋の真ん前じゃないですか…!?
アルカティーナは血相を変えて呼びかける。
「第2騎士団の皆さん!早くそこから離れてください!」
その呼びかけで、第1騎士団騎士団の人たちも漸く気付いたのか、急ぎ彼らを端へと追いやった。
「早く隅にやれ!」
「早く!!」
「な、何だ!?」
「今のアナウンス、何だったんだ!」
場に再び混乱が押し寄せます。
今度はどんな物が来るかわかりません。
攻撃して来るかもですし、追いかけて来るかもです。
そうなると太刀打ちできません!
…わたくしが何とか出来るかもですけど。
取り敢えず何もしないよりマシだろうと言うことで、騎士様達は武器を構えて、来るであろうロボットを待ち始めました。
そして暫くするとやはり、ドドドド…と地響きが襲ってきました。その音はどんどんと此方に近づいてきて、わたくし達の目の前で止みました。
恐る恐る目の前で止まったその音の主を見上げ……わたくし達は絶望しました。
そこにいたのは、ある意味予想をはるかに超えるロボット。いえ、ロボット自体はさっきと何一つ変わった様子はありません。
「キョエエエ!ケッケケー!ワタシハ、マドモアゼル!キョエエーー!」
と奇声をあげていることから、そしてさっきと同様謎のダンスを始めたことから、恐らく先程の個体と同じものだと思われます。
問題は、その数です。
マドモアゼルちゃんが、パッと見ただけでも恐らく20体はいます。
「う、うわぁーー!なんでこんな大量にキモロボットがぁー!」
「いやぁーー!キーモーイーー!」
「キョーーーーエーー!ケッケケー」
「「「「「ケッケケー!」」」」」
「なんだこいつ、キモッ!」
「しかも硬いぞ!」
「「「「「ケッケケー!!」」」」」
「「「「うるせぇ!」」」」
辺りは阿鼻叫喚。
余程マドモアゼルちゃんが怖いのですね。
わたくしはけろっとしておりますが、これは前世のお陰でしょうね。前世にはもっと高性能なロボットが沢山溢れていましたから、このくらいでは腰を抜かすようなことはありません。
ですから、隣にいるリサーシャも別段怖がる様子は見られません。「何こいつキッショ!」とは叫んでいますが…。
因みにアメルダはもう可哀想なくらい真っ青で震えています。そうですか、「べっ別に怖くなんてないけどね!ティーナが怖いかと思ってね!」ですか。あらあら。大丈夫ですよ?そんなに不安そうにせずとも友達から繋いでくれた手を振り払ったりしませんから!
アメルダの手を、安心させるよう強めに握っていると前方からゼンが姿を現しました。
「お嬢!何度も悪いが、このロボットの大群、何とかならないか?俺たちじゃ太刀打ちできない」
「………。そうですね…出来なくは、ないですよ」
「そうか!悪いが頼む」
「…わかりました!任せてください」
力強く頷くと、アルカティーナは急いで力を発動させた。
今回は対象の数が多いので、その分手間も数十倍になります。
ですが、これはわたくしにしか出来ないこと!
絶対に成功させますよ。
ゆっくり時間をかけて、アルカティーナはクネクネダンス真っ最中のロボット達の真下に魔法陣を編み出した。
「いきますよ!水柱よ、姿を現せ!」
バシャッと大量の水が動く音と共に、各魔法陣から丁度ロボットを丸々包み込めるくらいの水柱が現れる。
水柱は暫く、グルグルとロボットの周りを蠢いてから、今度は音もなく姿を消した。
そして、残されたロボット達はと言うと…
「「「ピー……ガガガ…」」」
一つ残らず再起不能の状態となっていた。
「「「「おおーー!さっすがぁ!」」」」
騎士達から歓声が上がったのは、本日何度目のことだろうか。
アルカティーナは苦笑した。
でも、良かったです。
これでまだロボットが動くようなら対抗処置がもうありませんでしたから。
前回のような火属性の攻撃は、騎士様達が大勢いるこの場ではあまりに危険ですからね。
安心しているとゼンが笑顔で頭を撫でてくれました。
「助かった。本当にありがとな」
「いえいえ!」
ふふふ、褒めてもらっちゃいました!
アルカティーナはご機嫌のまま、再びロボット達を見つめた。
うんうん、もう動けそうにないですね。本当の本当に成功です!
それに、ロボットの外観には何も支障ないです!
よかったー!
満足げな笑顔で、アルカティーナは再び力を発動させる。
「テレポート!」
次の瞬間、起動不能状態のロボット、約20体が全てその場から姿を消した。
慌てたのは、ゼンだった。
何故テレポートした!!
と言うか何処にテレポートしたんだ!?
お嬢のことだ、きっとロクでもないことを考えてるに違いないっ!!
焦りに焦ったゼンは、主人を問い詰める。
「お嬢…。あのロボット、何処にやった!?何処にとばした!?」
しかし。頼むから正直に教えてくれ!というゼンの思いは儚く散ることになる。
「ふふ、秘密なのですよー」
アルカティーナはそう言うと、頰を染めて微笑んだ。
話の通じない天然に、ゼンは絶句したのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
マドモアゼルの行き先は、この事件が解決した後のお話で明らかになります(´∀`)ワクワク?
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