聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

せめて手紙のやりとりの許可を!

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 『ユグドーラ・テンペス様にお会いして是非ともお話がしたい』

 父マリオスの仕事が漸く落ち着いて来た頃。
詰まる所、例の事件から数週間がたったある日。アルカティーナはこの旨を父に話した。
 基本放任主義のクレディリア家だが、アルカティーナの男性との交友に関しては全くもって放任主義ではないため(主に親バカ&シスコンのせい)、アルカティーナの交友関係を管理しているマリオスに許可を取る必要があったのだ。因みに、女性との交友は全くもって管理されていない。管理されているのは男性とのものだけである。
 そして、元々ダメ元で言ったそのお願いは矢張りバッサリと反対された。

 「ユグドーラ殿?ダメだよティーナ。幾ら何でもそれは許可できない」

 自分で言うと何かが終わる気がしますが、お父様は極度の親バカ。考えずとも年頃の少年との面会が反対されることくらい予想できます。ですが!それでも、わたくしは彼とお話ししたいのです。是非ともあの素晴らしいロボットちゃんについてお聞かせ願いたいのですよ!ですから、いくら相手がお父様とはいえ折れるわけにはいけないのです。
気合を入れ、アルカティーナは反撃に出る。

 「ですがお父様!わたくしは未だまともに同年代の貴族男性とお話ししたこともなく…!」

 「え?別に良くない?」

 …キョトンとした顔を向けないでください、お父様。
あ、因みにゼンは『同年代の貴族男性』から除きますよ。 同年代の貴族男性ではありますが、立場上はわたくしの護衛役ですからノーカンなのです。
むむむ、でも確かにまだデビューから半年程しか経っていませんから、焦る必要は全くありませんよね。ですがやっぱりわたくしとしては不安なのですよ。だってこのままだと、免疫のないままリリアム学園に入学ですよ?見える…見えます。わたくしの未来が…!
偶然クラスメイトの少年に話しかけられるわたくし!どもるわたくし!対応に困る少年!!気が付けばわたくしはクラスでぼっちに…!!!そしてわたくしの影のあだ名はいつしか『◯組の、何か暗くていつもぼっちの人』になってしまうのです!!!!
まぁ想像ではありますが、あり得ない未来ではないでしょう。こんな未来は御免こうむります。タダでさえデッドエンドがちらついている人生なのに!!

 「いえいえお父様!これからの社交の場において、そしてわたくしの将来において、男性との交流は必須です!ここはユグドーラ様と…」

 「何を言っているの?ティーナ。ティーナは一生涯、そんな交流をする必要はないよ?」

 いやいやいや、お父様お気を確かに!!クレディリア公爵家の長女たる者がそれは不可能でしょうに…。そして今度はキラキラの笑顔ですか、そうですか。眩しすぎてちょっとしんどいのでこっち見ないでください。

 「お父様…それは流石に無理ありますよ~」

 ため息まじりにそう返すと、お父様はすっと笑顔を引っ込めました。そして、顔つきはそのまま深刻なものへと変わっていきます。

 「反対する理由は何もそれだけじゃないよ。ここだけの話、実は例の事件、まだ片付いていないんだ」

 「えっ…」

 「テンペス公爵家の人間がラグドーナ以外関与したいなことだけは事実だ。もうテンペス家には事件の影すら残っていない。とても平和な状態とも言えるよ。だが、問題はラグドーナだよ。よくよく調べると裏で彼を操っていた人物がいたみたいでね…そいつが親玉だ」

 やっぱり。予想はしていましたが…まだ裏がありましたか。アルカティーナは忌々しいとばかりに目を細める。

 「その親玉と言うのは…そんなに危険な人物なのですか」

 マリオスは重々しく頷いた。その表情は極めて固い。

 「ああ。これは僕とあと数人しかまだ知らない事だからあまり大きな声では言えないんだけどね。その人物は違法薬物の運び屋みたいなんだよ」

 「…薬物!?それって」

 「かなり危険、だろう?」

 アルカティーナはこくこくと頷く。
かなりなんてものじゃありません。極めて、非常に、危険です。違法薬物と言うのは前世にも存在しましたが、世界が変わっても矢張り存在します。ゲームの世界なんだからその辺りは夢を見せてくれてもいいのに…変に生々しい設定の世界なんだから。違法薬物は人を狂わせ、狂わせに狂わせた挙句に破滅に追いやり、最悪死に追いやるのです。そんな人物が一枚噛んでいたなんて…考えただけで背筋に冷たいものが流れましたよ。

 「その人物はつまり、誘拐したリサーシャとアメルダにその薬物を服用させようとしていたと言う事ですか?」

だったら、なんて危ないところだったのでしょうか。
悪寒が止まりません。

 「いいや、そこまでは流石に分からないんだけどね。ただーー…ラグドーナは犯行時には既に薬物中毒者だったとだけ言っておこう」

 ラグドーナ様は…ラグドーナ・テンペスという青年は。元より世間では評判の良い人でした。そんな方が何故?とは思っていましたがまさか…まさか、そんな事になっていたなんて。
額に手をあてがうアルカティーナを見つめながら、マリオスは静かに声を紡いだ。

