聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

ロゼリーナの困惑、そして…

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 ニヤリ、とロゼリーナは笑みを浮かべた。
乙女ゲームのヒロインに相応しい小動物のような可愛らしいその容貌は、さながら悪役のもののようになっているだろう。しかし、彼女はそれを頭では理解していても、やめることはできなかった。

 「初めまして、私はローザス・メトリスと申します。不束者ではございますが、本日より貴方様の護衛役になりましたので、よろしくお願いいたします」

 ゲーム通りの声、ゲーム通りの顏、ゲーム通りの表情、ゲーム通りの仕草、ゲーム通りのセリフ。
ああ、なんてこと!
ああ、なんて素晴らしい!
これが…これが、乙女ゲームの世界!!

 ロゼリーナは目の前で恭しく腰を折ったローザスを見下ろしながら歓喜に打ち震えた。そしてその後、顔を上げたローザスの表情を見て、を確信したロゼリーナは悪役のごとく笑った。

 ーーああ。やっぱり。ゲーム通りだわ…

 こちらを真っ直ぐに見つめるローザスの顔からは、不安が見え隠れしているのがわかる。
ロゼリーナは、彼の表情の原因を知っている。
ロゼリーナは、どうすれば彼が表情を和らげるのかを知っている。
ロゼリーナは、どうすればローザス・メトリスがのか、知っている。

知ってるって、強い。

 思わず悪役の笑みを深めてしまったロゼリーナは、慌てて表情をヒロインらしいそれに変えた。流石に初対面でこの表情はマズイと考えた結果だった。

 「初めまして。私はロゼリーナ・アゼルです。こちらこそ不束者ですけど、よろしくお願いします」

 大方ゲーム通りのセリフを言ったところで、ロゼリーナは心の中でほくそ笑んだ。

 ーー見てなさい!その固い表情を木っ端微塵にふにゃふにゃにしてやるんだから!

 「ローザス様は最近、不治の病にかかってしまったと耳にしました。お身体を大切に、無理はしないでくださいね?」

 「…!ご存知だったのですか…」

 ローザスはその表情を驚愕に染めた。
 そう、ローザスは不治の病にかかっている。
恐らくゲームでは、発病は一年くらい前だったと思う。かかりたくもなかった病に巣食われた彼は、聖騎士らしい誠実な面に加えて、病という影がある。そこが何ともギャップがあって、人気なキャラクターだった。普通、ファンタジーものの乙女ゲームで『騎士』要素と『病』要素は混ぜないだろう。だが、『聖霊のアネクドート』はこういった、矛盾していそうでしていない、ギャップありまくりな意外なキャラクター性の登場人物たちで溢れかえっていた。まあぶっちゃけると皆んなキャラが濃いのだ。
 さて、話外れたが、ローザスは不治の病を抱えている。そんな彼の好感度を上げるには、病のせいで常に不安定なその心を支えるような言葉が必要なのだ。
正直、ローザスはロゼリーナの好みじゃない。
だが、ロゼリーナはローザスの好感度をある程度…友情エンドになる程度にはしておく必要があるのだ。何を隠そう、ロゼリーナの推しである隠しキャラ様を堕とすためだ。彼は一番、攻略難易度の高いキャラで、メイン攻略キャラ全員の好感度を友情レベルにしなくてはならない。簡単に思えるだろうが、『聖霊のアネクドート』は選択肢がいちいちクソ難しいことで有名だった。舐めてかかると痛い目に合う。

 ーーだから、いくらセリフがわかっているとはいえ、ここは慎重にいかないと…。

 ロゼリーナは微笑んだまま、そのセリフをゲーム通りに告げた。

 「大丈夫。私が支えて上げます。護衛役だからって気を使わないでくださいね。悩みがあれば、相談してください」

 あまりにもストレートすぎるその言葉は、普通の乙女ゲームで発すると、『お前に何がわかる!!』とか『黙れ!馴れ馴れしいんだよ!』だとか、攻略キャラにキレられ、そして好感度が下がること間違いなし。
だがローザスにはこの言葉がクリティカルヒットするのだ。だって彼は、『病』を抱える青年にしては、あまりにも真っ直ぐで純粋だから…。

 そしてローザスは、ロゼリーナの思った通りになった。ロゼリーナの言葉を聞いた瞬間、不安げだった表情を僅かではあるが明るくさせて御礼の言葉を告げたのだ。

 「ありがとうございます…!」

 その嬉しそうな声色に、ロゼリーナは本心から微笑んだ。誰かに御礼を言われるのは、前世の記憶を取り戻してからも好きだった。

 ーーよかった。私はこの人の役に立てた。

 穏やかに微笑むロゼリーナに、ローザスは語った。

 「すごく嬉しいです。本当に、辛かったので」

 「そうでしょうね…」

 目を伏せて、ロゼリーナは相対を打つ。
ローザスの病は、結論から言うと治らない。
世界一の名医でも治せない。
でも、一つだけ。
彼の病を完治させる方法がある。
それはーーー…

 
 「でも、どうして私が不治の病女性恐怖症だってご存知だったのですか?」

 そりゃ知ってるわよ。
だってゲームで嫌という程見てきたもの!ローザスが心臓の病で悩む姿を…!!
そう、心臓病で!
心臓…ビョウで……。…………………。
あれ?
今この人、女性恐怖症って言わなかった?
女性恐怖症?
女性、恐怖症?
ジョセイキョウフショウ????
 
 「はい??女性、恐怖症????」

 ふいをつかれたロゼリーナは素っ頓狂な声を返してしまう。女性恐怖症?何だそれは。私は確かに『不治の病』とは言ったし、女性恐怖症は『不治の病』になりうるかもしれない。でも!だけど!!

