聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

ロゼリーナの策略

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 あり得ない…あり得ないわ。
そんな内容をぶつぶつと呟きながら、ロゼリーナは机に向かっていた。机の上に乱雑に広げられているのは勉学のものではない。表紙に『聖霊のアネクドート攻略について』との文字が書き殴られたノート類である。ひとつは『ディール様』、ひとつは『ステファラルド様』、またもうひとつには『ローザス』とキャラクターごとにノートが分けられていた。そのノート類の一冊である『ディール様』のノートを開きつつロゼリーナは忌々しげにピンク色の唇を歪ませる。

 「あり得ないわ。どうしてアルカティーナのヤロウが聖女候補なんて言われてるのよ…」

 この世界が乙女ゲーム『聖霊のアネクドート』の世界だと気が付いてから、ロゼリーナは覚えている限りの情報をノートに書き出していた。その作業の過程で、わかったことがある。 

ひとつは、自分の記憶に抜けがあると言うこと。
ゲーム補正なのか自身の記憶力が乏しいのか定かではないが、あれ程大好きだった最推しキャラ…隠しキャラのルートのストーリーや顔、それどころか名前すら思い出せないなんて只事ではない。さらに、別キャラのルートストーリーについても所々思い出せない。 

ふたつめ。
いくらゲームの世界だとは言え、ここはあくまでも現実世界だということ。
ゲームにはなかったはずの設定が追加されていたりするから、これもすぐわかった。というか、前世を思い出した時点で察していたことでもある。
いくらゲームのキャラクターとは言え、ゲームみたいに皆んなが選択肢通りに動くことはあり得ない。
それは常識。
私は、昔読んでたラノベとかによく出てきた、勘違いヒロインちゃんにはならない。
なるつもりは一切ない。
だって、誰だって嫌でしょう?あんな破滅ルートを迎えるのは。
でも考えてみたら難しい。
ゲームと違って、皆んなに自我がある。
ヒロインに自我があるように、攻略対象にも、悪役にも、サポート役にも。 
モブにだって、自我はある。
そう考えると、いくらゲーム補正があるかもしれないとは言え、私の望みを叶えるのは難しそう。

 そう、思っていた矢先のことだった。
あの忌々しい存在に追加されたイレギュラーな設定について知ったのは。

 「あぁ!本当にどうなってんのよ!あれね、きっとあっちも私と同じ転生者ってやつね。お決まりパティーンかよ…!!」

 ロゼリーナは『ディール様』ノートに何かを書き込みつつ頭を掻きむしった。ついでにため息も忘れない。
 ヒロインにあるまじき姿だけど、これくらい許してよね。だってまさか、ヤツが聖女候補になってるなんて夢にも思わないじゃない?ましてや『聖なる歌姫』なんて二つ名が付いてるなんてもっとよ…!
大体なんでよりにもよってアルカティーナ!?
アルカティーナって、前世でプレイした乙女ゲームの中でも一番ウザくてずる賢くて目障りな悪役キャラだったじゃない!ただでさえ難しい野望が更に遠く……って、ん?待てよ?遠くなるどころか近いのでは??
あの邪魔者アルカティーナが転生者かつ聖女候補ってことは無駄に私の邪魔はしてこない…はず!だからうまくアルカティーナの懐に入り込んで仲間に引き込んじゃったらこっちのもんじゃない?
そうだわ、そうしましょう!どうせリリアム学園で会うだろうし、今の内に算段たてときましょ!

 あ、私の野望は何かって?

ふふ…隠しキャラの攻略よ。
私はラノベの勘違いヒロインちゃんみたく逆ハーは狙わないわ。
だって一途だもの!


 そんな時、部屋にノック音が響いた。

 「ロゼリーナお嬢様。本日よりお嬢様の護衛役となられたローザス様がお見えになりました」

 ああ、そう言えばヒロインの護衛役って彼なんだったわ。なんだかんだ初めてね。ゲームのキャラクターと会うのって。
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