 「だからね、そんな危険にティーナを二度も晒すわけにはいかないんだ。可愛い一人娘を。だから、お願いだから今回はお父様の言うことを聞いてよ」

 「っ…お父様!」

 なんてこと。お父様は元々そう言うことを含めて反対していたというのに、考えなしのわたくしと来たら…!まだまだ危険の残る中ユグドーラ様と交流したいなんてお願いするんじゃなかったわ!仕方ありません。テンペス公爵家にはまだ危険因子が…って、ん?お父様さっき、テンペス公爵家はとても平和~とか言ってませんでした?と言うことはユグドーラ様と会うくらい良いのでは?危険因子関係ないですし。あ…危ない危ない。危うく雰囲気に流されるところでした。『っ…お父様!』とか言っちゃいましたよ!もう!

 「もうお父様ったら!流されかけましたけど、それとこれとは話が全く別じゃないですか。テンペス公爵家はとても平和なんでしょう?もしかしてお父様…このまま流されることを期待してました?」

 「何故バレた!」

 「やっぱりーーー!じゃあ良いじゃないですかユグドーラ様との面会くらい!」

 「ふっ…何を言っているんだい、ティーナ?まだ一つ、彼には危険因子が残っているじゃないか」

 「?」

 危険因子?もう一つ?何かありましったけ。ユグドーラ様は本当に悪い噂のない方ですから、ないように思うのですが。

 「ユグドーラ殿はティーナの敵じゃないか」

 あ、ダメだ。この人にはまともな言葉は通じない。
アルカティーナは、この瞬間そう悟った。
しかし、そうは言ってもアルカティーナとて引くわけにはいかないのだ。まともな言葉は通じないのはわかったが、何も言わないよりマシと考えたアルカティーナはまたしても反撃に出た。

 「わかりました!面会はもう諦めますから、せめて手紙のやりとりの許可を!」

 ふふ、どうですかお父様!精一杯の譲歩をしてあげましたよ。さぁ、さぁ!許可してください!
アルカティーナは心の中で許可が降りるに違いないと舞い踊っていた。が、しかし。彼女の父は想像以上の親バカだった。

 「ダメだよ!手紙なんて!!」

 「な、なんで!?」

 「ラブレターが送られて来たらどうするの!」

 「まともに喋ったこと無い相手にそんな物送る変人がいるものなら会ってみたいですよ」

 会ったこともない相手にラブレター?それは流石に誰もしないでしょう…。お父様の親バカにも困ったものですね。
呆れて溜息をつくアルカティーナ。しかし、その斜め上を行くのが彼女の父である。マリオスは何故か、何故かドヤ顔で、そして胸を張って答えたのだ。

 「いるよ、ここに!」

 「え」

 「僕、喋ったことなかったけどマーガレットにラブレター送ったもん」

 「既に会っていたなんて!しかもそれが実の父だなんて!!神はいないのですか!」

 アルカティーナは、実の父の予想外すぎる過去に絶叫したのだった。
でも、それはあくまでも過去です。お父様だって流石に今となっては恥ずかしい過去なはず。後悔してるはず!!
そう信じ、アルカティーナは問うた。

 「因みに後悔は?」

 「してないよ!」

 マリオスの純粋な笑みに、アルカティーナは頭を抱えることとなった。

 「どうしましょう。実の父が変人過ぎるんですけど」

 結局、その数十分後。
アルカティーナはユグドーラ・テンペスとの手紙のやり取りの許可をもぎ取るだけもぎ取って、部屋に戻った。
アルカティーナにはもう、マリオスとまともな会話ができる気がしなかった。でも、アルカティーナの心持ちは決して暗いものではない。
何故なら、どんなに変人でも。どんなに話が通じなくとも。どんなに親バカでも、シスコンでも。
マリオス達は、アルカティーナの愛する大好きな家族だからだ。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

〈アルカティーナvs.マリオス〉でお送りしました本日のバトル。如何でしたでしょうか。
 まあ読んでの通り今回は「アルカティーナがユグドーラとの連絡手段をもぎ取る回」ですね、はい。
この先のお話において結構大事なお話となっておりますよ~。タブンネ!…一部、黒歴史をドヤ顔で暴露した方がいらっしゃいましたがね!!

 さてさて、話は変わりますが。
この作品についているタグの〈R15〉について!
これはですね、『前世編』においてちょっと残酷なシーンがあるから付けたものだったりするのです。
こんなシーン読んだら15歳未満の純粋ガールたちはこの世の汚さに絶望し(15歳以上の方の心が汚れていると言っているわけじゃないよ!純粋な人もいるよ!私とか、私とか…ね!)、生きる希望を失うに違いないと思ったんですよ。(嘘ですここまでは思ってません)
でも、最近もういいかなーと思えて来まして。
R15外してもいいかな~と。
でも、何か怖いから迷ってます笑笑

以上!どうでもいい?雑談でした。
お読みいただきありがとうございます!
感想、誤字脱字のご指摘、いつでもお待ちしております。ではでは。
水瀬こゆきでお送りしました(*´◒`*)

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