 ーーローザス・メトリスはのはずでしょおおおおおおおおお!?!?なんで設定変わってんのよ!!

 「待って!待って?貴方の、病名は。女性恐怖症?」

 気が動転しているロゼリーナに対して、ローザスは極めて落ち着いていた。少し悲しげに答える。

 「はい」

 「ほっ他に健康に異常なところは?」

 「ないです」

 「どこにも!?」

 「断言できます。ないです。前の健康診査で、『君~素晴らしいよ!最っ高に健康だねぇ!』とお褒めの言葉まで…」

 「はぁあああ!?!?」

 ロゼリーナは絶叫した。

なんで、なんでなんでぇ!?
確かにここはゲームの世界だけど、ゲームじゃない。
それはわかってる。
でも、キャラクターの重要な闇部分が変わってるってドユコト!?!?おかしくない!?
なんで!?
原因が無いわけがない。
ここはゲームの世界だ。
誰かが干渉しなければ、こうはならないはず…。
てかどーしよ。
私めっちゃ知ったような口聞いちゃったわよ!?
ご、ごめんなさいローザスぅ!!申し訳ないっ!
まさか闇がそんなに軽かったなんて!

 ロゼリーナは、物凄く混乱していた。
だから、ローザスの前だと言うことをすっかり忘れて、混乱のあまりグルグルとその場で回転を始めてしまった。それを見たローザスは当然おどろいた。

 「ど、どうなさったのですか!?大丈夫ですか?」

 慌てふためくローザスを見ていたら、何だか自分が混乱しているのがバカらしくなってきた。
それ以上に、自分を見てこんなに慌てている人がいると思うと、どうでもよくなったのだ。

 「ご、ごめんなさい!大丈夫よ。今日はもう疲れたでしょう?今日は一先ず護衛はいいから、休んでちょうだい」

 「!はい。お気遣いありがとうございます」

 「このくらい当然よ!」

 取り繕いながら、ロゼリーナは落ち着きを何とか取り戻す。部屋から退室したローザスが扉を閉める。彼が侍女に連れられて自室へと案内されていく足音を聞き届けてから、ロゼリーナは近くにあったソファーにダイブした。ソファーの上にあるお気に入りのクッションを口に当て……

 そして、叫ぶ。

 
 「誰だよぉぉーーーー!!こんな超重要キャラ設定変えたのおーーー!!誰だよこんにゃろぉーーーーーーーーーーーーー!!!!!わかってる!どうせまた転生者だよ!ちくしょーーー!!」

 
 同じ頃、キリリア侯爵邸では…

 「「ハックション!」」

 「あらあら、リュートもリサーシャもどうしたの?兄妹揃って仲良くクシャミだなんて…」

 「「仲良くない!!!」」

 「あらあら、ふふ…。暖かくして寝るのよ~」

 「「はい」」

 「やっぱり仲良いじゃない」

 「「だから、仲良くない!!!」」

 元凶となった約2名が、同時にクシャミをするという怪奇現象が起こっていた。

 
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 どうもどうも。水瀬です。

 私は読者の皆様がどういった趣味で、どんな年齢層で、そもそも男性なのか女性なのか(女性が殆どだとは思いますが)、全く知りません。
ですから、皆様にこの話題が通じるかどうかすら分からないのですが、敢えてお話しさせていただきます。
だって水瀬が話したいから。

 さて、その話題というのは『乙女ゲーム』の話です。
この作品のテーマでもある『乙女ゲーム』ですが、皆様はプレイしたことはありますか?以前も言いましたが、私はないです。が、プレイしている知人がいるので結構知っています。
知人がプレイしていた『乙女ゲーム』の中でも最も印象的だったものがあります。
それは、『攻略キャラが全員ドS』が売りのゲームでした。ルートに入ると拷問室に連れていくキャラだっていました。選択肢を間違えても、間違えなくても、漏れ無くヒステリックを起こして怒鳴ってくるキャラもいました。(声はイケボ)
正直、『こいつ、なんちゅーもんプレイしとんじゃ!!(水瀬はこんな口調ではありません)』と思いつつプレイ画面をガン見していました。

その『乙女ゲーム』は、全員ドSな上、暇さえあれば主人公の血を吸ってくる(攻略キャラは吸血鬼なのです)という鬼畜ゲーなのです。かつ、攻略キャラと両想いになっても最後の最後でキャラが殺されてしまうとか、バッドエンドでは一家皆殺しとか、そんなのが普通にあった鬼畜ゲーでもあります。
そんなゲームですが、実はその『乙女ゲーム』。
めちゃくちゃ人気なんです。
言っちゃえば、アニメ化してるレベルで売れてるんです。凄くないですか?日本人の趣味嗜好ワカラナイ!
 
 さて。水瀬はこの話を通して何を言いたかったのか?
それは、非常~にくだらないことです。

 私、思ったんですよ。


 「『全員ドS』がキャッチコピーでバカ売れするなら、逆転の発想で『全員ドM』でもバカ売れするんじゃない?よっしゃ出番だリサーシャ!!あ、だめだ、こいつ思考回路以外はおっさんじゃないんだった」


 
 …と。

 『全員ドM』、売れると思います?
買いたいですか?
買いたければ是非水瀬に仰ってください。『全員ドM』のゲーム、作るんで。笑笑。
因みに私は死んでも買いません。

 書いてから思ったのですが、ここまで情報出しちゃうと、話題にあげた『乙女ゲーム』の題名くらい、わかる方にはわかるのでは??

 いらっしゃれば、嬉しいなぁ。


 こんなくだらない雑談の後ではありますが、水瀬より感謝の気持ちです。
更新していない間に、またブックマークが増えていました…。ありがとうございます、。こんな作品読んでくださって本当にありがとうございます。
キャラ皆んな濃くてごめんなさい。

 
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